#1 隣の人がハロを助けてくれました。
深夜1時
とある閑静な住宅街を歩く女性がいた。
『ふわぁあ〜、眠い』
仕事終わりの彼女は大きな欠伸を隠すこともなく、夜道を歩き自宅へと向かっている。
日本のヨハネスブルクと言われる「米花町」の夜道をのんびり歩く姿は、警戒心や危機感を全く感じさせないほど穏やかな空間だ。
そのまま歩くこと数分、到着した自宅のエレベーターに乗りながら本日の夜食メニューに想いを馳せ開いた扉から降りようとした時......ガタガタバタン!とこの静かな夜にふさわしくない慌ただしい音が響いた。
自分の部屋がある方向から音がしたため、恐る恐る自分の部屋に向けて歩き出す。
『泥棒だったらどうしよう...殺される未来しか見えないわ...』
じりじり歩きながら、せめてもの防具として背にあったリュックを腹側に移動させ、刺された時の緩衝材にする。
ひとり恐怖心と戦っていると、バタン!ガチャン!と荒々しく扉が開き、中から人が出てきた。
扉に鍵を掛けるとその人はズンズン近ついてくる。
『ウワァン!!こっち来た!』
ズンズンと早歩きというか、若干駆け出している人物が側近くに来た時、月明かりに照らされて相手の顔が見えた。
『あ.......』
目を奪われるほどの金髪に褐色の肌、一つ一つのパーツが美しく、月の光が入り綺麗に輝く青い瞳言葉を失うほどの美青年。
しかし、表情は何か怒っているような、焦っているような表情だ。
突然イケメンの出現にビックリしていた彼女だが、ふとイケメンが何か腕に抱えていることに気がついた。
あの白いもふもふ...ワンちゃんだ!!!遠目でも犬だと確信した彼女は、様子がおかしい彼に駆け寄った。
『あっ、あの!!すごい慌ててる様子ですけど、どうしたんですか?』
「え?!ッこの子具合が悪いみたいで夜間病院に連れて行こうと...」
イケメンの腕の中には白いモフモフの子犬が力無くぐったりした様子で抱えられていた。
『その子何か変わった様子はありませんでしたか?例えば、呼吸が荒かったり、触ったらいつもより体温が高いとか、吐いたりとか』
「体が熱いのと、部屋に吐いた後がありました。それにさっきも吐いてしまって...」
『なるほど。この子のかかりつけ病院や過去に夜間病院へ行ったことはありますか?』
「どちらもありません。まだ家に来たばかりの子で、これから探す予定だったんです」
『分かりました。あの、私、夜間もやってる動物病院で働いてる者です。今の時間ならまだ診察してるのでこの子を連れていきましょう!!』
「えっ?」
『あなたは部屋に戻って、この子が吐いたものをビニールか何かに入れて持って来てくだい!私はこの子を連れて先に病院へ向かいます』
「えっ!?」
『この名刺、病院の住所と電話書いてますから!!』
カバンから取り出した名刺をイケメンに押し付ける。
「あ、あのっ...」
『早く!!見ず知らずの奴に愛犬を預けるのは不安でしょうが、今はこの子を早く病院に連れて行くことが懸命です。それに終わったらお叱りは受けます!』
「...わ、分かりました。お願いします。僕もすぐに向かいます」
イケメンの腕から白いモフモフを受け取り、呼吸や体温などをさっと確認して、彼女は来た道を戻って行く。愛犬を見届けた彼は急いで部屋に戻り、指示されたように嘔吐物を袋にまとめ車のキーを片手に貰った名刺を見る。
「米花どうぶつ病院...ここからそう遠くはないな」
いったいあの人は?、こんな時間に何を?、など気になる事が頭を支配するが今は病院に向かうことに切り替える。途中で彼女を拾えるかもしれないと思い、車を走らせた。
途中で彼女を拾うこともなく動物病院につき、受付に行こうとしたところで声がかかった。
