私が過度に接するせいか私に対する鶴丸国永の態度が他の鶴丸と違って素っ気ない。初期刀に相談してみても、私の接し方が悪いからだとあまりまともに返してくれない。仕方なく自身で解決するしかないようだ。さて、どうするか。仕事を放棄してぼんやりと縁側で横になっていると、庭で遊んでいる短刀達が寄ってきた。主様、一緒に遊びませんか?秋田藤四郎がにこにこと笑みを浮かべる。周りにいる短刀も皆揃って遊ぼうと誘う。そうだなぁ、悩み事を考えても埒が明かないし。身体を起こして、了承の返事をすれば皆ぱあっと花が咲くよう顔色が明るくなった。そして早く早くと急かして私の手を引く。見た目が幼い成りにも関わらず、大の大人を力強く引っ張るのだからやはり彼らは私達とは違う存在なのだと痛感する。そんな事を思うと鶴丸も私と違う世界の住人であるのだとも今更ながら思い出す。自分と同じ人間として接し、彼の本質を蔑ろにして付き合っていた。そうだ、彼は人でなく付喪神であり刀なのだ。人の姿になっていようと生まれも生き様も違う。なんて今まで馬鹿なことを仕出かしていたのだろう。あの一振りが呆れた態度なのは、愚かな私が勝手に、対等に接していたから。そうと結論付けてしまうと急に鶴丸が遠く離れた存在になってしまった。ああ、もう一生懸けても届かない。朧気に想像した鶴丸が見下した目で二度と近寄るなと口元が動いた気がした。



初期刀、山姥切国広は近侍“だった”鶴丸国永に相談を持ち掛けられた。何故写しの俺に、と刹那思ったが理由というものが鶴丸の口から吐き出された時ああと腑に落ちてしまったのだった。
「主が俺を近侍から外した理由、分かるか?」
知らんとも言い難い質問だった。記憶に新しい今の主からの相談は当本人からの接し方が素っ気ない、と訳のわからない事だった。その時はまともに答えず、あんたの接し方に問題があると突き放してしまったのだが、今になって自分が出した返事が厄介事に発展してしまったと後悔した。自身を顕現した審神者である主の心までは読み取れないが、長い付き合いの分多少なり主がどう結論付けてしまうのか分かってしまう。きっと、接することに“諦めて”しまったのだろう。それが鶴丸の現状へ繋がっている。だが、そのことを伝えるには気が引けた。
「…知らんな。」
「そうか、きみだったら分かりそうなんだがなァ。」
茶をすすり、にやけた表情で鶴丸は答えた。
相談を持ち掛けたにも関わらず、あんまり大した事でもないと装う男に山姥切国広は心の内で溜め息をついた。この態度の相手に主の状況を打ち明けてしまうのは些か主が哀れに思えた。ましてや写しの俺が、この二人の仲介など成せる訳がない。私情も相まって、どうかこの面倒事が早く終結することを茶を一飲みして祈ったのだった。



主が俺を近侍から外してから早二ヶ月経った。外される前、この本丸に刀剣男士として顕現されてからは審神者であり主にしつこく相手をされていた。口を開けば、驚きはどうしただのびっくりおじさんだのやたら煩かった覚えがある。始めは主のお望み通り、穴を掘って仕掛けたり驚かせたりしていたもんだが徐々に対応するのも面倒になって滔々主に適当な言葉を並べて突き離すのが普通となった。そんな態度でも主はお構い無しに構う。酷く疎ましかった。どうしてそこまで関わろうとするのか。不思議に思っていたが、それ以上に嫌気が勝り何も考えないようにした。来る日も来る日も主は俺と話したがり、遊びたがる。近侍に命じられてからも仕事より遊ぶ頻度が高く、これが俺の仕える主かと何度か呆れたものだった。一度、どうしてそんなに俺と遊びたがるのかと問いたことがある。答えは、俺と遊ぶことが一番楽しいからだとしたり顔で言われた。─誰と遊ぼうがきみは楽しそうにするのに、よく言えたな。ぼろっと口から吐き出しそうだったが、唾と共に飲み込んでへぇとだけ返した。その時どうして発しなかったのか自分でもはっきりとは分からなかった。…分かりたくなかっただけかもしれないが。
それか暫くして、ぱたりと主の過度な接しはなくなった。
明日から近侍を変わってもらう。
唐突に告げられ、気づけば翌日本当に変更されていた。はて、俺は夢でも見ているのか。はたまた悪夢から覚めたのか。主を見やれば、近侍として任命されたであろう他の刀剣男士と笑んでいるじゃないか。─ほら見ろ、やァっぱりきみはそういう人間じゃないか。あんな様子を見させられ、急にあの人間が憎らしい浅ましい存在に思えた。

内番が早く終わらせ、偶々同じ当番の山姥切国広と縁側で一服していた。この刀は審神者の初期刀で、この本丸の一番の古株。自身を卑下する言葉を吐きつつ、戦場では真逆のことを敵に振りかざす。何とも面白い男だ。
「主が俺を近侍から外した理由、分かるか?」
何となく話し掛けてみた。すると一つ間を空けて、知らんと返ってきた。そりゃあの人間じゃないんだ、分かるわけがない。分かる必要なんてない。
「そうか、きみだったら分かりそうなんだがなァ。 」
横目で茶を飲み込む山姥切国広を見て、心底面白くなかった。


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