極稀に発生するオフ日に顔を出してみれば、集ってくる媚び諂う阿呆どもで嫌気が差す。
ほんの一部の人間はうまくやっているみたいだが、大抵の奴が周囲の雰囲気に流されてなあなあに日々を過ごしてた。
真面目にやろうとすればするだけ、損をする。
久々に会う友人もどこか諦めたような表情をしているのが印象的だった。
一方、自分の仕事は順調も順調で。
テレビにラジオ、雑誌のグラビア、ライブにファンミーティング、それから握手会。
歌の仕事からバラエティ、ドラマや映画での演技の仕事だって増えていた。
モデルをやった広告だって街中に貼り出されて、今や俺の姿を見ない日がないってほどの売れっ子っぷりだ。
そんな今日の現場は、駆け出しのアイドルから中堅どころまでが集められたアイドルフェス。
まだ開演直後の今はひよっ子アイドルたちが一生懸命パフォーマンスをしている。
そこまで大きな仕事ってわけでもないからと、自分の出番まで気楽に他の出演者のステージを眺めることにした。
15分毎に入れ替わるアイドルたちはまだ荒削りだが、みんなどこかしら目を引く部分がある。
今日のキャスティング担当はなかなか見る目がありそうだ。
そして登場した4組目。
すらりと伸びた体躯に目の覚めるような赤い髪。
瞬間、目が釘付けになった。
歳は俺より少し上だろうか。
キラキラとアイドルらしく笑顔を振りまくのに、その晴天のような空色の瞳はどこか剣呑に光る。
どんなステップでもブレない体幹が、その身体能力の高さを物語る。
軽やかな歌声から耳障りの良い言葉が紡がれるのにどこか違和感があって、何とも言えない危なげなギャップに心が奪われた。
「ねえ、彼なんて名前か分かる?」
「えっと確か…ああ、あった。天城燐音くんだって」
隣に座るマネージャーに尋ねれば、今日の出演者リストを見て教えてくれた。
天城、燐音。
教えられた名前をそっと唇に乗せてみる。
他の子たちと同じく15分のはずの彼のライブは、本当にあっという間に終わってしまって。
その間俺はずっとステージ上の彼から目が離せないでいた。
所謂、運命の出会いってやつだったんだと思う。
この時からずっと、俺は彼のステージでの姿に心を奪われ続けることになる。
—
「うわっ愛!?」
きちんとノックをしてからひよっ子たちが詰め込まれている楽屋の扉を開けば、そんな悲鳴に迎えられた。
そりゃあ個別で楽屋が与えられている俺が、わざわざ自分たちの狭い楽屋にやってくるとは思わないもんな。
気にせず目的の相手を探そうと視線を動かせば、誰を探しているのかと楽屋中がソワソワしだす。
言っちゃあ悪いが、彼を見てから他の奴らはもう有象無象にしか見えなくなってるんだ。
用があるのはお前たちじゃない。
「天城燐音くん、だよね」
楽屋の奥で荷物を片付けている彼を見つけて声をかければ、心底驚いたというような表情が向けられる。
きょとんとしたその顔は先ほどステージで見た顔よりも幼く見えてなんだか可愛い。
「愛、くん…?」
「さっきのステージ見てたよ。すっごく良かった」
「お、おう。ありがと…」
「すっかり燐音くんのファンになっちゃった。だからさ、どうか僕と友達になってくれないかな」
必殺のはにかみスマイルを添えて勝手にその手を取った。
自分でもよくわからないけれど、どうしても彼と仲良くなりたかった。
だからこそ衆人環視の中で交渉を行う。
これだけの目があるところで自分より売れているアイドルの誘いは断れないだろ。
「俺と…?」
「ダメ、かな?」
唖然とする彼に、とどめとばかりに上目遣いで返す。
「っいや!俺でいいなら、是非」
「本当!?良かった、嬉しい」
焦ったように告げられた了承の返事に、取った手をギュッと握った。
連絡先を交換して、ご飯でも行こうよなんて更なる誘いをかけていれば、手元の携帯が震える。
マネージャーからの着信だ。
時計を見れば、自分の出番が近づいていた。
「あ、呼び出されちゃった。じゃあ、また。良かったら僕のステージも見て行ってね」
名残惜しくも彼の元から離れる。
あまり気乗りはしていなかった仕事だけど、彼が見ていてくれるならと少しだけ気合が入った。
「どうしたの?なんかご機嫌だね」
「分かる?さっきの天城燐音くんと友達になってきたんだ」
合流したマネージャーに先ほどあった出来事を報告すれば、今まで交友関係を広げようとしなかった俺を知っているからか、まるで自分のことのように喜んでくれた。
そういえば確かに地元を離れてから今まで、過去を振り切るかのようにアイドル業だけに集中してきた。
同業者やスタッフなんかとは仕事を円滑にするための最低限の交流しかしていなかった。
もしかしたら、あれから時間が経って心の整理ってやつがついてきたのかもしれない。
「愛さん、出番です!お願いします!」
いつもの衣装にいつもの曲、いつものダンス、いつも通りのライブステージ。
唯一いつもと違う、少しばかり浮ついた気持ちは今夜のパフォーマンスをより最高のものにした。
なんとなく、そんな気がした。
猫被りんねくん。
ソロアイドル時代の彼は一体どんな喋り方とキャラクターだったんでしょうか…。