『おーい!お兄さーん!ワンちゃんの吐いたものくださーい』
先ほどの女性がこちらに手を振りながら、吐いたものを催促している。
急いで持って来た物を渡す。
「あの、うちの子は...」
『診察室にいます。初めての病院で怖がってるので、側に居てあげてください』
こっちです。と付いて行くと愛犬が看護師さんに撫でられながら、ブルブルと震え、怯えたような表情で診察台に座っていた。
『モフモフくん、飼い主さん来たよ。もう大丈夫だからね』
「くぅん」
「あぁ、ハロもう大丈夫だよ」
震えながら抱っこ抱っことせがむ愛犬に優しく微笑み、優しく安心させるように撫で付ける。
『あの、この子が今どんな状態なのか知るためにも血液検査させてもらっても良いですか?』
「はい。お願いします」
『分かりました。それと、持って来てもらったものも先生が見てるので、もう少し待っててくださいね』
「ありがとうございます。...ハロ、もう少し頑張ろうな」
「くぅん」
*
「やぁ、お待たせしました」
検査待ちの間、彼女と談笑していると部屋の奥からちょっと小太りで優しそうな中年男性がやってきた。診察結果が出たようだ。
「えーと、この子のお名前はー...「ハロです」ハロくん。ストレス性の胃腸炎ですね」
「ストレス性の胃腸炎...」
「ハロくんは最近飼い始めた子ですか?」
「はい」
「胃腸炎は食べ物が原因だったりしますが、ストレスが原因のこともあります。きっと慣れない新しい環境で疲れが胃に出てしまったんですね〜。さっき一緒にエコーを確認したとき、緩そうな便もあったので下痢対策と吐き気対策しましょうか」
「.......はい」
「今日は注射をして落ち着かせましょう。明日から飲めるよう数日分のお薬出しますね」
「はい、分かりました...」
「それとご飯は明日の夜まで絶食して胃とお腹を休めましょう。夜からのご飯は少量にして、ぬるま湯でふやかしてください」
「あの、薬はどうやって飲ませれば良いんですか?」
「平気ならそのままあげてください。あとはご飯に混ぜたり、柔い食パンで包んでも大丈夫です。難しければ別の方法を考えるので、気軽に相談してくださいね」
「はい」
「それでは注射します。小鳥遊くん、保定よろしくね」
『はい!』
先生の呼びかけに、静かに後ろで控えていた彼女がハロが動かないよう押さえる。
プスッ
「キャゥ!」
「!!あぁハロ落ち着いて、大丈夫だから!!」
*
『それではモフモフくん、お大事にね』
診察と会計が終わり病院の入り口でバイバイとハロの頭を撫でる彼女を見てふと気づく
「あなたは帰らないんですか?」
『帰りますよ』
「あの時間にアパートに居たってことは、あなたの家もあそこでしょう?僕、車で来たので乗ってください」
『え、でも』
「ハロを助けて頂いたうえに、こんな深夜に女性を1人で返せません。それに帰る先は同じですから」
さぁさぁと車に詰め込まれ、ハロを膝に乗せて欲しいとお願いされ薬が効いて落ち着いたハロを抱える。腕に抱いた時クンクンと匂いを嗅がれたが好きにさせてると、気が済んだのか寝やすいポジションを探しハロは目を閉じた。そして動き出しだ車に揺られながら移りゆく外の景色を眺める。
「助けていただきありがとうございました」
『あ、え、??(危ない、寝そうだった)』
「あの時あなたが声を掛けてくれなければ、夜間病院を探す所から始まりハロはまだ苦しんでたかもしれません」
『いえ、私こそいきなり現れてモフモフくん...ハロくんを強奪するような感じですみませんでした」
「あはは...ちょっとビックリしましたけどね」
『ほんとスミマセンでした』
「いえ、いいんです。ハロも落ち着きましたし。...ところであなたはあんな時間に何を?」
『え、あ、私は仕事帰りだったんです。今日は遅いシフトで』
