2

「……ごめん、善逸。言い過ぎた」


溢れんばかりの涙を両目に溜めた善逸が、今にも泣き崩れそうな表情で私を見上げている。そんな善逸の姿を見たくなくて善逸と目を合わせないように視線を泳がす。そして私の羽織の裾を握っていた善逸の手が離れる。
自分の気持ちをまんまと言い当てられたことが嫌だった。自分の弱さを他人に見せることが恥ずかしい。人を頼るのはいい。頼られるのもいい。でも、自分を弱い人だと思うのは自分だけがいいんだ。自分勝手なことだというのは分かっている。だけど、弱さを見せたら下に見られそうだし。男の中にも相手が女ってだけで威張り出す人もいるくらいだ。
善逸は女の子に優しいから心配してこう言ってくれているのは分かっている。あくまで人としても、私は善逸が好きだ。だからこそ善逸とは対等な立場でいたい。舐められたくない。
善逸達は優しいから私が「怖い」と素直に言ったら身を呈して守ってくれるに違いない。私はそれが怖くて仕方がない。私の為に誰かが死ぬかもしれないと思うと夜も眠れなくなる。それが大切な人達なら尚更だ。
死んで欲しくない。死にたくない。対等でありたい。もう、……失いたくない。
皆が私を庇って死ぬくらいなら私が死んでやる。


「納豆ちゃん……?」


急に黙りこくってしまった私に違和感を覚えた善逸がおずおずと私の名前を呼んだ。その声にハッと意識が呼び戻される。
また自分の世界に入ってしまっていた。私の良くない癖だ。気付いた時には自分の世界に入っていて悶々と一人で考えすぎてしまう。今ここに炭治郎が居なくてよかった……。もしもここにいたら何を考えていたのか全て言えと言ってくるに違いないから。誤魔化そうとしても鼻が良いからバレちゃうし。


「なんでもない。私、もう行くから!」
「ちょ、ちょっと待って!!!」
「…何?」
「お、俺も一緒に行くよ!…ごめん、俺男なのに怖がってばかりで。炭治郎にも怒られるよな……。頼りないかもしれないけど、俺が納豆ちゃんを守るから…!!」


ズキリ、と胸に痛みが走る。
違う。私は守って欲しいわけじゃない。ただ皆で対等に頑張りたいだけなんだよ。
ねぇ、気づいてよ。


「……納豆ちゃんは、言葉足らずすぎるよ」
「え?」
「…なんでもないから!!よし、行こう!しれっと炭治郎の奴、禰豆子ちゃんも持っていってるし!!!」
「あ、うん。そうだね。早く行こう」


善逸が最後に何を言おうとしていたのか。少し気になったけど、炭治郎達を追うのが先決だと思ったので私は執拗に問いかけるのを止め、善逸と並んで山の中に走り出した。
善逸の鎹鴉(雀)のチュン太郎と、豆太郎が頭上から不安そうに私達を見下ろしていたことには気が付かなかった。

TOP