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side 縁下



「ノヤっさん見ろ、美女二人が戯れている」
「あぁ、そうだな龍。実に美しい」
「潔子さん万歳!!」
「朝霧さん万歳!!」


西谷と同じクラスの朝霧さんと清水先輩が話している姿を見て鼻の下を伸ばしている西谷と田中。確かに朝霧さんは2年の中でも可愛いと噂になっている子で、清水先輩と一緒に居る姿はとても絵になる。清水先輩もかなり朝霧さんを気に入っている様子でさっきから朝霧さんが戸惑っているのにも関わらず頭をずっと撫でている。まるで姉と妹だ。……にしても、朝霧さんが引いた目で西谷と田中を見ていることに本人達は気づいていないのだろうか。これからのこともあるから朝霧さんが入部してくれた方が助かるからこのまま上手く入部してくれないかな。


「縁下、ちょっと来てくれ」
「あ、はい!」


大地さんに手招きされ、そっちまで行くと清水先輩以外の3年の人達が揃っていた。


「朝霧さんのことなんだが、俺達は今年で引退するしその後の後釜がいない。清水も最近頑張ってくれているし、俺達としては朝霧さんにマネージャーになってもらえると凄く助かる。だから縁下、お前達2年からも朝霧さんがなんとかマネージャーになるように何か言ってくれないか?頼む!」

「……」


チラリと朝霧さん達の方を盗み見ると、日向と影山が朝霧さんに「練習に付き合ってください!」と、頭を下げていた。戸惑っている朝霧さんの腕をずっと掴んでいる清水先輩にそれを未だに鼻の下を伸ばしながら見ている田中と西谷。月島と山口は遠くで駄弁っている。山口が月島に話しかけるような形だが。成田と木下は心配そうにこっちを見ている。大地さんも旭さんも菅原さんも、俺を真剣な目で見つめていて、その目からはバレー部に対する気持ちがどれほどのものかが見てとれた。きっと皆本気だ。なら俺も、頑張らないとだよな。

俺は大地さん達に再び視線を戻すと、そう強く心に決め深く頷いた。今年こそ、この仲間達と春高に行くために。










「うわーお……」


今、私は1年の日向くんと影山くんの速攻とやらを見せて貰っている。日向くんを一目見たときはこんな小さな子が?なんて思ったが侮るべからず。160ちょっとの男の子があんなに高く跳べるなんて思ってもいなかった。それにあの影山くんのトス……さっきまでの私を殴りたい。正直に言おう。私は今、バレーに対して興奮している。今だったら西谷くんに素直にお礼が言えそう。


「朝霧先輩どうでしたか俺達の速攻!」
「日向お前落ち着けよ」
「べつにいいだろ影山ぁ!!!」


……すごい、すごいや、この子たちは。


「朝霧先輩はマネージャーやりますか!?」


マネージャー?あぁ、そんな話もあったね。


「俺、先輩にもっともっとバレーの良さ知ってもらいたいです!」


もう充分に教えてもらったよ。凄いよ。


「今の朝霧先輩、楽しそうです」


そりゃそうだ。あんなに凄いもの見せられたんだからね。


「先輩、俺達と『バレーボール』しましょう!」


…………そうだね。君達と『バレーボール』してみたいな。


「……こんな私がバレー部に入っても良いの?」
「!」
「勿論です」


驚く日向くんに間髪入れずに答えてくれた影山くん。……なんだろう、私は私が思っていたよりも単純な生き物だったみたいだよ。
マネージャーなんてやらないって思ってたのが今じゃ真逆のこと考えちゃってる。こんなにあっさりと考えを変えてしまった私がマネージャーなんて、迷惑になっちゃいそうだ。
でも、でも…………



「私、マネージャーやりたい……」


この気持ちを本能で抑えるのは無理だった。


この人達のバレーボールを見たいと思ったから。この人達に着いて行きたいと少しでも思ってしまったから。
────あぁ、やっぱり、私は案外とても単純な生き物だ。
私がそう言った瞬間に嬉しそうに笑ってくれたバレー部の人達の顔を見て、嬉しくなってしまったのは仕方がないことだよね。
後日、私は1年生の『谷地仁花ちゃん』という可愛い女の子と共にバレー部の入部届けを提出した。入ったばかりなのに後輩ができてとても嬉しかった。