たからもの
これを君に贈ろう、
と差し出された小箱に、どきどきしながら開けてみるとそれは指輪ではなかった。期待してしまった自分に少し嫌悪を抱いたが、ともあれ男性から贈り物を貰うのは初めてだったから、驚いたし嬉しかった。
黒いリボンを解いて蓋をあけると、暗いオレンジのような紫のような不思議な色の石のネックレスが入っていた。
「これ、なんですか」
と問えば「石だ」と返される。まぁそんなことはわかっている。つまり教える気がないのだろう。
「変な色ですね」と言うと、ニタリと笑う。ああこれはあれだ、なにか策があるときの含み笑いだ。「つけてやろう。おいで」と呼ばれる顔は、やっぱり勝ち誇るような自信で満ちている。
おいで、はずるい。頬までとはいかないけれど耳がじんわり熱くなったのがわかる。こういう時、ああやっぱりこの人のことが好きなんだなぁと思って、恥ずかしさが増す。
「髪をあげたまえ」
そう言われて両手で髪を持ち上げると、彼はネックレスのチェーンを指に挟んで、向かい合う。えっ、こういうものは、後ろからつけるのでは、と思っている間に距離を詰められて、ネックレスを挟んだままの指先がうなじをなぞる。
「ん…」
くすぐったさにふるっと身体を震わすと、そのまま引き寄せられ、キスをされた。
澁澤さんの唇は少し乾いていて、チクチクするから反射的に舐めてしまった。彼は、多分、興奮したのだろう。呼吸を奪うようなキスを重ね、息が上がってきた頃に、ぱっ、と手を離す。
「はは、真っ赤な頬の方が目立っているがまぁ、よく似合っている」
「…あ、あり、ありがとうございます……」
顔を覆ってうつむきながら、「おてあらい行ってきます」と席を立った。「一人でするなら私も連れて行け」と言われたのでしないですと叫んでトイレに駆け込み大きく息を吐き、ゆっくり熱を冷ます。
いいようにおもちゃにされている、と思いながら手を洗い、顔を上げた。もう赤みはひいたかなと、思っていたら、首元の贈り物が全く違う色味を帯びていることに気づく。
また全力で走り「しっ、しぶ、しぶさわさん!これ!!」というと、また面白そうにニタリと笑う。
「ああ、変な色、だっただろう?」
「あの、これ、しぶ……さわ、さんの……めと、おんなじ…」
「柘榴石だよ。不思議な石だ。君の肌と重なると燃えるような赫になる」
「それ、は、あの…澁澤さんが、燃えている、と…」
「欲しがりだな。虫除けだ。君の胸元で常に監視している私を忘れてくれるなよ」
そう言った澁澤さんは、立ち上がって真っ赤な柘榴石に唇を落とす。
「冷ましてきたのではないのか?茹で上がっている」そう言いながら、とん、とん、と綺麗な弧を描いた唇を二度叩き、私に触れろと催促をしている。
「おくりもの、ありがとうございます」と言うと、「早く、私は気が短い」と急かされて、顔を近づけるから、わずかに唇を触れさせると「焦らすな」と甘い速度で吸い付く。
胸元に刻まれた所有の証が、鏡を見るたびに彼のキスを思い出させる。嗚呼罠にかかったと思う。外すのもきっと彼の手で、その時は衣服すら身につけていない自分を想像したら、「君は矢張り欲しがりだな」と笑われた。
その日はきっともうすぐそこなのだろう。