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毎朝家を出る1時間前には目を覚ます。
個性のおかげで肌荒れ知らずだし、寝癖だってすぐに直せちゃうけど、焦って準備をするのは性に合わない。

そう、余裕こそが美しさの秘訣。

きっちりと締めた制服のネクタイを少しだけ緩めて、あえて余裕を作りだす。


「うん、今日も完璧ね」


あたしの部屋にしかない姿見で全身をチェックして、鏡の中の完璧な美貌にひとつため息を落とす。

さて、今日もこの美しさを世界に振りまきながら、優雅に登校しましょう。


***


この国では何年も前から、憧れの職業といえば男女問わず「ヒーロー」が第一位を占めている。
個性を駆使し、命をかけて平和を守る。
かつてはフィクションの世界でしか存在しなかったスーパーヒーローは、「個性」の出現により、現実のものとなった。

強く気高く、かっこいい正義の味方。

あたしも例にも漏れず、小さい頃からヒーローを目指してきた口だ。
あたしがなるなら、強く気高く、誰よりも美しい正義の味方に。
老若男女すべての憧れの的になるの。


「ねえ、良ちゃん!良ちゃんもヒーロー科志望だよね!」
「良ちゃんがヒーローにならなきゃ誰がなるのって感じ〜!」
「やっぱり第一志望は雄英?」


先生の話なんて聞かないで、誰も彼もがヒーロー科志望だと騒ぐLHR。
あたしの机を囲んだ女子たちには「当然」と返して、配られた進路希望用紙に【雄英高校ヒーロー科】と大きく書いた。


決して派手な個性ではないけれど、この体でできることはとても多い。
戦闘だって人命救助だってなんだってこなせる。
そして何よりもの武器は華やかなこの見た目。

これらを駆使して、あたしはヒーローになる。

まずは名門として名高い雄英高校ヒーロー科に入学して、華々しいキャリアをスタートさせるわ。


あたしは誰よりも早く、第一志望だけを書いて進路希望用紙を提出した。


***


帰宅早々部屋着に着替えて、勉強机に向かう。
あたしの個性には筋トレは不要。
受験シーズンにはまだ半年以上あるけれど、無駄なことに時間を費やす暇はない。

ギリギリ合格なんて、あたしらしくないもの。
余裕の笑みで合格通知を受け取るための努力は惜しまないわ。


片っ端から参考書の問題を解くうちに、父さんから夕飯だと声がかかった。

食事は訳あって、個性が発現したころから1人で取っている。
幼い頃からずっとだからもう寂しいとは思わないけれど、無音の中で食べるのも味気ないからとテレビを点けた。


「あら、すごい」


パッと映し出されたニュースの中では、同じくらいの年の男の子が1人敵に立ち向かっていた。

彼が映ったのはほんの一瞬で、その後オールマイトが現れて無事に事件は解決したようだけど、彼の必死さとその気迫が頭に残る。

素敵。

彼もヒーローに憧れていたりするのかしら。
もしかして雄英で会ったりして。

なんて、受験すらまだまだ先だっていうのに合格した気分で想像する。


エンタメ性ばかり高いヒーローも悪くはないけれど、ああいう人を助けようとする姿こそに憧れちゃうわね。

余裕のある姿こそ美しいと思っているけれど、ああして人のために必死になっている姿ってのも美しいものだなんて、矛盾する考えに少し笑った。