#2 隣の人がハロを助けてくれました。
ハロの体調が悪かったあの深夜に出会った女性、ハロの恩人と安室が再会したのは、あれから1週間後だった。
ポアロでの仕事帰りスーパーで買い物をしていたら、前方からつい最近知り合った女性が歩いて来る。
先日、安室の愛犬の危機を救ってくれた「米花どうぶつ病院」に勤務する小鳥遊さんだ。
彼女は買い物カゴを片手に歩きながら陳列している商品を流れるように見ていた。安室には気づいていない。
安室は彼女に会ったらこの間のお礼がしたいと考えていた。
しかし自分の仕事が忙しいのと、会うタイミングも無くてずっと機会を窺っていた。今話しかけないと、次いつ会えるか分からない。愛犬のピンチを助けてもらったのにお礼の一つもしないなんてそんなの安室自身が許せない。
いざ声を掛けようと近づいていくが、彼女が急に方向転換して別の商品が並ぶ列に消えてしまった。
ここはあまり広いスーパーではないが、購入物を探し歩く人間を探すのは地味に大変である。
急ぎ足で彼女が消えていった列に向かうと奥の方に彼女はいた。しゃがみこんで商品を見ているようだ。すぐ見つかったことにホッとして声を掛ける。
「こんにちは」
『? あ…』
声を掛けられて顔を向けると、いつか見たキラキラのイケメン青年がにっこり微笑みながら横に立っていた。
この輝きは覚えている!ハロくんの飼い主さん!と彼女は安室の顔にすぐピンときた。
『安室さん!こんにちは』
「こんにちは小鳥遊さん、奇遇ですね」
『奇遇ですね〜。安室さんもお買い物ですよね』
「はい。お買い物です」
『そういえばハロくんその後体調はどうですか?』
「もうすっかり元気です。薬もちゃんと飲み終えました」
『そうですか!なら良かったです』
「えぇ、本当に」
ハロの様子を聞いて嬉しそうにニコニコする彼女を見て、安室も口元が緩くなるように感じた。
ふと彼女が何かを手にしている事に気づく。
二人がいるのはお菓子コーナーで、この場所に居た彼女はもちろんお菓子を見ていたのだが...
「あの、その手に持っている物は?」
『これですか?これはアニマルわんわんコレクション2です』
「アニマルわんわん...」
『はい!箱の中に犬のミニフィギュアが入ってるんですよ。食玩なのにクオリティが高くて、犬種も豊富で、しかも付属のチョコが凄く美味しいんです』
彼女が手に持っていたのはお菓子コーナーによくある食玩だった。しかも2ということは人気商品である事が分かる。途端に目を輝かせて食玩の説明をする彼女は楽しそうだ。
「へぇ、この箱にはどの犬種が入ってるんです?」
『それがランダムなのでどの子が来るのか分からないんです』
「へぇ」
『あはは...あんまり興味ないですよね、こういうの』
「そんなことはないですが...ご縁はないですね」
『友人にもいい年してって言われちゃうんですけど、つい手が勝手に...』
困ったように笑いながらも彼女は持っていた箱をカゴに入れ、新たに同じ種類の食玩を両手に取った。彼女はその箱を真剣に見つめ何かを見定めている。
安室はまだ買うのか...と苦笑いをこぼす。正直、真剣に選ぶ姿が面白いのでこのまま観察したい気持ちもあったが、本来の目的を思い出した安室はヒョイっと彼女が手にする箱を横から奪い去り自分のカゴに入れた。
『え?あ、ちょっと、安室さん?!』
「これは僕が買います」
この食玩を集めている彼女が大人買いしないをしないのは、何かルールがあるのだろう。真剣に見定めてるぐらいだから、一度に購入する個数の制限、もしくは月単位での制限か...と推測する。
『あ、安室さんもアニマルわんわんコレクション欲しくなったんですか?』
「いいえ、これはあなたの分です」
『なんだ残念...って私の分ですか?!大丈夫ですよ!自分で買えますから!』
