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「納豆チャン!お、俺から絶対に離れないでねッ!!!何かあった時は俺がまもっ、守るから!!!」
「うーん、そんなに足腰震えながら言われても……」
「だって凄く怖いんだよお……」


私の手を引く善逸は足腰が笑えるほど震えており今にも倒れてしまいそう。でも彼がこうして山の中に入ろうとしてくれたのはとても嬉しい。以前は鬼を怖がって逃げようとしていたのだから、それと比べるとこれはかなり重要な成長を遂げたのではないか。後で炭治郎に善逸のこと褒めてあげてと言っておかないと。善逸は誰かから愛されたいから。それは恋愛に限らず友人として、家族として、と愛の形はバラバラ。でも善逸の心の箱には穴が空いているからいくらこちらが愛をあげてもその穴から少しずつこぼれ落ちていっていずれは無くなってしまう。だから彼には永遠に愛を注ぎ続けられる人が必要だし、彼の心の箱の穴を塞がないといけない。私は善逸に『友達としての愛』を注ぐことはできるけれど、心の箱の穴を塞いであげることはできないと思う。まず塞ぎ方が分からない。多分だけどその穴を塞いであげるのは、炭治郎なんじゃないかと思っている。炭治郎は無条件に人を愛せる人だ。私も炭治郎から色々な愛を貰った。きっと善逸も今、炭治郎から愛を貰っている途中だろう。だから善逸がそのことに気づき、周りの環境に恵まれていると感じたら、そのときは善逸の箱の穴が埋まるのかもしれない。
出来るならばそのとき善逸の近くで私達も面白可笑しく笑って居られたらなと、そう思う。


「炭治郎達見つからないね」
「うん……音もしないし。アイツら俺達を置いてどこに行ったんだよおぉぉ……!!」
「まあまあ、きっと炭治郎達のことだから大丈夫だとは思うんだけど……。この山に居る鬼は皆強そうだからちょっと心配だね」
「俺は俺が死なないかが心配デス。ハイ」
「う、うん。そうだね」


とか何とか言っているけど、何だかんだ善逸は自分よりも人を助けるタイプなんだよね。未だに善逸が戦ってる所を見たことがないんだけど善逸はどんな風に戦うんだろう。見てみたいな……。


「ちょ、ちょっと休憩しようよ…!お、俺心がそろそろ限界……っ!!」
「えー……炭治郎達まだ見つかってないよ?」
「アイツらならきっと平気だから!炭治郎も伊之助も強いから!今頃しぶとく鬼でも狩ってるよ!!」
「確かに死んではないと思うけど……。でもなあ……」
「ちょっと!ほんのちょっとだけ!!心が落ち着いたらまた直ぐに動くから!!ね!?許してちょうだいなッ!!!」
「わ、分かったよ……少しだけだよ?」
「ゔん!!ありがどゔッ!!」


善逸はペコペコと頭を下げ、嬉し涙を流しながら木の側にしゃがみ込む。なんとなく善逸の横にしゃがむ気が起きなかったので私はその場に立ったまま善逸の心が落ち着くのを待つ。「禰豆子ちゃんどこだよ炭治郎もどこ行ったんだよ…」とブツブツと呟いている善逸。
少し経つとようやく心が落ち着いたのか「よ、よし…行こう」と言い、ゆっくりと重い腰を起こして立ち上がる。そんな善逸の姿に私は深くため息をついた。自分のことで精一杯になっている善逸は呆れ返っている私の様子にも全く気が付かない。大丈夫なのかな、これ…。何だか少しずつ心配になってきた。
善逸が私の手をとり、再び歩き出す。もう手を繋ぎすぎたせいか善逸ってば私と手を繋ぐことに戸惑いが無くなってるよ……。
だけど必死に頑張っている善逸の姿を見るとどうしても憎めず、『頑張ろうね』という想いを込めながら善逸の固く大きい手をキュッと握り返した。

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