07
「敵ンン!?バカだろ!?ヒーローの学校に入り込んでくるなんてアホすぎるぞ!」「校舎と離れた隔離空間、そこにクラスが入る時間割…。
バカだがアホじゃねぇ。これは何らかの目的があって、用意周到に画策された奇襲だ」
こんな状況であっても冷静な轟ちゃんが分析するその間にも敵たちは広場からあたしたちのいるところに向かってくる。
ゆっくりじわじわと追い詰めてくるその動きに冷や汗が止まらない。
「13号避難開始!学校に連絡試せ!
センサーの対策も頭にある敵だ。電波系のやつが妨害している可能性もある。
上鳴、おまえも "個性" で連絡試せ」
「っス!」
「先生は!? 1人で戦うんですか!?
あの数じゃいくら "個性" を消すっていっても!!」
「一芸だけじゃヒーローは務まらん」
ゴーグルを着け、捕縛武器を構えたイレイザーヘッドは13号先生にあたしたちを託すと、敵の蠢く広場へと降りて行った。
個性、捕縛武器、肉弾戦。
それらを駆使してみるみるうちに敵の数を減らしていく。
これがプロヒーローの戦い。
1人じゃどうにもならないような人数が相手だったけれど、この様子なら大丈夫かもしれない。
広場から目線を外し、13号先生について避難を開始する。
いや、避難をしようとした。
そんなあたしたちの目の前にさっきの黒い何かが広がった。
「させませんよ」
「!?」
「始めまして、我々は敵連合。
せんえつながら…この度ヒーローの巣窟、雄英高校に入らせて頂いたのは」
黒い何か、靄かしら。
これは敵の身体らしい。
頭らしき部分から宣戦布告の口上が聞こえる。
「平和の象徴オールマイトに息絶えて頂きたいと思ってのことでして」
揺らめく靄に13号先生が身構える。
「本来ならばここにオールマイトがいらっしゃるハズ…ですが、何か変更あったのでしょうか?
まぁ…それとは関係なく…私の役目はこれ」
「その前に俺たちにやられることは考えてなかったか!?」
少しずつ広がっていく靄に警戒していれば、あたしより後ろにいたはずの爆豪ちゃんと切島ちゃんが敵に攻撃を仕掛けた。
2人の攻撃は綺麗に入ったように見えたけれど、実体がないのか敵にダメージはなく、飛び散った靄もすぐに集結する。
「ダメだどきなさい2人とも!」
しかもその攻撃は、靄を吸い込もうと構えていた13号先生の邪魔となってしまったようだ。
手を構えたままの先生が叫んで2人をどかそうとする。
でもそんな隙を敵が見逃すはずもなくて。
あっという間に黒い靄は広がって、あたしたちを囲んだ。
靄に飲み込まれる。
「っ組替!」
飲み込まれる瞬間、緊張して固まったまま何も反応できなかったあたしの体を誰かが掴んだのを感じた。
***
…熱い。
思わず瞑ってしまっていた目を開けば、見えるのは炎。
そしてぐるりと取り囲む敵。
息を飲む間もなく、敵は襲いかかってくる。
ガードしなきゃ、そう思うのに腕は震えるばかりで動かない。
「組替!!」
駄目だ、くらう。
そう身構えた時、目前に迫った敵が白い何かに薙ぎ払われた。
「大丈夫!?」
「尾白ちゃん…」
そうだ、あの時誰かが靄に飲み込まれていくあたしを掴んでくれた。
あれは尾白ちゃんの尻尾だったんだ。
「構えて!来る!」
ただ震えて固まるあたしと違って、尾白ちゃんはしっかり敵を見据えて戦闘態勢に入っている。
動けないあたしの方に敵が来ないように立ち回って。
なんて、情けないのかしら。
目の前で戦う尾白ちゃんも、さっきの爆豪ちゃんと切島ちゃんも怯む前に、怯える前に立ち向かっていく。
ヒーローってそういうことじゃないの。
まだ入学したばっか?
本当の敵を見るのが初めて?
訓練じゃない対人戦闘なんてしたことがない?