安室は今だ混乱する彼女をスルーして、もう二つ追加で食玩を自分のカゴに入れた。
そして彼女の手をギュッと握る。握った瞬間ビクッと反応した彼女は目をまん丸くさせ、安室を見た。
『こ、この手はいったい...?』
「僕、あなたにお礼がしたいんです」
『お礼、ですか?何の...というか手を離してください』
「先日ハロを助けて頂いたお礼です」
『いやいや、その件はもう大丈夫です。むしろ当たり前のことをしたまでです!』
「でも、あの時あながた声を掛けてくれなければハロは...」
『ハロくんが元気なことが私は一番嬉しいのでお気持ちだけで十分です!!』
「それでは飼い主の僕が納得できません」
『う〜〜〜!!!あ、じゃあこの食玩!!安室さん買ってくれるんですよね?それがお礼でお願いします!』
「食玩でハロを助けて頂いたあなたへのお礼になると...?」
『なります!!むしろ月に5つもゲットできて嬉しいです!コンプしちゃうのでは?!』
だから手を離してください〜!と握られた手を上下にブンブン振る彼女を横目に、安室はやっぱり食玩を買うルールがあったかと一人納得する。そして食玩の他にも何かできることはないか...手はそのままに、視線を彼女の買い物カゴへ移す。500mlの飲料水3本、スナック菓子2袋、先ほどの食玩1個、カップラーメン3個、惣菜2種類が入っていた。野菜とお肉が一つも入ってないことに眉間に皺が寄る。
「小鳥遊さん、今夜は何を食べる予定ですか?」
『え、今日はお惣菜とお米とみそ汁ですけど...』
「......。あの良ければ今夜、ごちそうさせてくれませんか」
『え?』
「お礼にご飯でもどうですか?あっ、もしかしてこの後ご予定が?」
『い、いえ、予定は何も...。でも今からお店探すの大変じゃないですか?』
「食べに行くのはお店じゃありませんよ。と言っても僕の手料理になりますが、ぜひ食べて行ってください。腕には自信があります!」
『てりょうり?!いや、ほんと大丈夫です!!食玩だけで私は幸せなので!!』
「お礼なので遠慮しないでください。(にっこり)」
『遠慮とかじゃなくって!!あ〜〜!ちょっと引っ張らないでくださいよぉぉぉぉ』
有無を言わさぬ笑顔で彼女の手を引っ張ってく安室。ズルズルと動く体に慌てて床に置いてたカゴを手に持った彼女は、なすすべが無いまま安室と一緒にレジへ行き、彼の愛車が待つ駐車場まで引っ張られていった。
*
『安室さん、やっぱり私ご飯は自分で...聞いてます?』
駐車場へ到着するまでもゴニョゴニョと抗議する彼女にフッと笑みを浮かべた安室は、唇を彼女の耳元へ寄せて甘く囁いた。
「僕の家に来ればハロも居ますよ」
『ハロくん...!!』
「小鳥遊さん、犬好きですよね?」
『はいっ...』
「ハロに会いたくありませんか?」
『ハロくん...』
「僕たち部屋も隣同士だったみたいですし。僕もささやかながらお礼ができて、あなたはハロにも会えてお腹も満たされます。win-winじゃないですか?」
『ハロくん...』
「決まりですね!さぁ乗ってください」
助手席のドアを開け彼女の肩を押し、乗り込ませながらさり気なく荷物を手から抜き取り後部座席へ。自分も運転席に乗り込み車を発車させる。目指すはMAISON MOKUBAである。
*
「ハロー、ただいま」
タタタタタッ
「アン!」
『お、お邪魔します』
靴を脱ぎながら安室がハロを呼ぶと奥から元気よくハロが駆けて来た。
「ハロ、お客さんです」
『ハロくんこんばんは!お邪魔します』
「アゥン?」
彼女を見たハロはきょとんとした後、クンクンと匂いを嗅ぎ回り始めた。
『安室さん、ハロくんに触っても大丈夫ですか?』
「えぇ、大丈夫ですよ」
一生懸命自分を嗅ぎ回るハロにふふっと笑った彼女はハロの鼻先に指を寄せた。そうしてクンクンッと指先を嗅いだハロが指をペロリとひと舐め。ハロが許してくれたのを確認して、彼女は顎下や首周りを優しく撫で回す。
