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※原作とは違う展開になります。ご注意ください。










私達、Iチームと戦うのはBチームの轟君と障子君。つまり3対2の勝負になる。どうしてもう片方の3人チームと戦わないのかと言うと、これがクジ引きによって対戦相手が決まるからだ。ちなみにもう片方の3人チームとは切島君と瀬呂君と炭治郎のJチーム。残念ながら彼等とは今回は戦わない。
Bチームの轟君は推薦入学者らしく、どのような個性なのかがとても気になる。障子君もガタイがいいから肉弾戦で来られたら少し手こずりそう。どうやって勝とうか。こっちは透明化の葉隠ちゃんと尻尾を持つ尾白君、そして音波の個性を持つ私。轟君のコスチュームから察するに、氷系統の個性を持っていそうだけど…。それだけだったら私の個性を使えば氷は簡単に破壊できる。そこを武闘派の尾白君と私がそれぞれ轟君と障子君を捕まえる。もし上手くいかなくても葉隠ちゃんなら気付かれずに近づくことができるから、捕獲のサポートをしてもらえばいけそう?
まだあの二人の個性が具体的に分からないから誤算は生まれるだろうけど、とりあえずはこんな感じでいこう。Bチームに作戦が聞こえないように二人から離れてその作戦を尾白君と葉隠ちゃんに伝えると、二人は「分かった!」と大きく頷いた。とりあえず私達の作戦会議は終わり。
それより今は……あの荒れている二人を見守ろう。
目の前のモニターには緑谷君と爆豪君が激しい戦闘を繰り広げていた。





緑谷君チームと爆豪君チームの勝敗はというと、結果的には緑谷君チームが勝利を収めた。しかし戦闘が終わって倒れたのは緑谷君の方。勝った方がボロボロになり、負けた方はピンピンしている。よく爆豪君のあんな一方的な私怨丸出しの攻撃を受け続けられたなあ。私だったらブチ切れて思い切りやり返しちゃうけど。モニターでは彼等が何の会話をしているのかオールマイト以外は分からないから、私達からすると爆豪君がキレ始めて緑谷君を一方的にリンチしていたようにしか見えなかった。
うーん…厳しいこと言うようだけど、爆豪君ってヒーローになっても……いいの…?敵顔なのは生まれつきだから仕方ないだろうけど、ヒーローってもっと人に優しいイメージがあるんだよね。そりゃ、個性は凄いからヒーローとしての素質はあるんだろうけど。……まあ、そこらへんはこれから先生達が矯正していくか。
というか爆豪君の個性も派手で気になるけど……私は緑谷君の個性も気になるなぁ。超パワーって感じ?まるでオールマイトみたい。
そんなことを考えていたらあっという間に次は私達の番。私達が敵役だから先に建物の中に入ることに。
建物の中に入る直前、自然と私の視線は切島君達と楽しそうに談笑している炭治郎を捉えていた。……なんだろう、この、胸の中を掻き乱される感じは。自分の感情に疎い私がこの気持ちを理解するには明らかに経験と情報が足りなさ過ぎた。


‐‐‐‐‐‐


「じゃあさっき乙藤さんの言っていた作戦通りに!」
「よーし…私、頑張るよ!」
「状況によってその都度作戦を変えないとだから二人のこと振り回しちゃうかもだけどよろしく!」


本気を出すと言って手袋も靴も脱いでしまった葉隠ちゃんを私達はもう見つけられない。葉隠ちゃんは今全裸なわけだから下手にぶつかると彼女の生肌に触ってしまうということ。尾白君、お互い厳重注意で動こうね!
葉隠ちゃんは自分の指定位置に移動し、私達も核の前で彼等を待つ。
そして、私達の戦いは幕を開けた。

──パキパキパキッ

戦闘が始まった早々に建物を大量の氷が包みこんだ。やっぱり轟君の個性は氷だったんだ!なら障子君の個性は……?


「乙藤さん、氷を!」
「任せて!」


私はスゥッと息を吸い、

──思い切り叫んだ。


「あ゙ーッ!!」


ビリッと空気が振動する。そして私は個性を発動させた。


──ピシッ、ピキッ、バキンッ!!


