いつから?と問われればハッキリと答える事ができる。それは彼が居なくなってからじわじわと私を蝕み始めた。
最初の一ヶ月は彼を忘れようと必死に仕事に没頭した。寄せられる救援要請にこれでもかってくらい足を運んだ。身体は悲鳴を上げ、夜は死ぬように眠った。
二ヶ月目、長時間の睡眠が取れなくなった。理由はわかっていたので、病院には行かなかった。精々三時間しか寝る事が出来ず、仕事の後時間を持て余し夜な夜な酒場へと繰り出すのが日課となる。浴びるように酒を飲み、手頃な男と一夜を共にした。
三ヶ月目、眠る時間がますます減り、二時間の時もあれば三十分しか眠れない日もあった。そんな日は三十分を何度かに分けて眠ったりもした。食事も取れなくなり、栄養サプリを飲み込む毎日。そんな事を続けていれば脳は麻痺し、起きているのか寝ているのか。食べているのか飲んでいるのか。が分からなくなった。そしてふとした時、思うようになったのだ。
疲れた……。
生きる事全てに、それは呼吸する事さえも億劫に感じた。そしてそれはイコールとなる……。
「ほら、着いたぞ。お嬢さん」
掛けられた声に、はっと意識を戻す。クザン大将をなんとか誤魔化し、元帥に挨拶をしに行く。と言った私のエスコートを勝手でた男は、大きな扉の前で立ち止まる。
ぼーっとした私の意識を取り戻す為に掛けられた声。返事は要らないようで、言葉を待つよりも早くクザン大将は軽く扉をノックした。
「あー……セツちゃん、連れてきましたよ」
クザン大将は入室の許可を聞く前に扉を押す。大将がそれでいいのか。と思ったが、彼の掲げる“正義”は“だらけきった正義”。それは海軍が周知済み。それなら良いか。と変に納得した。
「失礼します」
一応の作法をして扉を潜り一歩横にクザン大将がズレる事により、机の前に立つセンゴク元帥の目が向く。
頭には変わらずカモメが居て、三つ編みにされた髭は最後に見た時より少し長くなった気がした。
「久しぶりだの……セツ」
「はい、ご無沙汰しております」
「
本部を避けて…いや、わしを避けておったようだが、息災であればそれでいい。と思っていた……」
「………私は元気ですよ」
いつもなら会ってすぐ優しく微笑みで、煎餅を無理やり渡してくるセンゴク元帥。それはまるでおじいちゃんみたいで……だが、今、目の前に居るセンゴク元帥は、あの時とは違い眉を下げ悲しげに私を見つめている。その目には憐れみさえ感じた。
何が言いたいのかわかっている。どうせクザン大将が言った事とほぼ同一だろう。私はただ困ったように笑みを浮かべる。
追求しないで欲しい。放っておいて欲しい。迷惑は掛けないから……。
そんな事、言えるはずもなく。ただ作った笑みを浮かべ、前にはセンゴク元帥、後ろにはクザン大将。二人に挟まれた意心地の悪い空間に奥歯をギリッと噛み締めた。
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