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あの大きな岩を斬った日、呆然と固まってしまった私。師範は「よく頑張ったな〜!」と嬉しそうに言いながら、私をギューッと強く強く抱き締めた。師範の大きな手が頭に乗せられた時、ふとその手の温もりが親の手と似ていて思わずボロボロと涙を溢してしまった。今世の親の温もりだけでなく、前世の母の温もりまで思い出させてしまうような師範の手は怪我だらけでお世辞にも綺麗な手とは言えないが、鍛練の証が残った男らしい手だと私はそう思う。

「納豆、お前が最終選別に行くことを認めよう」

その言葉と共に私は数カ月後の最終選別に送り出される。最終選別を受けるに当たっての師範との約束事はただ一つ。必ず、生きて帰ることだ。





『いいか納豆、お前の言う「刀が波打つとき」っていうのは相手に隙が見えた時だ。お前の勘を全力で信じて刀を振れ』


今日は最終選別当日。朝、師範に送り出されるとき最後に言われた言葉。師範が「藤の呼吸は第六感に優れた者にしか使えない」と言っていたけど、それは師範も第六感に長けているということなのかな。
最終選別の会場、藤襲山ふじかさねやまに着くとその山は藤の花が大量に咲き誇っており、その光景に私は「うわぁー…」と口をぽかんと開けて見とれてしまった。それにしてもなんでここ山はこんなに藤が咲いているんだろう。まだ咲く時期でもないのに。
最終選別には意外とたくさんの人が集まっていた。目付きの悪い男の子や、可愛い女の子、そしてもうすでにボロボロにされている男の子。他にもずらーっと。なんであの子あんなに殴られた跡があるんだよ。まだ選別始まってすらないのに。しかし、ここにはまだ炭治郎はいなかった。そして私は今頃重要なことに気がついてしまった。炭治郎は最終選別を受ける、これには確信がある。でもその炭治郎がこの年の最終選別を受けるかはわからないじゃん!!!もしかしたらもっと前の最終選別を受けてるかもしれないし、次の最終選別を受けるかもしれない。だからこの最終選別で会えるとは限らないじゃんかー!!!え、これ、炭治郎達に会えるのって先延ばしになるやつ?と、私は盛大に落ち込んでしまう。はあ…とため息をついたとき、私がたった今上ってきたすぐ後ろ階段から、誰かが上ってくる音がした。


その音を聞いてつい反射的に振り返ったとき、私の目に映ったのは狐の面を頭の横につけた懐かしい炭治郎の姿だった。
炭治郎と私の目が合った瞬間、炭治郎は目を大きく見開いた。

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