「そうだったんですね。しかし仕事とはいえ遅い時間の女性の一人歩きは関心しませんね」
『いつもは自転車通勤なんですが、今修理に出してて』
「自転車もあまり変わりませんよ...」
『あはは...あ!そういえば私まだ名前名乗ってませんでしたね、すみません。私、小鳥遊はすみって言います』
「僕は安室透です。そしてこの子はハロです」
『ハロくん!素敵なお名前ですね〜』
ここで初めてお互いに名前を名乗り、安室は運転で前を見つつ助手席に座るハロの恩人を盗み見る。
レトロな大きめの丸メガネに長めの髪の毛を後ろで無造作に結んで、動きやすいシンプルな服装に大きなリュック。出会った瞬間のキビキビした言動とは違い、今は柔くゆるい雰囲気の女性だ。
ハロも落ち着いて寝ており、ハロを腕に抱いた彼女はウトウトして眠そうである。
隙がありすぎる彼女はあきらか只の一般人だ。調べるまでもない。
それに今の住処......MAISON MOKUBAに住む前に住人の調査は済んでいる。その中に彼女の調査書もあったはずだ。
ある日、安室透として拾った小さな命。
ハロは拾ってから今まで病気やケガで苦しむことが無かった。安室は家に帰って苦しそうなハロを見て酷く焦った。こういった時の動物に対する正しい処置や知識が無い。自分に出来るのは名前を呼び、病院に連れていくことしかない。ハロを抱え、慌てて夜間の動物病院に行こうと部屋を飛び出した所で、彼女に声を掛けられたのだ。
最初は何者だこの女は、自分の顔を見て声を掛けてきたのか、と怪訝な目で見ていたがぐったりするハロを見た途端に彼女の目つきが変わった。そこからはテキパキと若干強引だったが、彼女が働く動物病院へと案内され、ハロは無事に落ち着いたのだ。
赤信号で停車した時にふと安室が意識を横に戻したらいつの間にか彼女は眠っていた。
ハロも彼女の膝からお腹までよじ登り、顔を胸に乗せて寝息をたてている。
「...無防備すぎる。深夜勤務だったとはいえ初対面の男の車で寝るか普通」
やれやれとため息をつく。
彼女とは初対面で、たった数時間しか一緒に居ないし話してない。
たったそれだけの関係だが、妙な安心感というか、不思議と嫌な気持ちにはならなかった。
*
「小鳥遊さん」
「小鳥遊さん起きてください。着きましたよ!」
誰かの声が聞こえて身体が揺すられ意識が浮上した。ゆっくりと目を開けると...
目の前にイケメンがいた。
『????』
「起きましたか?アパートに着きましたよ」
『ア、アパート......あ、ほんとだ』
寝起きでボンヤリしながら目を窓の外に向けると、見慣れたアパートがあった。
『すみません、私寝ちゃって...』
「いえ、いいんです。遅くまでお仕事だったようですし、その後も色々ありましたから」
『申し訳ないです...ハロくんお願いします』
「はい」
彼女の腕の中でぐっすり眠ってたハロを抱き上げ車を降りる。
助手席から降りた彼女もまだ眠そうにはしているが、足取りはしっかりしていた。
アパートのエントランスを通りエレベーターへ乗り込み部屋の階を押し
目的の階に着くと自分の部屋へ向かって歩く。
『それでは、私はこれで...安室さん、ハロくんおやすみなさい』
もう半分目が閉じ掛けている彼女は挨拶をして404号室、安室の隣の部屋の鍵を開けて入っていった。
パタンッ ガチャ
「...となり」
「アゥン」
自分の活動時間が一般的な人間の活動時間とズレているゆでに、
今までこのアパートの住人、ましてや隣人などに遭遇しなかった。
隣人も活動時間が不規則な感じはしていたが、そうか、彼女が隣人だったのか。
安室は自分を見上げるハロの頭をひと撫でして、隣の405号室へ入っていった。
とある閑静な住宅街を歩く女性がいた。
