※エイプリルフールに滑り込みたかった。無糖で名前無変換。

謀反を起こされた本丸があった、みたいな噂を耳にした。ここ最近密かに立った噂らしいが真偽をこんのすけに尋ねて見たが、ただの噂だと流されてしまった。詰め寄って本当かと聞こうにも、相手にされずとっとと仕事を果たせと促されるばかりでこの煙たい噂は嘘だろうと勝手に片付けた。このやり取りを聞いていた近侍の鶴丸は興味無さそうな様子であった。鶴丸にこの噂の件を聞いてみたが、こんのすけと同様にはぐらかされては仕事の催促を耳が痛くなる程聞かされる羽目になったのだ。これが少し前の話。
暫くして柔い風が吹くようになり漸く春が訪れた頃。エイプリルフールという何とも気が引く行事に何となく乗ってみようと縁側で珍しく胡座をかいて座っている鶴丸に持ちかけた。今日はエイプリルフールなんだと旨を伝えるが、受け流されるが如く相づちを打たれるだけだ。
「鶴丸なら乗ってくれると思ったんだけどな」
「時と場合だ。気が乗らないのさ、今日は」
「珍しい。鶴丸さん、何か悪いものでも食べたの?」
「まさか、今日だけだ。きみもこんなところに居ないで、仕事をやって来たらどうだ?また脱け出してきたのだろ。近侍の奴がお冠になるぜ」
またそうやってはぐらかされる。鶴丸の突き放す態度はどうやら私だけのようで、こうも関わりを持ちたくないと示されると泣けてくる。
「前から思ってたんだけど、鶴丸さぁ私に対して冷たくない?」
「これが俺だぜ。」
その一言だけ言葉にして、後はだんまりだ。ここの本丸の鶴丸国永は世間で見かけるのとは別物らしい。何が悪いのだろう。
どんな言葉を掛けた所で状況は変わらない。諦めてその場から去る。名残惜しく振り返って見るが、鶴丸は此方を見向きもせず黄昏ていた。

夕食の時刻を過ぎ、私室へ戻ろうと厨を通りすぎた時、そこで鶴丸の背中が見えた。何をしているのだろう。気になって寄ってみると、こちらに気づいたのか鶴丸が振り返った。
「よっ。自室に戻るのか?ちょっと時間があるなら、桜見酒でもしないかい」
徳利を指に挟んで、カラカラと振る。ほんのりとアルコールが香る。私が来る前に酒をあおって酔っているだろうか。いつもの態度と違って、やけに親しげなのが引っかかるけれど、断る理由もなく鶴丸の誘いに乗った。

鶴丸にとってどうでもよい話を持ち掛けたあの縁側で私達は少し間を開けて座る。やや遠くに咲き出した桜が視界の手前にある両端の低木の間から覗く。こんな眺めがこの本丸にあったとは知らなかった。もしやあの問い掛けた時の上の空はこのせいではないか。だが日頃の態度を思い返してみると思い過ごしにしか考えられなかった。
お猪口を片手に真っ直ぐ桜を見つめる鶴丸を後目する。お互い何も発しないので、嚥下の音と虫の声だけが妙に耳に響く。どうしてこの刀は私を酒飲みに誘ったのだろう。読めたことのない相手の心情に当てずっぽうで答えを当てはめても、正答でない時点で無意味に等しい。この沈黙がじわじわと私に圧をかけていく。気を紛らすため、桜を眺める。
「きみ、昼間の勢いはどうした」
不意に声をかけられ、慌てて向くと桜の方を見つめる鶴丸がいる。自分の方には目を合わせない。
「…私が話した所で鶴丸さん、無視するじゃないですか」
「した覚えはないなァ」
不満を込めて、反論してみたが案の定はぐらかされる。嘘つきだ。いつも私をいい加減に扱うくせに、どこの口がいうのだ。
「じゃあ私が昼に話したこと、言えますか?」
月明かりに照らされた金色の瞳が此方に向けられる。
「ああ、勿論。『えいぷりるふーる』だったか?…四月初めは嘘をついて良い日という風習。一部では正午までと言い伝えられていて、午後はその嘘のねたばらしをして楽しむ。そして翌日は真実だけしか言えない『とぅるーえいぷりるふーる』」
即座に回答を告げられ、実が弾けるようにぼろぼろと私が教えたことを並べられた。
「けど翌日が『とぅるーえいぷりるふーる』というのは、嘘の日に作られた架空の日。だろう?」
鶴丸の片手がわざと開けた空間に置かれ、乗り出すよう上半身をのせる。間近に顔が寄せられ、私を映す瞳から目をそらせない。

「俺が誘ったことに意味がある、と思うか?」
そういえば、自室に向かおうとした時刻は子の刻を過ぎていた気がする。


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