08

主犯らしき敵には逃げられたものの、後から駆けつけてくれた先生たちの活躍によってほぼ全ての敵は逮捕された。
相澤先生、13号先生、そしてオールマイトはそれぞれ大きな怪我を負ったものの命に別状はなし。
あたしたち生徒も大きな怪我をしたのは緑谷ちゃんだけ。
…もっとも、彼の怪我は自身の個性によるものが大半だったのだけれど。


敵による襲撃は、実際にヒーローが身を置く現場というものをひよっこ以下のあたしたちへと強制的に叩き込んだ。

大きな損害があった。
負傷者も出た。
世間からは雄英に対して不安を抱く声も上がった。

それでも、今回の件であたしたちは得るものがあったのだ。
きっとあたしはもう敵を前にして立ち止まることはないだろう。
会敵の恐怖を、そしてそれ以上の、戦いの場において動けないという恐怖を知ったから。


***


「まだ戦いは終わってねぇ」

「雄英体育祭が迫ってる!」
「「「クソ学校っぽいの来たあああ!!」」」


襲撃翌日の臨時休校を挟んで、朝のHR。
あまりの大怪我にしばらくはお休みかしら、なんて思っていた相澤先生は無事とは言い難い包帯ぐるぐる巻きの姿で現れて、あたしたちに体育祭の実施を宣言した。


「敵に侵入されたばっかなのに大丈夫なんですか!?」
「逆に開催することで遊泳の危機管理体制が盤石だと示す…って考えらしい。警備は例年の5倍に強化するそうだ」


雄英体育祭と言えば今やこの国を代表する大行事のひとつだ。
個性を存分に使用して熱く競い合う生徒たちの姿に誰もが熱狂する。

ずっとテレビ越しに拳を握り締めながら見ていたあの場所へあたしが立つ。
雄英の合格通知を受け取った時点で決定していたことだけど、改めてその事実を突きつけられて気持ちが高揚する。

そしてヒーロー科として当事者になった今、雄英体育祭はただの学校行事じゃなくなった。
国民みんなが注目するそのイベントは当然プロヒーローたちだって注目するのだ。
プロヒーローに実力が見込まれれば、そこからスカウト、すなわち将来の進路へと直結する。
逃してはならない、3年間のうちにたった3回だけのチャンス。


「テンション上がるなオイ!!」
「活躍して目立ちゃプロへのどでけぇ一歩を踏み出せる!」


午前中の授業が終わり昼休みに突入した途端、それまで抑えられていたみんなのやる気が解放された。
セメントス先生が教室を退出すると同時に集まってワイワイと喋りだす。


「顔がアレだよ麗日さん!!?」
「皆!!私!!頑張る!」


教室内に響き渡った緑谷ちゃんのツッコミに顔を向ければ、麗かさの消え失せた麗日ちゃんの姿。
いつも麗かな彼女が気合十分で拳を突き上げるその仕草に釣られて、切島ちゃんたちも拳を上げる。


「ふふっあたしも頑張ろっと」


そんなみんなに同調するように、あたしも拳を突き上げた。




今日のランチメニューはカルボナーラ。
塩気のきいたパンチェッタがとってもおいしい逸品。
どんなリストランテでも味わえない程の美食はプロヒーロー・ランチラッシュの腕によるもの。
どこもかしこも広い雄英は食堂だって当然のように広いけれど、そこに集う学生の数も半端じゃない。

教室でワイワイしていたこともあって出遅れたランチタイムは、集団で座れる席が確保できずにそれぞれ瀬呂ちゃん、爆豪ちゃん、切島ちゃんと上鳴ちゃんとあたしの2グループに分かれることになってしまった。



「なあに上鳴ちゃん、そんなに見られたら穴が開いちゃうわ」


僅かな時間内に食べ切ろうと黙々と口を動かしていれば、向かいに座る上鳴ちゃんからの熱視線。
あたしのカルボナーラを狙ってるのかしら、なんて思ったけれどその目線はお皿じゃなくてこちらへまっすぐに伸びている。


「…あたしに見惚れるのも分かるけど、さっさと食べないとお昼休み終わっちゃうわよ」
「へっ!?あっそうだな!うん!!」


見られることは慣れているから問題ないのだけれど、このままじゃ時間がなくなっちゃうと忠告する。
もしかして無意識だったのかしら、上鳴ちゃんは慌てた様子で自分のカツ丼を掻っ込み始めた。


「りょーちんってさぁ、食べ方とかもキレイだよなあ」
「アラ、それで見てたの?まあ、いつどこで誰が見ても美しいあたしでありたいから気を付けてはいるわ」


「だから当然、あたしは体育祭でもこの美しさを日本中に見せつけてあげるつもり。そして、それに見合った実力もね」


優勝は譲らないわよ、なんて言い残してお先に席を立つ。
体育祭本番までたった2週間。
今まで以上に、自分を磨き上げなくちゃ。