※キャラ崩壊注意
※エセ関西弁

「どうしよう、彼女の誕生日プレゼントが決まらないんだ。」
「そないなことでウチを呼び出したん?」
一大事なんだ助けてくれと、普段からはポケギアを掛けてくるような人間ではないマツバに切羽詰まった様子で助けを求められたので急いで来てみればしょうもなさすぎる相談で呆れてしまった。
「そんなこと、なんかじゃない。重大な問題なんだよ…!」
なんやコイツ。日頃何を考えているか分からない彼からはかけ離れて、こんなみっともない焦りぎみな姿が痛々しい。てか、ギャップが酷すぎて見てられへんわ…。
「あーそう、で何が重大なん?」
「彼女の欲しい物が分からないんだ…」
「直接聞けばええやん。」
「駄目だよ。彼氏としてのメンツが保てない。」
はぁ?ホンマ、馬鹿なんちゃうんかコイツ。情けない理由で呆れて物が言えない。てか、彼氏としてのメンツって何やねん。結局マツバの態度にアドバイスをする気にもなれなかった。堪忍してなマツバ。そういえば彼女の名前はマツバの友人のミナキという奴と仲が良いい事を思い出し、そいつに聞けば何か分かるんちゃうんかと軽く言ってみたら目が閃き「そうか!ありがとう!」と疾風のごとくフワライドに乗って去って行った。ホンマに大丈夫なんか。



マツバから助けてほしいとポケギアに連絡があり、早急に駆けつけて彼の元へやって来たのだが、彼は開口一番。
「名前の好きなものを教えてくれ。」
君は一体何を言っているんだ。一言目に、スイクンのことでも挨拶の一言でもなく何故名前の好きなもののことになるのか。
マツバ、まさかその事だけのために呼んだんじゃないのか。その言葉の返事を返すや否や、途中で遮って「いいから教えてくれ、早く。」と両肩を掴まれては意図も分からない催促を要求される。
「マツバ、いい加減にしてくれ。君は何を焦っているんだ。本当にそれだけのことなら私は帰るぞ。」
「ここにスイクンの写真があるんだけど。」
「貰おう。」
目の前につき出された写真は如何にも私が追っていたスイクン、とゲットした少年の写真であった。そして、マツバがスイクンを挟んで…え?
「ちょっと待て、マツバこの写真は」
「欲しいならあげるよ。さあ、名前の好きなものを教えてくれ。」
私の話を切ってでさえも、マツバは名前の好きなものを知ろうとしたいのか。いや、そんなことを考える暇はない。私の一番気を引くのは、彼から差し出された写真がスイクンと彼が一緒に写っていることだ。何故だ、私がどれ程スイクンが好きか分かって写真を撮ったのか。しかもツーショットで…!
「マツバァ!見損なったぞ!私を差し置いてスイクンとツーショットなど!」
「ヒビキ君に頼めば一緒に撮ってくれるよ。いい加減、名前の好きなものを教えて…」
「くッ!まさか、マツバにツーショットを取られてしまうなど…こうしてはいられない。ヒビキと言ったな、私は彼に会ってスイクンのツーショットを撮ってくる!さらばだ!」
「あ、ちょっと」
早く行かなければ、次のスイクンのツーショットが誰かもわからない者に取られてしまう!ああ、待っていてくれスイクン!君に会いに行くから待っていたまえ!



「あーあ行っちゃった…。」
頼みの綱のミナキを失い、目の前が暗く閉ざされてしまった。まるでずっと幼い頃にやっていた修行のようだ。真っ暗な部屋の中で、ひたすら集中して千里眼を鍛える。先の見えない暗闇にただ一人で残されるなど、当時にとっては恐怖が勝り早く終了することだけを望みに望んでいた。しかし、どんなに願っても解放されない闇に恐れをなしたことは今にも思い出すと怖くて仕方ない。それが今の現状と丸っきり同じだ。足取りが重くなり、座れそうな石積に腰かける。深く溜め息をつけば更に気分は下降していく一方だ。もしかしたら、誰に聞いても分からないままではないか。そんな予想が頭を過る。
「あれ、マツバさん?」
頭上から声をかけられ、ふと見上げるとヒビキくんがたまごを抱えて立っていた。
こんにちは。彼は元気よく言葉を投げ掛けてくれるが、こちらはまだ重く暗い返事を返してしまう。すると、どうかしたのかと心配した様子でまた言葉が返ってきた。

「へぇ、そんなことで悩んでいたんですか。」
珍しいですね、と彼は驚いて言う。純粋な子供でさえ酷なことを吐く。なんだ、皆してそんなこと扱いだなんて。僕にとってはそんなことでは済まされないんだよ。腹の底が煮えたぎりそうだ。
「あ、でも前に名前さんに会ってちょっと話してましたけど暖かいやつが欲しくなってきたとかなんとかって言ってたような…」
彼の口から思っても見ない話が出てきた。なんだって?もう少し詳しく話してくれ、と頼み込めば彼はやや戸惑いつつ教えてくれた。
何でも寒くなってきたから、暖かい物があると良いよね。
彼女はこのようなことを言ったようだ。何とも彼女らしい要望だ。
「そうか、ありがとう。助かったよ」
彼に礼を言い、早速店に行って選りすぐりの暖かい商品を購入しよう。