「さぁ上がってください。すぐに準備しますから。その間、小鳥遊さんはハロと遊んでくれますか?」
『お任せください!』
リビングに案内され、安室は買い物袋を手にキッチンへ消えていった。
間取りは自分の部屋と同じだな〜、あんまり物が無いんだな〜と観察してたらクンッとズボンの裾を引っ張られたような気がして下を見るとハロがきゅるんとした目でこちらを見上げていた。
『ハロくんっ!』
あぁなんて可愛いの〜!と心の中で叫びながら、ハロを構い倒すべく床に腰を下ろす。
ワシャワシャと好きに撫で回してるとハロがころんっとお腹を出して寝転がった。はわわ可愛い。ふにゃふにゃと顔を緩ませながら暫しハロを堪能してると、両手にお皿を持った安室がやってきた。
「お待たせしました。料理が出来ましたよ」
『あっ、手伝います』
「お気持ちは嬉しいですが、今夜あなたはお客さんです。すぐに揃いますから待っててください」
安室は微笑みテーブルにお皿を置いて再びキッチンへ戻っていった。置かれた皿を覗き込むと、そこにはホカホカと湯気立つオムライス。スーパーから出る前にリクエストを聞かれ、答えたメニューだ。
『美味しそう...』
じゅるりとヨダレが垂れそう。
「さて、食べましょうか」
再び安室が現れ、スープにサラダと栄養バランスが考えられたメニューがテーブルに並んだ。
『ハロくんはもう食べたんですか?』
「えぇ、夕方に一度帰宅したのでその時に」
『そうなんですね』
着席を促され、いただきます。と両手を合わせてオムライスに手を付ける。
『モグモグ......美味しい』
卵がふわとろだ!ケチャップライスも美味しい!スープは野菜の優しい味がしてサラダはシャキシャキ!手料理が久々なのもあり、より美味しさを感じて黙々と食べてると安室の手が全く動いてない事に気がついた。どうしたのかと思うと、じぃーーっとこちらを見つめる安室と目が合った。
『安室さん?食べないんですか?』
「...美味しいですか?」
『はい、とっても』
なら良かったです。と笑顔でオムライスを食べ始める安室。
彼女がモグモグと頬張る姿がリスみたいだな…と思って観察してしまったなんて言えない。
一方、二人が食事をするのを見たハロはリビングの寝床で丸まり寝息を立てていた。
*
食事の後片付けが終わって帰ろうとした所にお茶を出されてしまったが、帰る旨を伝えたら悲しそうにしょんぼり眉を下げる安室に負けてしまったのは決して彼が子犬に見えたとかではない。
「今日あなたを食事に誘ったのはお礼もあったのですが、ご相談したい事がありまして」
『相談?私にですか?』
「はい。ハロのことで」
『ハロくん?えっ、何かあったんですか?!』
ハロを話題にした途端に目の色が変わる彼女は本当にハロが、動物が大好きなのが分かる。
「いえ、そうではなく、ハロの掛かりつけ医をあなたが勤務する病院でお願いしたいと思いまして」
『本当ですか!』
「はい。頂いた名刺から色々調べてみたんです。緊急時の夜間対応やペットホテルもあるんですよね?」
『そうです。まぁペットホテルは色々と条件がありますが...』
「実は僕、探偵をやってまして依頼の関係で家に帰れないことがあるんです」
『探偵。...それはハロくん寂しいですね。今まで不在の時はどうしてたんですか?』
「知人に頼んでいたのですが、互いに都合がつかない時がきっと出てくるのでハロを安心して預けられる場所を探していたんです」
『そうだったんですね、では近いうちにハロくんを連れていらしてください!その時に予防接種や動物さんとの暮らし方などのお話をしましょう』
「分かりました。あなたが居る所なら安心だなと思ってたので良かったです。ハロもすっかり懐いてたようですし」
『ハロくんと仲良くなれたみたいで嬉しいです』
「また遊んであげてください」