私の声の音波は元の波動よりも大きく振動して周りに広がり、地面や天井を覆い尽くしていた氷を割った。隣で耳を塞いだ尾白君が引き攣った笑顔で私を見ながら「ナ、ナイス…」と控えめに言った。……すみませんね。まだ個性の操作が上手くいかないんですよ。
無線で葉隠ちゃんの方に連絡を取ると、葉隠ちゃんの方の氷も根こそぎ割れたらしい。とりあえず尾白君の耳が死ななくてよかった。
葉隠ちゃんの安否を確認した私は窓から下を見下ろす。建物の外には障子君が立っていた。…やっぱりだ。轟君の個性だと障子君を巻き込んじゃうかもしれないから外に避難させるんじゃないかと思ったが、それは見事大当たり。しかも障子君の体からはよく分からないけどなんか触手のような物が伸びており、その先っちょには耳や口などが付いている。あれが障子君の個性か。つまり、あくまで障子君の個性は戦闘向きでは無いということ。調査向きの個性…?だとしたら葉隠ちゃんの居場所はバレているかもしれない。
そう思った時、パキッと扉の外から割れた氷の破片を踏みしめる音が聞こえてきた。
その音に私と尾白君はすぐに戦闘態勢に入る。……轟君だ。彼は葉隠ちゃんを拘束するよりも核本体を狙いに来ることを選んだらしい。きっと轟君はこの部屋を開けたらまたすぐに氷で部屋の中を凍らせる筈。なら私は個性の発動を準備していなければ。
──私の個性、音波は私の声の振動を大きくしたり、小さくできたりする個性。なんなら岩も壊せるし、高い音で相手の耳を一時的に使えなくさせたり、相手の脳にダメージを与えて気絶させたりもできる。これが結構万能だったり。中距離からの戦闘向き。だが私は鬼殺隊として鍛錬を積んでいる身だから接近戦でも平気だ。ただ、戦いながらだと個性の操作がしにくいのであまり同時に使ったりはしないかも。そして音波を操作できるのは私の声のみ。他の人の声だったり日常で聞こえる音を操作したりはできない。私の声が出る限りは戦えるので不便した事は無いけれど。
ガチャリと、この部屋と廊下を繋ぐ扉が小さく開かれる。その瞬間、私の予想通り再び氷が部屋を覆い始めた。


「あー!」


すかさず個性を使えば割れる氷。しかし、轟君は氷を放つ勢いを止めない。負けじと私も声を出し続けていたとき、あっ、と気がついた。
轟君は私の息が切れて声を出せなくなる瞬間を狙っているのだと。確かにこの勢いで出され続ければ私が再び息を吸おうとする一瞬の間に部屋ごと氷で覆うことは可能だ。私の個性相手には最も効率的なやり方。
でも簡単には行かせない……!
私は扉に全力ダッシュで向かい、小さく開いている扉を力いっぱい蹴った。その反動でバタンッと閉じる扉。扉の向こうで轟君が「おっ」と声を漏らしたのが聞こえ、その瞬間パキパキっと扉が氷で凍り付く音がした。
向こう側から氷で閉ざされたこの部屋に入るには轟君がその氷を何とかしなければいけない。でも流石にそれには時間が掛かるでしょ!それで時間制限を迎えて私達の勝ちっていうのが一番理想的。だけどまあ、そう簡単にはいかないよね。
チラッと窓の方に視線をやると、障子君の個性でこの階まで伸ばされた手が窓ガラスをパリンッと突き破って部屋に入ってきた。


「こっちは俺が何とかするよ!」


尾白君が尻尾を使ってその手を弾き飛ばす。だが次々に窓から障子君が複製した手が侵入してくる。でもそこは尾白君がきっと何とかしてくれるだろう。
だから私は轟君を警戒して──
視線を扉に戻したとき、扉の下から水が漏れているのが視界に映る。それはまるで、氷が溶けたかのような水・・・・・・・・・・・


「…………まさか、」
──バンッ!


私が扉の向こうで轟君が何をしているのかに気がついたと同時に、扉が勢いよく蹴破られた。


「お前の個性、俺と相性が悪ぃみたいだな」
「……氷と炎の複合系個性って、チートすぎるでしょ」


私の言葉に轟君の目が、スッと細められた。


……こうなってしまったら私から攻撃を仕掛けるしかない。轟君には悪いけど、ちょっと気絶してもらう──!


「ごめんね!!」


そう叫び、私は個性を発動させる。
だがしかし轟君は私がそう出ることを察していたのか、私の音波が自分の脳に届かないよう氷を障害物として自分の回りを囲った。
バキッと割れる氷。今度は轟君が氷で攻撃を仕掛けてくる。それも私は個性で割り、私達は防戦一方。
どうしよう…と頭を抱えた時、轟君が「フッ…」と小さく笑った。


