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「納豆先輩……い、今……白鳥沢って言いましたか?」
「え、あ、うん。言ったけど?」


おずおず、と聞いてくる仁花ちゃんに若干狼狽えながら肯定すると、散った筈の先輩達がまた私を中心に集まりだした。今度は潔子先輩を除いて。多分これはバレーボール好きによる好奇心と対抗心の反応だろう。私は、顔は知らなかったけど男子バレーボール界であの牛島さんを知らない人なんて早々いないだろうし。
ただ、珍しく月島くんも反応していたのがかなり驚いた。……東京合宿で木兎さんとか黒尾さんとかに感化されたのかな?そういえば改めて見ると全員の顔つきが大分変わっているように見える。かなりの曲者揃いの合宿だったしね。


「あの!ジャパン……あ、ウシワカはどんなでしたか!?」
「スパイクの威力とかは!?」
「何で最初から教えてくれないんだよー」
「白鳥沢に知り合いいるとかやべぇ!」


反応も人それぞれだけど、全て聞き取れてしまったので聖徳太子になったような気分かも。てか、私って白鳥沢に行くって伝えてなかったっけ?
皆が私を問い詰めるが、私はそんなことを悶々と考えていた。


「私……白鳥沢に行くって言ってませんでしたっけ?」
「言ってない」「一言も」


どうしたら再びこの場を納めることができるのか、私は思考を巡らす。というか、皆さん合宿が終わったばかりなのにちょっと元気過ぎない?もっと静かになるのを予想してたのに。あ、それが烏野か。


と、そのとき夕が何か思い付いたような表情で私に喋りかける。


「てか、納豆のことだからウシワカのスパイク一本取って帰ってきてそーだな!」
「え」


その言葉に私が間抜けな声を出した途端、澤村先輩達が次々に「まさかなー!」や、「さすがにウシワカはなー」と、まるで私が取れなかったかのような反応をしはじめた。

──あれ、これ誤解されてる?

さっきの「え」が、何言ってんだコイツ取れるわけねーだろ、みたいな意味に捉えられてしまったのだろうか。な、なんだかそれはそれで癪に触るな……。
自分の気持ちに正直な私はさっきまでの過ちを忘れてしまったのか、ムスッとした声で、ずっと笑っている皆に向けて言葉を放った。


「牛島さんのスパイク、私取りましたから。一本だけ、ですけど」


その言葉で、皆が……特に夕が、目をこれでもかと言うほどに見開き唖然としていた。
あ、この表情……私が牛島さんのスパイクを取ったときの白鳥沢の人達と似てる──。


「まっじかよ!?納豆ならいつかやっちまうかもって思ってたけど!!」


グイッと夕が顔を近づけて興奮したように喋る。
……そういえば、私の才能を発掘してくれたのも夕だったよね。あの日の私は何だこの人、みたいな心境だったけどもしもあの時夕がしつこく関わってくれなかったら今私はここにいない。


「ウシワカのスパイクどんなだったんだ!?納豆でも一本だけってことは、かなりやべぇやつなんだな!ワクワクしてきたぜぇ!」
「一セットだけだったけどね。かなり凄い人だったよ。さすがは全国三本指のスパイカーって感じだった。私も最初全然取れなくて、最後あたりで体力とかが諸々減ったときに取れたって感じだったからなぁ……」
「うおぉ……!ますます燃えてきたあああ!」
「あはは……、でも夕なら取れるって信じてるから。春高予選で絶対に決勝行ってね。それで、私の分までたっくさんのスパイク取ってきて!応援してるから!」


夕と話していると、あの時の興奮とか感動とか悔しさとかを思い出してしまい、食い気味で夕に話す。
そんな私をみた夕は、最後力強く頷くと強い意思の籠った目で「あったりめーだろ!」と、言いニカッと笑った。きっと大丈夫。
夕は、皆は、烏野は、白鳥沢に──勝つ!
それで皆で……春高に行くんだから!


「頑張って」


私が最後に笑って言い放った言葉。もう何度目かも分からない沈黙が走り、「え?」と思った次の瞬間には三年生と二年生(龍と夕)の人達がブワッと涙をこぼした。


「えっ!?」
「朝霧……っ!こんなの久しぶりだぁっ!」
「うおおおお!!頑張るぞぉおおおお!!」
「うぁあああああ!」
「…………これ、IHのときの清水さんのあれと同じですよネ。縁下さん」
「うん、そうだね。デジャヴだ」
「納豆先輩があんなに言うなんて……ウシワカはやっぱりアナドレない!!な、影山!」
「おう……。逆にいうとそんな牛島さんに認められる及川さんもやべぇな」
「はっ!!」


一人一人が個性豊かで、まとまりがない。
それでも、試合の時になると全員相手を射るような目をしている。今はもう、思うことは全員一緒。


「春高予選、全部勝って──東京、オレンジコートに行くぞぉお!!」
「「おーっす!!」」


烏野高校、
──再び全国に向かって羽ばたきます!