今日は誕生日で、沢山の友人からいろんなものをもらった。
けれども肝心の、そう、私が世界で一番大好きな澁澤先生からは何も貰えていなかった。
HRのあとあっという間に教室を出て行ってしまったから声をかけそびれて落ち込んでいたら、中庭の向こう側の東校舎。廊下を歩く真っ白い毛玉を見つけて、私は全力で走っていった。
「はぁ、はぁっ、ん!先生!」
「何を喘いでいる。学業に専念するのが学生の仕事だ」
「喘いでないです!!!!息継ぎ!!」
「私の見間違いでなければ君は先刻西校舎にいたはずだが」
「先生がいたから中庭飛んできました!」
「君は人間ではなかったのだな。バッタかなにかか」
「モモンガとかでよいのではないでしょうか!?」
周りからよく「あの澁澤先生と話せるね」と言われる。と言われても先生は一応担任だし、壁を作っているのはわかるけれど入ってみたら案外普通の人なんだ。普通に見えてるあんたがやばい、とも言われるけれど。
「先生!担任なら今日が何の日かごぞんじでしょう!」
「何でもない日おめでとう」
まぁ、そんなものだろうと思ってた。でもおめでとうを言ってもらえたからいいか。
それなりに満足して、「ありがとうございます!せんせいさよーならー!」と振り返り歩き出した私は、「そうだ」と澁澤先生が踵を返したことに気付かず歩き出していた。
「まだ行くな、と言わないとわからないのか?君はほんとうにただの阿呆だな」
え、と振り返ろうとしたら、背後からとすんと引き寄せられた。
私の後頭部が、先生の胸にあたっている。
視界が長い、真っ白な髪で隠れている。
えっ、な、なに、何で?
ああ待ってすごくいい匂いがする。先生、香水つけてたっけ。私今まで気づかなかったのかな。
心臓がばくばくばくばく穴があきそうで、思わず声が出なくなった。
お、おかしいな!元気だけが取り柄で生きているんだけど!
「何だ、構われると大人しくなるのだな。猫か、君は」
まぁ猫の方が可愛げがあるがね、と言いながら、澁澤先生が私の手を取る。
澁澤先生の左手が私の左手を動かしている。私より一回り大きい手のひらが好きなように指先を弄んでいて、息をするのも忘れそう。
先生の手、思っていたよりあったかくて、でも私より全然色が白くて、透き通るような肌に血の色の赤み。黒い爪。
「贈り物だ。大切にしたまえ」
そう言われて、手のひらに小さな石ころを落とされた。
ふ、と笑う先生の吐息が、耳の産毛をくすぐる。ふぁ、と変な息が漏れて急いで口を押さえると、ふむ、と言った先生が、とん、と私の背中を押す。
「さぁ帰りなさい」
いつものつまらなそうな声で先生が言った。
振り返るともういない。えっ、先生、幽霊かなにかなの、と思うけれど目の前には化学室。
その扉に「ありがとうございましたアアア!!!!」と叫んで一礼していたら、周りに笑われたけれど、ドキドキが止まらなくて体に酸素が足りなくてわたしはいっぱいいっぱいだった。
そのあと、石の正体がわからなくて友達に見せたら、「ああそれ、薔薇だよ」と言われた。
スマホで調べてみたら出てきた言葉が、あまりにも先生のいやらしさが出すぎていて、もう、もう、
むり。好き。
私、先生が、大好き。
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真逆あんな子供があのような甘い息を吐くとは思わず油断した。女は幾つでも女なのだと改めて識る。
さてあの石が花だと知った君はどんな顔をしているのだろうな。まあ表情くらいは手に取るように判るが、然し乍らその先が判らない。あの少女は奇想天外な思考回路で生きている。事実それで教職に飽きが来ていないとも言える。
から、私からも少し距離を詰めてみた。鈍感な彼女は気づかないだろうが。
私が贈るデザートは砂漠の意味ではないよ。
美しい花になりたまえ。君が甘い甘い蜜になるまで、腹を空かせて待っていてやろう。