そんな言い訳、何の意味もない。
避けきれない敵の攻撃を少しずつくらって、徐々に尾白ちゃんの動きが鈍さを見せる。
周囲の炎がじわじわと体力を削っていく。
こんなところで立ち止まってどうするの。
ここで動けないで、仲間に助けられるだけで、どうやってこの先ヒーローになるって言うの。
情けない。
こんなの、あたしらしくもない。
「っあああああ!!!」
固まった身体を奮い立たせるように大声を上げる。
「なっ!?」
「組替!」
震える手足に喝を入れるように、筋細胞に命令する。
太く、大きく、強大になりなさい。
震えてる暇なんかないの。
戦いなさい。
救けるために、救かるために。
「ごめんね、尾白ちゃん!お待たせ!」
「ああ!待ってた!」
見た目なんか構わない。
あたしは両手足の筋肉を最大限に成長させて、尾白ちゃんと背中合わせになった。
「もう大丈夫よ、ここを切り抜けましょう」
「早くしないと焼けちゃいそうだしな!」
何人か尾白ちゃんが潰したとはいえ、まだまだ周囲には多くの敵がいる。
しかも、場所に合わせて火炎に強い個性持ちばかり。
あたしも尾白ちゃんも近距離の肉弾戦。
炎に囲まれたこの場所で戦い続けるのは現実的じゃない。
目標は敵の殲滅じゃなくて、このエリアからの脱出ね。
それならきっとあたしたちの力でも叶えられる勝利条件。
「組替、ヒット&アウェイで行こう。まともに相手してたらもたない」
「堅実ね、賛成っ!」
前方を塞ぐように立ち塞がった敵の火炎放射を身をかがめて避けて懐へ入り込み、脇腹を思いっきり殴りつける。
吹っ飛んだ相手に巻き込まれて何人かの敵も倒れた。
「進路は開いたわ!」
遠距離攻撃を警戒して神経を尖らせながら、酷く燃えている箇所を避けて進んでいく。
進む先に出口があるかなんてわからないけど、じっと防戦に徹するよりマシだ。
逃げて、逃げて、追いつかれそうになれば足を止めて迎撃する。
相対するときはできるだけ死角を潰すように背中合わせを心がけて。
「はぁ、はぁ、尾白ちゃん…まだ、いける?」
「正直やばい…けど、やらないわけにはいかないでしょ…」
そうやってどれだけの時間戦ったのか、結局進行方向には出口はなく、火災ゾーンから脱出することができずにあたしたちは再び敵に囲まれてしまっていた。
敵にはとっくにあたしたちが近距離戦闘しかできないことがバレて、中遠距離で狙われまくったのだ。
最初よりは随分敵の数は減っていたけど、まだ2人で対処するには多すぎる。
それに、炎にやられてあたしも尾白ちゃんも体力の限界を迎えていた。
「…鬼ごっこは終わりかぁ?」
酷使した肉体は悲鳴を上げている。
それでも、もう怯むわけにはいかない。
「いいえ、まだまだこれからよ…!」
再び震えそうになる手に思いっきり力を込めて、もう一度構え直す。
背中越しに尾白ちゃんも尻尾を構え直すのを感じた。
…来る!
あたしたちを取り囲んだ敵が一斉に動き出す。
次の瞬間、敵の手足から鮮血が散った。
「銃撃!?」
「組替、今のうちに!」
「っええ!」
崩れ落ちていく敵たちの合間を縫って、先ほどとは逆方向に走る。
あれはきっと、スナイプ先生だ。
ようやく救援が来たんだ。
「ヨク持チ堪エタ。無事カ」
もつれそうになる足を必死で動かして、なんとか出口にたどり着けば、エクトプラズム先生を筆頭に助けに来てくれた先生たちが見えた。
安心して力が抜けたところを尾白ちゃんに支えられる。
「おっと、大丈夫?」
「あは、ごめんね尾白ちゃん。助かったって思ったら、力抜けちゃった」
「既ニ他ノ生徒タチハ保護サレテイル。君タチモ行クゾ」
みんな無事みたいで良かった。
エクトプラズム先生に付き添われて出口の方へ向かう。
一体どんな戦いがあったのか、途中通りかかった広場には酷い戦闘跡が残されていた。
保健室へと運ばれて行った緑谷ちゃん以外の生徒は来たときのようにバスに乗せられて教室へ戻る。
行きとは違って重苦しい沈黙の中、眠気は一向にやってこなかった。