「え、マツバさん?あ、ちょっと!…て、どうしたんだろう。急に走り出して。まだ続きがあるのに…、まあ良いか。どうせ本人に会ったら分かるだろうし。」



エンジュタウンにある雑貨屋を訪れた。和食器や和小物を取り扱った店で最近は若者向けの可愛らしい和雑貨も並んでいると以前舞妓さんが話していたことを思い出した。言った通りに、若い女性が多く入りづらく感じたが、そんなことにかまけてる場合ではない。店内を周り、求める商品を探す。暖かいもの…そう頭にもやもやと思い浮かべると、ハッと一つが視界に入った。そうだ、マフラーなんてどうだろうか。首回りの冷えは良くないだろうし、彼女がマフラーをした様子は何だかお揃いを着ているみたいで胸が熱くなる。名前に似合いそうな色を選び、レジへ向かう。店員がおどおどとした態度でバーコードを読み取る。
「お客様、こちらプレゼント用に包みますでしょうか?」
お願いしますと、返事をするとまたその店員はどもってラッピングの色はどうするか云々を尋ねてくる。そんなに変なことなのだろうか。マフラーが綺麗な袋に仕舞われ、可愛らしいリボンを結ばれるまで僕は少し周りを見渡す。偶々女性の集団と目線が合い会釈をすれば、悲鳴が聞こえる。…うん、早いところ出ていったほうが良さそうだ。着飾れたプレゼントを受け取り、店を後にした。
自宅に戻り、購入したプレゼントを机にそっと置く。女性が好みそうな洒落た外装に少しどぎまぎする。喜んでくれるだろうか。プレゼントを渡す情景を思い浮かべる。彼女は驚きつつも喜びを隠しきれない様子で受け取っては、開けてもいいかと尋ねてくる。勿論了承すれば、目を輝かせてリボンを解く。中から現れ出たマフラーを控えめに取り出し、僕とマフラーを交互に見て今度は着けてもいいと聞いてくる。断る理由もなく、彼女はそのマフラーを首に巻いては笑みを溢す。ペアルックみたいだね。嬉しさが滲み出た言葉を聞き僕は彼女の…。ピンポーン。思考を遮るが如く、インターホンが鳴り響く。誰だ、折角良い所なのに。苛立ちのあまり、居留守を使ってやろうかと過ったが、ゲンガーが先に玄関へ向かってしまい実行できず終わった。渋々、追って玄関に向かう。
「こら、ゲンガー勝手に…」
叱ろうと声を掛けるが、そんな苛立った感情も目の前の光景で消し去った。勝手に来ちゃった。お邪魔してもいい?首を傾げ尋ねる、僕の恋人。断る理由など、全くない筈が今の状態となっては最も上がらせなくない人物である。ちょっと、部屋が散らかっていて…と言葉を濁すが、彼女に片付けようかと親切な言葉で切り込まれる。不味い、今上がられては困る。冷や汗が流れ、顔をしかめてしまうと相手は疑いの目を向ける。やましいことは、ない。ないんだ、ただ今見られるとプレゼントの意味が。ぐだぐだとした様子が気に食わないのか否か、ゲンガーは彼女の裾を引っ張り中へ招く。
「あっ!ゲンガー待って、」
制止も聞かずして、ゲンガーと彼女は廊下を早足で駆けていく。こちらも後を追い掛けるが、時すでに遅し名前に見られてしまった。これ、何?机に置かれた装飾の施された袋を指差し、彼女は尋ねる。こうなっては、もう隠す所ではない。
「それ、ね。名前にあげようと思っていたプレゼントなんだ。…本当は当日に渡してあげたかったんだけど…」
叱られた子供みたく、どもった答えしか口々に出てこない。盗み見するよう、彼女の様子を伺うと何故かクスクス笑いを堪えていた。呆けて彼女を見つめれば、視線に気づいたのか口を開く。私もね、暖かいものが欲しいなと思ってたんだ。それで、マフラーを作ろうと思ってたんだけど先越されちゃったんだね。と鞄の中から網掛けのマフラーを取り出した。でも、マツバがくれるのならもう必要ないね。寂しそうな表情を一瞬見せ、すぐにまたいつもの笑顔を見せる。
「そんなことないよ。そのマフラー、僕にくれないかな?」
えっ、と驚き顔を見つめる彼女に僕は袋の紐を解き、マフラーを取り出して首に巻いてやる。
「名前に合いそうなマフラーを選んだんだ。どうだい?」
彼女は赤くなり、何度もこくこく頷く。
「名前が編んだマフラーもこのマフラーと似てるだろ。そのマフラーを僕が巻いたら、ほらお揃いみたいで素敵じゃないか。」
マツバそう言うなら…。耳まで真っ赤に染まり、巻いたマフラーに顔を埋める。ちょっと台詞がギザすぎただろうか、とやや正気に戻ったが、彼女の反応が可愛らしく再び惚けてしまう。

*

はい、プレゼント。あれから時間が過ぎ、完成された少しよれよれなマフラーを包装された箱で渡された。控えめがちに両手を添えて僕につき出す姿はなんといっても滑稽だが、あのとき同様に顔を真っ赤に染めて言うものだからこちらも初心の気持ちで羞恥を感じてしまう。端的に思考を支配していた考えはは今すぐこの子を抱き締めてやりたいだったが。
彼女の編んだマフラーを早速首に巻く。既製品と違ってごわごわしか毛糸が首に当たってくすぐったい。
「まるで、ペアルックみたいだね。」
名前が自身に巻いたマフラーをちょいと上げて笑う。うん、本当だ。僕はそっと彼女を抱き締め、胸の高鳴りを抑えた。


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