02
やだわ、みんなピリピリしちゃって。瞬く間に時は流れて、あたしたち中3は受験シーズン真っただ中。
個性の練習は欠かさずに、戦闘のイメージトレーニングなんかもしちゃって、とうとう今日は雄英高校の一般入試の実技試験当日。
300倍だなんて、とんでもない倍率だって聞いていたとおり、お祭りかしらってくらいの受験生で会場はごった返している。
みんな緊張しているのか、どことなく動きがぎこちない。
今日までの努力の成果を出すだけなんだから、そこまで緊張する必要なんてないのに。
その中でも比較的落ち着いている様子の人たちを見て、彼らがクラスメイトになるのかしら、なんて思いながら試験の開始を待った。
***
プレゼント・マイクによる試験の説明も終わり、僅かなざわめきと共にそれぞれ更衣室へ向かう。
ひととおり試験内容を理解したあたしは、胸が高鳴っていた。
今まで敵に遭遇することもなくすこぶる平和に暮らしていた身としては、実際の戦闘は初めて。
イメージトレーニングは所詮はイメージでしかなく、自分の身体の使い方に関しては誰よりも理解している自身はあるけれど、いざ本番となるとどうなるか分からない。
あたしならできるはず。
その自信はあれど、頭の片隅で不安な自分が顔を出す。
初めての実戦を楽しみに思う気持ちと混ざりあい、柄にもなく緊張する自分に内心舌打ちをした。
個性が使いやすいようにと手足を露出させた動運動着へと着替え、個性で磨き上げたしなやかな肢体をさらす。
あたしならできる。
大丈夫。
もう一度自分に言い聞かせて、寄せられる視線を断ち切るように振り当てられた会場へ向かった。
***
街一個分程の広大な試験会場に思わず息をのんだ。
ちょっと、雄英広すぎるんじゃない?
そんなことを思っていたのはあたしだけじゃなかったみたいで、どこかでも「でっけー」なんてつぶやく声がする。
「ハイ、スタートー」
その広さに圧倒されていれば、早々にさらりと告げられる開始の声。
心の準備はできていなかったけれど、条件反射のように体は動き出す。
とりあえず前進すれば、曲がり角から仮想敵。
走る勢いのまま右腕の筋肉を増強して、思いっきり振りかぶる。
思ったよりも敵が軽くて、これならいけると確信した。
あとは処理速度ね。
走って、増強して、殴って、蹴って、また走って。
息切れして格好悪いけど、なりふり構っていられない。
「うわあああああ!!」
そうこうしているうちにどこからか情けない悲鳴が上がった。
「やだ、さすがに大きすぎない?」
建物の陰から姿を現したのは0ポイントの仮想敵で。
悲鳴を上げるほどじゃないけれど、その大きさに思わず顔が引きつる。
加算対象じゃないから戦う理由はない。
戦うべき敵をちゃんと見極めることも必要よね、とスルーしようと思ったけれど、仮想敵の足元で腰を抜かしてる子が視界に入る。
さっき悲鳴を上げてたのは彼かしら。
これは入学試験の模擬戦闘。
ちょっとくらいの怪我はあるかもしれないけど、命に関わるようなことはないでしょう。
それでも。
「っ掴まってなさい!」
あたしは放っておけなかった。
だって、あたしは人を助けるヒーローになるんだもの。
大した怪我はしないだろうって分かっていても、危ない目にあってる人をそのままにはできない。
仮想敵の前に飛び込み、少し小柄な彼を抱えてすぐに離脱した。
飛び退いたすぐ後に仮想敵の足が振り下ろされる。
あと一瞬遅れていれば、と思うとぞっとする。
仮想敵から距離をとった安全そうな場所に目を回している彼を降ろして、さて次はと辺りを見渡したところで終了を告げるプレゼント・マイクの声が鳴り響いた。
「あら、終わっちゃった」
それなりにポイントは稼いであったつもりだけど、本来稼げたであろうポイント数には届かなかったことが悔しい。
まあ、筆記試験も併せれば問題なく合格圏内のはず。
少しだけ不安に思う気持ちに蓋をして、試験会場を後にした。