「ぜひ!...あ!あの、安室さん、私そろそろ帰りますね』
チラっと時計を見ると21時を回ろうとしていた。いくらお隣でもこんな時間までお邪魔するわけにはいかない。
いそいそと帰る準備をして玄関へ向かうと、後ろから安室とハロが付いてくる。
『ハロくん寝てたのにお見送りありがとう』
ハロの頭をよしよしと撫で回し、お別れの挨拶を交わしていると何やら視線を感じ顔を上げるとまたもや安室と目が合った。
安室は微笑むだけでで何も言わないが、流石に触りすぎたかな?とちょっと反省し安室に向き直る。
『安室さん、今日はごちそうさまでした。とても美味しかったです』
「いえ、こちらこそ。また食べに来てください」
『そ、それは色々と申し訳ないので大丈夫です!!では安室さん、ハロくん、おやすみなさい』
「おやすみなさい」
「アン!」
パタンッ
扉が閉まり、数秒後に隣の扉が開く音が聞こえた。
足元でお座りをしていたハロを抱き上げた安室はポツリとつぶやく。
「ハロが羨ましい...」
安室は彼女を食事に誘ってから帰るまでの間、仕事柄の癖もあり彼女を観察していた。楽しげにハロを構う姿に微笑ましく思った。でも自分とハロに向けられる表情が違うことに気がついた。愛犬のハロに向けられる瞳はより優しく、表情がとても柔らかい。きっと彼女のことだから動物に対しては無意識にあの表情なのだろう。
一方で自分と二人きりで話している時は笑ったりするが若干居心地悪そうな、ぎこちなさが見え隠れしている。
嫌われてはいないだろうが、見えない壁があるその事実が何だか寂しくて安室はハロが羨ましかった。ハロを餌にして彼女に食事を振る舞ったのは純粋にお礼がしたいという気持ちだけだったはずなのに...。(いや、正直ちょっと面白そうな人だったから興味はあったが)
自分もあの表情で、優しい瞳で見てほしい。そう思ってしまった。
たった2度合っただけなのに、彼は知らぬ間に恋をしてしまったらしい。
ポアロでの仕事帰りスーパーで買い物をしていたら、前方からつい最近知り合った女性が歩いて来る。
先日、安室の愛犬の危機を救ってくれた「米花どうぶつ病院」に勤務する小鳥遊さんだ。
彼女は買い物カゴを片手に歩きながら陳列している商品を流れるように見ていた。安室には気づいていない。
安室は彼女に会ったらこの間のお礼がしたいと考えていた。
しかし自分の仕事が忙しいのと、会うタイミングも無くてずっと機会を窺っていた。今話しかけないと、次いつ会えるか分からない。愛犬のピンチを助けてもらったのにお礼の一つもしないなんてそんなの安室自身が許せない。
いざ声を掛けようと近づいていくが、彼女が急に方向転換して別の商品が並ぶ列に消えてしまった。
ここはあまり広いスーパーではないが、購入物を探し歩く人間を探すのは地味に大変である。
急ぎ足で彼女が消えていった列に向かうと奥の方に彼女はいた。しゃがみこんで商品を見ているようだ。すぐ見つかったことにホッとして声を掛ける。
「こんにちは」
『? あ…』
声を掛けられて顔を向けると、いつか見たキラキラのイケメン青年がにっこり微笑みながら横に立っていた。
この輝きは覚えている!ハロくんの飼い主さん!と彼女は安室の顔にすぐピンときた。
『安室さん!こんにちは』
「こんにちは小鳥遊さん、奇遇ですね」
『奇遇ですね〜。安室さんもお買い物ですよね』
「はい。お買い物です」
『そういえばハロくんその後体調はどうですか?』
「もうすっかり元気です。薬もちゃんと飲み終えました」
『そうですか!なら良かったです』
「えぇ、本当に」
ハロの様子を聞いて嬉しそうにニコニコする彼女を見て、安室も口元が緩くなるように感じた。
ふと彼女が何かを手にしている事に気づく。
二人がいるのはお菓子コーナーで、この場所に居た彼女はもちろんお菓子を見ていたのだが...