「良いのかお前、そんなに自分の個性を乱用して。俺は氷でいくらでも防げるが…お前の仲間は、もろに食らうんじゃねえのか?」

「…………あ゙っ!」


一瞬、何のことを言われているのか分からなかった。だがすぐに轟君が何を指しているのかを察し、私は彼──尾白君に視線を向けた。


「うっ、ぐ……っ!」
「お、おお、尾白君んんんん!!ごめんよぉぉおおおお!!すっかり忘れて個性乱用しちゃったあああああ!!」


そこには頭を抑えて倒れ込む尾白君の姿が。被害に遭ったのは轟君じゃなくて尾白君だった。これ以上、私が個性を使えば尾白君が危険なことになる。
……私はもう個性を使えない。つまりそれは、私達の────
『負け』と、頭の中にその文字が浮かび上がったときだ。



「納豆ちゃああん!!私も加勢するよーッ!!」



──この状況を打開する、彼女の声が部屋中に響き渡った。



「っ、葉隠ちゃん!」
「おりゃあああッ!!」
「……っ!?」



私が彼女の名前を呼んだ時、轟君は『見えない何か』に後ろから引っ張られ、そのまま体勢を崩す。私は迷わず体勢を崩した轟君に突進する。轟君の体にぶつかるとドンッと体に強い衝撃が走り、轟君は盛大に後ろに倒れ込む。
そして恐らくまだ近くにいる葉隠ちゃんに向かって叫ぶ。


「ここは任せたよ!!」


すぐに立ち上がった私は轟君を姫抱き・・・すると、全集中 常中をフル活用して急いで部屋から飛び出した。あっという間に核のある部屋から離れた場所まで走ると、腕の中でポカンとしている轟君をポイッと放り投げる。轟君は床に着地すると、眉間に皺を寄せて「…何のつもりだ」と苛立った声を出す。


「あのまま部屋に留まり続けてたら私達は確実に負けてた。でも葉隠ちゃんが駆けつけて来てくれたから本当に助かっちゃったよ。……あれだけ二人から離れた場所なら、私がいくら個性を使おうとも平気だよね」


ドヤ顔をかます私に顔を顰める轟君。だがふいに、何かに気づいたかのように表情を元に戻し「もしかして…」と私に対して口を開いた。



「お前、鬼殺隊か?」

「……え?」



彼の言葉に、周りの空気が一気に冷たくなったような気がした。











「ヒーローチームWIN!!」



何も言わない轟君と何も言えない私の気まずい空気を壊すかのように、無線からオールマイトの私達敵チームの負けを知らせる声が聞こえた。どうやら尾白君達の方が負けてしまったらしい。私の個性のせいで尾白君がダウンしかけていたし、葉隠ちゃんもあまり戦闘向きではないから障子君のあの手の数に押されてしまったのだろう。でも仕方ない。最後まで粘りきった。
それに何より、この気まずい空気を壊してくれたので正直感謝している。
まともに轟君の顔を見ることが出来なくなって俯く私に、轟君は「戻るぞ」と静かに声を掛けてきた。その呼び掛けに私は「……うん」と、答えることしか出来なかった。





そして講評の時間。私達の戦闘は中々皆から好評だった。ただ、私の尾白君の存在を忘れて個性を乱用してしまい味方をダウンさせてしまった失態については厳しく指導された。轟君は個性の使い方は良かったものの、途中の油断で葉隠ちゃんに背中を取られたことを指摘された。葉隠ちゃんはすかさず味方に合流したことを褒められたが自分が戦闘する側に回った途端に垣間見えた動きの鈍さを。尾白君は私の個性をもう少ししっかりと把握した上で動いた方がいい。障子君は轟君の氷が破壊された時点で自分も建物の中に踏み込んだ方が良かったと、それぞれの欠点を指摘された。
それらを纏めた上で結果的に私達の中で一番動きが良かったのは轟君ということに。あぁ、残念だ。オールマイトに私も動きはとても良かったし、轟君の氷の攻撃によく対応していたよとフォローされたけどそれでも轟君の方が良かったと言うのなら、やはりそういう事なんだろう。
いつも鬼と対峙して戦闘には慣れているというのに。それなのに、負けてしまった。師範が知ったら何と言ってくるんだろう。怒られはしないだろうけど「まだまだ鍛錬が必要だな!」と言われてしまいそうだ。ごめんなさい、師範。でも次は必ず……。
次のチームの戦闘が始まるのを待ちながら、そんなことばかりを考えてしまった。
途中、尾白君と葉隠ちゃんから「核、守りきれなくてごめん…」としょんぼりとしながら言われた。それに対して私が「大丈夫だよ!二人のおかげであそこまで粘れた訳だし!」と言うと、二人はホッとした表情に変わる。尾白君にダメージを与えてしまったことを謝ると彼は「いいよいいよ!」と軽く笑いながら許してくれた。あー優しい世界だあー。




「お前、鬼殺隊か?」




「……」

轟君のその言葉が、頭の中にこびり付いて一日中離れなかった。

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