『ふわぁあ〜、眠い』
仕事終わりの彼女は大きな欠伸を隠すこともなく、夜道を歩き自宅へと向かっている。
日本のヨハネスブルクと言われる「米花町」の夜道をのんびり歩く姿は、警戒心や危機感を全く感じさせないほど穏やかな空間だ。
そのまま歩くこと数分、到着した自宅のエレベーターに乗りながら本日の夜食メニューに想いを馳せ開いた扉から降りようとした時......ガタガタバタン!とこの静かな夜にふさわしくない慌ただしい音が響いた。
自分の部屋がある方向から音がしたため、恐る恐る自分の部屋に向けて歩き出す。
『泥棒だったらどうしよう...殺される未来しか見えないわ...』
じりじり歩きながら、せめてもの防具として背にあったリュックを腹側に移動させ、刺された時の緩衝材にする。
ひとり恐怖心と戦っていると、バタン!ガチャン!と荒々しく扉が開き、中から人が出てきた。
扉に鍵を掛けるとその人はズンズン近ついてくる。
『ウワァン!!こっち来た!』
ズンズンと早歩きというか、若干駆け出している人物が側近くに来た時、月明かりに照らされて相手の顔が見えた。
『あ.......』
目を奪われるほどの金髪に褐色の肌、一つ一つのパーツが美しく、月の光が入り綺麗に輝く青い瞳言葉を失うほどの美青年。
しかし、表情は何か怒っているような、焦っているような表情だ。
突然イケメンの出現にビックリしていた彼女だが、ふとイケメンが何か腕に抱えていることに気がついた。
あの白いもふもふ...ワンちゃんだ!!!遠目でも犬だと確信した彼女は、様子がおかしい彼に駆け寄った。
『あっ、あの!!すごい慌ててる様子ですけど、どうしたんですか?』
「え?!ッこの子具合が悪いみたいで夜間病院に連れて行こうと...」
イケメンの腕の中には白いモフモフの子犬が力無くぐったりした様子で抱えられていた。
『その子何か変わった様子はありませんでしたか?例えば、呼吸が荒かったり、触ったらいつもより体温が高いとか、吐いたりとか』
「体が熱いのと、部屋に吐いた後がありました。それにさっきも吐いてしまって...」
『なるほど。この子のかかりつけ病院や過去に夜間病院へ行ったことはありますか?』
「どちらもありません。まだ家に来たばかりの子で、これから探す予定だったんです」
『分かりました。あの、私、夜間もやってる動物病院で働いてる者です。今の時間ならまだ診察してるのでこの子を連れていきましょう!!』
「えっ?」
『あなたは部屋に戻って、この子が吐いたものをビニールか何かに入れて持って来てくだい!私はこの子を連れて先に病院へ向かいます』
「えっ!?」
『この名刺、病院の住所と電話書いてますから!!』
カバンから取り出した名刺をイケメンに押し付ける。
「あ、あのっ...」
『早く!!見ず知らずの奴に愛犬を預けるのは不安でしょうが、今はこの子を早く病院に連れて行くことが懸命です。それに終わったらお叱りは受けます!』
「...わ、分かりました。お願いします。僕もすぐに向かいます」
イケメンの腕から白いモフモフを受け取り、呼吸や体温などをさっと確認して、彼女は来た道を戻って行く。愛犬を見届けた彼は急いで部屋に戻り、指示されたように嘔吐物を袋にまとめ車のキーを片手に貰った名刺を見る。
「米花どうぶつ病院...ここからそう遠くはないな」
いったいあの人は?、こんな時間に何を?、など気になる事が頭を支配するが今は病院に向かうことに切り替える。途中で彼女を拾えるかもしれないと思い、車を走らせた。
途中で彼女を拾うこともなく動物病院につき、受付に行こうとしたところで声がかかった。
『おーい!お兄さーん!ワンちゃんの吐いたものくださーい』
先ほどの女性がこちらに手を振りながら、吐いたものを催促している。