「あの、その手に持っている物は?」
『これですか?これはアニマルわんわんコレクション2です』
「アニマルわんわん...」
『はい!箱の中に犬のミニフィギュアが入ってるんですよ。食玩なのにクオリティが高くて、犬種も豊富で、しかも付属のチョコが凄く美味しいんです』
彼女が手に持っていたのはお菓子コーナーによくある食玩だった。しかも2ということは人気商品である事が分かる。途端に目を輝かせて食玩の説明をする彼女は楽しそうだ。
「へぇ、この箱にはどの犬種が入ってるんです?」
『それがランダムなのでどの子が来るのか分からないんです』
「へぇ」
『あはは...あんまり興味ないですよね、こういうの』
「そんなことはないですが...ご縁はないですね」
『友人にもいい年してって言われちゃうんですけど、つい手が勝手に...』
困ったように笑いながらも彼女は持っていた箱をカゴに入れ、新たに同じ種類の食玩を両手に取った。彼女はその箱を真剣に見つめ何かを見定めている。
安室はまだ買うのか...と苦笑いをこぼす。正直、真剣に選ぶ姿が面白いのでこのまま観察したい気持ちもあったが、本来の目的を思い出した安室はヒョイっと彼女が手にする箱を横から奪い去り自分のカゴに入れた。
『え?あ、ちょっと、安室さん?!』
「これは僕が買います」
この食玩を集めている彼女が大人買いしないをしないのは、何かルールがあるのだろう。真剣に見定めてるぐらいだから、一度に購入する個数の制限、もしくは月単位での制限か...と推測する。
『あ、安室さんもアニマルわんわんコレクション欲しくなったんですか?』
「いいえ、これはあなたの分です」
『なんだ残念...って私の分ですか?!大丈夫ですよ!自分で買えますから!』
安室は今だ混乱する彼女をスルーして、もう二つ追加で食玩を自分のカゴに入れた。
そして彼女の手をギュッと握る。握った瞬間ビクッと反応した彼女は目をまん丸くさせ、安室を見た。
『こ、この手はいったい...?』
「僕、あなたにお礼がしたいんです」
『お礼、ですか?何の...というか手を離してください』
「先日ハロを助けて頂いたお礼です」
『いやいや、その件はもう大丈夫です。むしろ当たり前のことをしたまでです!』
「でも、あの時あながた声を掛けてくれなければハロは...」
『ハロくんが元気なことが私は一番嬉しいのでお気持ちだけで十分です!!』
「それでは飼い主の僕が納得できません」
『う〜〜〜!!!あ、じゃあこの食玩!!安室さん買ってくれるんですよね?それがお礼でお願いします!』
「食玩でハロを助けて頂いたあなたへのお礼になると...?」
『なります!!むしろ月に5つもゲットできて嬉しいです!コンプしちゃうのでは?!』
だから手を離してください〜!と握られた手を上下にブンブン振る彼女を横目に、安室はやっぱり食玩を買うルールがあったかと一人納得する。そして食玩の他にも何かできることはないか...手はそのままに、視線を彼女の買い物カゴへ移す。500mlの飲料水3本、スナック菓子2袋、先ほどの食玩1個、カップラーメン3個、惣菜2種類が入っていた。野菜とお肉が一つも入ってないことに眉間に皺が寄る。
「小鳥遊さん、今夜は何を食べる予定ですか?」
『え、今日はお惣菜とお米とみそ汁ですけど...』
「......。あの良ければ今夜、ごちそうさせてくれませんか」
『え?』
「お礼にご飯でもどうですか?あっ、もしかしてこの後ご予定が?」
『い、いえ、予定は何も...。でも今からお店探すの大変じゃないですか?』
「食べに行くのはお店じゃありませんよ。と言っても僕の手料理になりますが、ぜひ食べて行ってください。腕には自信があります!」
『てりょうり?!いや、ほんと大丈夫です!!食玩だけで私は幸せなので!!』
「お礼なので遠慮しないでください。(にっこり)」
