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※死亡表現(?)あります。夢主ちゃんが鬱鬱状態になっちゃいます。ご注意ください。





私はその日、いつもと何ら変わらない日常を過ごしていた。高校一年になったばかりの私は死に物狂いで勉強して見事受かった高校で無駄に難しい授業を受けて入学してからできた新しい友人と一緒に図書室でその日の授業の復習と明日の予習をして、校門の閉まるギリギリに学校を出てそのまま別れた。バスに乗り、電車に乗り、母が待つ家へと向かう。
父親は私が物心つくまえに交通事故で亡くなってしまい、今は私と母の二人で暮らしている。金銭的に余裕も無い筈なのに私がこの高校に行きたいと知った母は毎日のように仕事で残業をしてお金を稼ぎ私を塾に行かせてくれていた。そして私がこの高校に受かったときはまるで自分のことのように涙を流して喜んでくれて、私は自分が働き始めたら必ず母を楽にしてあげようと深く心に誓った。どんなことよりも子供わたしを優先してくれた母。そんな母には感謝しか無かったし、大好きだった。
──だから、いつもの通りの幸せな日がこんなにも悲しい日に変わるなんて思うわけ無かったのだ。


「母が事故にあった!?」
「そうなの、○○病院に搬送されたって……。納豆ちゃん急いで向かいましょう!」


家に帰ると、父親が亡くなってから今までずっと手助けをしてくれていたお隣のおばさんが血相をかえながら私の手を引いて車に乗り込んだ。まるで誘拐のような手口だけどおばさんはそんなことをするような人ではないし、何より嘘をつくにしたって母が事故にあったなんて嘘は死んでもつかないはず。だから尚更、『母が事故にあった』という覆しようの無い事実が深く私の胸を抉ってきた。
大好きな母、もしも母が死んでしまったらあの家には何が残るのだろうか。一人ぼっちになってしまった私は父と母の二人の死を抱えたまま大人になれるのかな。
ぐわんぐわん、と頭が揺さぶられているような感覚に襲われる。もしものときの母の死を考えると息がし辛くなり、次第に私の呼吸はハァッ、ハァッ、と乱れていった。私の異変に気がついたおばさんが隣で「大丈夫だよ」「落ち着いて」と、私の背中を優しく撫でる。車を運転してくれているおばさんの旦那さんも「納豆ちゃん大丈夫かい!?」と、酷く心配している。そんな二人の暖かさに触れていると少しずつ呼吸が整っていき、五分もするといつものように呼吸することができた。


「着いたよ、二人とも降りなさい!」


十五分ほど車に揺られてやっと着いた病院。周りにたくさんの人が居たのにも関わらず、気が動転していた私はその人達を無理矢理押し退けていく。私達が来たことに気がついた看護師さんが素早く私達を手術室の前まで連れてきてくれた。母は今、緊急手術を受けているらしく状態はかなり良くないらしい。それを聞いたとき私は膝から崩れ落ちそうになったが、すかさずおばさんと看護師さんが支えてくれて椅子に座らせてくれたお陰で床に座り込むことはなかった。
母の手術が終わるまでの間、私を安心させるためか隣でおばさんがギューッと私の手を繋いでくれていた。


どのくらい時間が経ったか分からないが、かなりの時間が経過したあと手術室の扉が開きそこから担当医の人と思わしき人が出てきた。私達はその人に駆け寄り母の容態を問い詰める。
するとその人は、悲しそうに顔を歪め「最善は尽くしたのですが……」と、それはそれは言いづらそうに言葉を紡いだ。
────……母は、助からなかった。

ずっと励ましてくれていたおばさんたちが私よりも早く泣き出す。
私には医者が言っている言葉を頭が理解するまで時間がかかった。だってまるで、これじゃあドラマみたいじゃないか。両親を亡くして残された子供が親戚に引き取られていくという話にそっくりだ。そこから残された子供の成長の物語が始まる。でもこれはドラマじゃなくて現実で、私には両親をなくしてしまって独りになってしまった今、成長もクソもなにもない。私がこうして生きている以上この絶望感からは逃げられないし、逃げられない状態で生きていたって私はきっとまともな人間にはなれないと覚ってしまった。だって私には母が全てだったのだから。

ねぇ、神様。これはあんまりではないでしょうか。どうして私から二人も大切な家族を奪い取ったんですか?私は何か悪いことをしましたか?それはなんですか?
私は今まで真面目に頑張って生きてきたつもりなのに……母だって私のために私以上に頑張って生きていたのに。
忙しい母の手伝いだって毎日した。勉強も欠かさずやって、塾にも学校にも毎日休まず通って、友達とだって嫌なことがあっても私は全部堪えてなるべく問題を起こさないようにしてきた。でももう全部、どうだっていいや。
生きている意味がない。大切なものがない。頑張ってきた意味もない。こんなことになるのならどうして私は生まれてきたの?あぁ、もういっか。全てに意味がないのなら、全て投げ出してしまえばいい。




私を引き取るのはやっぱり親戚の人達。すぐにでもこっちに来たいと言っていたのだが今すぐには無理らしく、申し訳ないが今日の夜は家で寝てくれと言われた。そもそも母の事故死自体が急だったため、私はそれに「分かりました」と返した。隣のおばさん達が「私達の家で過ごしても良いのよ」と言ってきたのだが私は首を横に振り、出来る限りの笑顔を浮かべた。

「いえ、大丈夫です」

もう全て、私には関係ないことだ。








翌日の朝、とある家で高校生が首を吊って亡くなっているのが彼女の親戚によって発見された。

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