急いで持って来た物を渡す。
「あの、うちの子は...」
『診察室にいます。初めての病院で怖がってるので、側に居てあげてください』
こっちです。と付いて行くと愛犬が看護師さんに撫でられながら、ブルブルと震え、怯えたような表情で診察台に座っていた。
『モフモフくん、飼い主さん来たよ。もう大丈夫だからね』
「くぅん」
「あぁ、ハロもう大丈夫だよ」
震えながら抱っこ抱っことせがむ愛犬に優しく微笑み、優しく安心させるように撫で付ける。
『あの、この子が今どんな状態なのか知るためにも血液検査させてもらっても良いですか?』
「はい。お願いします」
『分かりました。それと、持って来てもらったものも先生が見てるので、もう少し待っててくださいね』
「ありがとうございます。...ハロ、もう少し頑張ろうな」
「くぅん」
*
「やぁ、お待たせしました」
検査待ちの間、彼女と談笑していると部屋の奥からちょっと小太りで優しそうな中年男性がやってきた。診察結果が出たようだ。
「えーと、この子のお名前はー...「ハロです」ハロくん。ストレス性の胃腸炎ですね」
「ストレス性の胃腸炎...」
「ハロくんは最近飼い始めた子ですか?」
「はい」
「胃腸炎は食べ物が原因だったりしますが、ストレスが原因のこともあります。きっと慣れない新しい環境で疲れが胃に出てしまったんですね〜。さっき一緒にエコーを確認したとき、緩そうな便もあったので下痢対策と吐き気対策しましょうか」
「.......はい」
「今日は注射をして落ち着かせましょう。明日から飲めるよう数日分のお薬出しますね」
「はい、分かりました...」
「それとご飯は明日の夜まで絶食して胃とお腹を休めましょう。夜からのご飯は少量にして、ぬるま湯でふやかしてください」
「あの、薬はどうやって飲ませれば良いんですか?」
「平気ならそのままあげてください。あとはご飯に混ぜたり、柔い食パンで包んでも大丈夫です。難しければ別の方法を考えるので、気軽に相談してくださいね」
「はい」
「それでは注射します。小鳥遊くん、保定よろしくね」
『はい!』
先生の呼びかけに、静かに後ろで控えていた彼女がハロが動かないよう押さえる。
プスッ
「キャゥ!」
「!!あぁハロ落ち着いて、大丈夫だから!!」
*
『それではモフモフくん、お大事にね』
診察と会計が終わり病院の入り口でバイバイとハロの頭を撫でる彼女を見てふと気づく
「あなたは帰らないんですか?」
『帰りますよ』
「あの時間にアパートに居たってことは、あなたの家もあそこでしょう?僕、車で来たので乗ってください」
『え、でも』
「ハロを助けて頂いたうえに、こんな深夜に女性を1人で返せません。それに帰る先は同じですから」
さぁさぁと車に詰め込まれ、ハロを膝に乗せて欲しいとお願いされ薬が効いて落ち着いたハロを抱える。腕に抱いた時クンクンと匂いを嗅がれたが好きにさせてると、気が済んだのか寝やすいポジションを探しハロは目を閉じた。そして動き出しだ車に揺られながら移りゆく外の景色を眺める。
「助けていただきありがとうございました」
『あ、え、??(危ない、寝そうだった)』
「あの時あなたが声を掛けてくれなければ、夜間病院を探す所から始まりハロはまだ苦しんでたかもしれません」
『いえ、私こそいきなり現れてモフモフくん...ハロくんを強奪するような感じですみませんでした」
「あはは...ちょっとビックリしましたけどね」
『ほんとスミマセンでした』
「いえ、いいんです。ハロも落ち着きましたし。...ところであなたはあんな時間に何を?」
『え、あ、私は仕事帰りだったんです。今日は遅いシフトで』
「そうだったんですね。しかし仕事とはいえ遅い時間の女性の一人歩きは関心しませんね」