『遠慮とかじゃなくって!!あ〜〜!ちょっと引っ張らないでくださいよぉぉぉぉ』
有無を言わさぬ笑顔で彼女の手を引っ張ってく安室。ズルズルと動く体に慌てて床に置いてたカゴを手に持った彼女は、なすすべが無いまま安室と一緒にレジへ行き、彼の愛車が待つ駐車場まで引っ張られていった。
*
『安室さん、やっぱり私ご飯は自分で...聞いてます?』
駐車場へ到着するまでもゴニョゴニョと抗議する彼女にフッと笑みを浮かべた安室は、唇を彼女の耳元へ寄せて甘く囁いた。
「僕の家に来ればハロも居ますよ」
『ハロくん...!!』
「小鳥遊さん、犬好きですよね?」
『はいっ...』
「ハロに会いたくありませんか?」
『ハロくん...』
「僕たち部屋も隣同士だったみたいですし。僕もささやかながらお礼ができて、あなたはハロにも会えてお腹も満たされます。win-winじゃないですか?」
『ハロくん...』
「決まりですね!さぁ乗ってください」
助手席のドアを開け彼女の肩を押し、乗り込ませながらさり気なく荷物を手から抜き取り後部座席へ。自分も運転席に乗り込み車を発車させる。目指すはMAISON MOKUBAである。
*
「ハロー、ただいま」
タタタタタッ
「アン!」
『お、お邪魔します』
靴を脱ぎながら安室がハロを呼ぶと奥から元気よくハロが駆けて来た。
「ハロ、お客さんです」
『ハロくんこんばんは!お邪魔します』
「アゥン?」
彼女を見たハロはきょとんとした後、クンクンと匂いを嗅ぎ回り始めた。
『安室さん、ハロくんに触っても大丈夫ですか?』
「えぇ、大丈夫ですよ」
一生懸命自分を嗅ぎ回るハロにふふっと笑った彼女はハロの鼻先に指を寄せた。そうしてクンクンッと指先を嗅いだハロが指をペロリとひと舐め。ハロが許してくれたのを確認して、彼女は顎下や首周りを優しく撫で回す。
「さぁ上がってください。すぐに準備しますから。その間、小鳥遊さんはハロと遊んでくれますか?」
『お任せください!』
リビングに案内され、安室は買い物袋を手にキッチンへ消えていった。
間取りは自分の部屋と同じだな〜、あんまり物が無いんだな〜と観察してたらクンッとズボンの裾を引っ張られたような気がして下を見るとハロがきゅるんとした目でこちらを見上げていた。
『ハロくんっ!』
あぁなんて可愛いの〜!と心の中で叫びながら、ハロを構い倒すべく床に腰を下ろす。
ワシャワシャと好きに撫で回してるとハロがころんっとお腹を出して寝転がった。はわわ可愛い。ふにゃふにゃと顔を緩ませながら暫しハロを堪能してると、両手にお皿を持った安室がやってきた。
「お待たせしました。料理が出来ましたよ」
『あっ、手伝います』
「お気持ちは嬉しいですが、今夜あなたはお客さんです。すぐに揃いますから待っててください」
安室は微笑みテーブルにお皿を置いて再びキッチンへ戻っていった。置かれた皿を覗き込むと、そこにはホカホカと湯気立つオムライス。スーパーから出る前にリクエストを聞かれ、答えたメニューだ。
『美味しそう...』
じゅるりとヨダレが垂れそう。
「さて、食べましょうか」
再び安室が現れ、スープにサラダと栄養バランスが考えられたメニューがテーブルに並んだ。
『ハロくんはもう食べたんですか?』
「えぇ、夕方に一度帰宅したのでその時に」
『そうなんですね』
着席を促され、いただきます。と両手を合わせてオムライスに手を付ける。
『モグモグ......美味しい』
卵がふわとろだ!ケチャップライスも美味しい!スープは野菜の優しい味がしてサラダはシャキシャキ!手料理が久々なのもあり、より美味しさを感じて黙々と食べてると安室の手が全く動いてない事に気がついた。どうしたのかと思うと、じぃーーっとこちらを見つめる安室と目が合った。
『安室さん?食べないんですか?』
「...美味しいですか?」
『はい、とっても』