『いつもは自転車通勤なんですが、今修理に出してて』
「自転車もあまり変わりませんよ...」
『あはは...あ!そういえば私まだ名前名乗ってませんでしたね、すみません。私、小鳥遊はすみって言います』
「僕は安室透です。そしてこの子はハロです」
『ハロくん!素敵なお名前ですね〜』
ここで初めてお互いに名前を名乗り、安室は運転で前を見つつ助手席に座るハロの恩人を盗み見る。
レトロな大きめの丸メガネに長めの髪の毛を後ろで無造作に結んで、動きやすいシンプルな服装に大きなリュック。出会った瞬間のキビキビした言動とは違い、今は柔くゆるい雰囲気の女性だ。
ハロも落ち着いて寝ており、ハロを腕に抱いた彼女はウトウトして眠そうである。
隙がありすぎる彼女はあきらか只の一般人だ。調べるまでもない。
それに今の住処......MAISON MOKUBAに住む前に住人の調査は済んでいる。その中に彼女の調査書もあったはずだ。
ある日、安室透として拾った小さな命。
ハロは拾ってから今まで病気やケガで苦しむことが無かった。安室は家に帰って苦しそうなハロを見て酷く焦った。こういった時の動物に対する正しい処置や知識が無い。自分に出来るのは名前を呼び、病院に連れていくことしかない。ハロを抱え、慌てて夜間の動物病院に行こうと部屋を飛び出した所で、彼女に声を掛けられたのだ。
最初は何者だこの女は、自分の顔を見て声を掛けてきたのか、と怪訝な目で見ていたがぐったりするハロを見た途端に彼女の目つきが変わった。そこからはテキパキと若干強引だったが、彼女が働く動物病院へと案内され、ハロは無事に落ち着いたのだ。
赤信号で停車した時にふと安室が意識を横に戻したらいつの間にか彼女は眠っていた。
ハロも彼女の膝からお腹までよじ登り、顔を胸に乗せて寝息をたてている。
「...無防備すぎる。深夜勤務だったとはいえ初対面の男の車で寝るか普通」
やれやれとため息をつく。
彼女とは初対面で、たった数時間しか一緒に居ないし話してない。
たったそれだけの関係だが、妙な安心感というか、不思議と嫌な気持ちにはならなかった。
*
「小鳥遊さん」
「小鳥遊さん起きてください。着きましたよ!」
誰かの声が聞こえて身体が揺すられ意識が浮上した。ゆっくりと目を開けると...
目の前にイケメンがいた。
『????』
「起きましたか?アパートに着きましたよ」
『ア、アパート......あ、ほんとだ』
寝起きでボンヤリしながら目を窓の外に向けると、見慣れたアパートがあった。
『すみません、私寝ちゃって...』
「いえ、いいんです。遅くまでお仕事だったようですし、その後も色々ありましたから」
『申し訳ないです...ハロくんお願いします』
「はい」
彼女の腕の中でぐっすり眠ってたハロを抱き上げ車を降りる。
助手席から降りた彼女もまだ眠そうにはしているが、足取りはしっかりしていた。
アパートのエントランスを通りエレベーターへ乗り込み部屋の階を押し
目的の階に着くと自分の部屋へ向かって歩く。
『それでは、私はこれで...安室さん、ハロくんおやすみなさい』
もう半分目が閉じ掛けている彼女は挨拶をして404号室、安室の隣の部屋の鍵を開けて入っていった。
パタンッ ガチャ
「...となり」
「アゥン」
自分の活動時間が一般的な人間の活動時間とズレているゆでに、
今までこのアパートの住人、ましてや隣人などに遭遇しなかった。
隣人も活動時間が不規則な感じはしていたが、そうか、彼女が隣人だったのか。
安室は自分を見上げるハロの頭をひと撫でして、隣の405号室へ入っていった。
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