なら良かったです。と笑顔でオムライスを食べ始める安室。
彼女がモグモグと頬張る姿がリスみたいだな…と思って観察してしまったなんて言えない。
一方、二人が食事をするのを見たハロはリビングの寝床で丸まり寝息を立てていた。
*
食事の後片付けが終わって帰ろうとした所にお茶を出されてしまったが、帰る旨を伝えたら悲しそうにしょんぼり眉を下げる安室に負けてしまったのは決して彼が子犬に見えたとかではない。
「今日あなたを食事に誘ったのはお礼もあったのですが、ご相談したい事がありまして」
『相談?私にですか?』
「はい。ハロのことで」
『ハロくん?えっ、何かあったんですか?!』
ハロを話題にした途端に目の色が変わる彼女は本当にハロが、動物が大好きなのが分かる。
「いえ、そうではなく、ハロの掛かりつけ医をあなたが勤務する病院でお願いしたいと思いまして」
『本当ですか!』
「はい。頂いた名刺から色々調べてみたんです。緊急時の夜間対応やペットホテルもあるんですよね?」
『そうです。まぁペットホテルは色々と条件がありますが...』
「実は僕、探偵をやってまして依頼の関係で家に帰れないことがあるんです」
『探偵。...それはハロくん寂しいですね。今まで不在の時はどうしてたんですか?』
「知人に頼んでいたのですが、互いに都合がつかない時がきっと出てくるのでハロを安心して預けられる場所を探していたんです」
『そうだったんですね、では近いうちにハロくんを連れていらしてください!その時に予防接種や動物さんとの暮らし方などのお話をしましょう』
「分かりました。あなたが居る所なら安心だなと思ってたので良かったです。ハロもすっかり懐いてたようですし」
『ハロくんと仲良くなれたみたいで嬉しいです』
「また遊んであげてください」
「ぜひ!...あ!あの、安室さん、私そろそろ帰りますね』
チラっと時計を見ると21時を回ろうとしていた。いくらお隣でもこんな時間までお邪魔するわけにはいかない。
いそいそと帰る準備をして玄関へ向かうと、後ろから安室とハロが付いてくる。
『ハロくん寝てたのにお見送りありがとう』
ハロの頭をよしよしと撫で回し、お別れの挨拶を交わしていると何やら視線を感じ顔を上げるとまたもや安室と目が合った。
安室は微笑むだけでで何も言わないが、流石に触りすぎたかな?とちょっと反省し安室に向き直る。
『安室さん、今日はごちそうさまでした。とても美味しかったです』
「いえ、こちらこそ。また食べに来てください」
『そ、それは色々と申し訳ないので大丈夫です!!では安室さん、ハロくん、おやすみなさい』
「おやすみなさい」
「アン!」
パタンッ
扉が閉まり、数秒後に隣の扉が開く音が聞こえた。
足元でお座りをしていたハロを抱き上げた安室はポツリとつぶやく。
「ハロが羨ましい...」
安室は彼女を食事に誘ってから帰るまでの間、仕事柄の癖もあり彼女を観察していた。楽しげにハロを構う姿に微笑ましく思った。でも自分とハロに向けられる表情が違うことに気がついた。愛犬のハロに向けられる瞳はより優しく、表情がとても柔らかい。きっと彼女のことだから動物に対しては無意識にあの表情なのだろう。
一方で自分と二人きりで話している時は笑ったりするが若干居心地悪そうな、ぎこちなさが見え隠れしている。
嫌われてはいないだろうが、見えない壁があるその事実が何だか寂しくて安室はハロが羨ましかった。ハロを餌にして彼女に食事を振る舞ったのは純粋にお礼がしたいという気持ちだけだったはずなのに...。(いや、正直ちょっと面白そうな人だったから興味はあったが)
自分もあの表情で、優しい瞳で見てほしい。そう思ってしまった。
たった2度合っただけなのに、彼は知らぬ間に恋をしてしまったらしい。
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