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期末テストを無事に終え、2年生の単細胞組もなんとか赤点を回避することができた。……のだが、1年の単細胞組の日向くんと影山くんは惜しくも赤点をとってしまったようだ。本人達は自転車を使ってでも東京に行こうとしていたが。けれど、そんな二人を助けたのが田中くん。どうやら補習を終えた後に田中くんのお姉さんが迎えに来てくれるらしい。良かったね、日向くん影山くん。

この時期に入ってチームに馴染めるか不安だったけど、皆いい人で仲良くなれた。
ちなみに今は部活の休憩中です。


「納豆ちゃん、仁花ちゃん、明後日には東京遠征だけどもう準備とか終わった?」
「し、清水先輩!えと、わ、私は終わりました!」
「私ももう一通り終わってます」
「そっか、良かった。実は私も今回の遠征が初めてだから凄く緊張してるんだ」
「そうだったんですか……。でも今回は私も谷地さんも居ますし、いくらでも頼ってください」
「そ、そうですね!私も頑張りますっ」


手を握り締めて気合いを入れている谷地さん。妹みたいで凄く可愛い。
期末テストに向けて勉強熱心な谷地さんに勉強を教えてあげたり、一緒に私の家で清水先輩と谷地さんと勉強会をしたり。今年のテスト期間はいつもより何倍も楽しかった。今回のテスト結果もかなり良かったし。これも二人のお陰かな。


「それより納豆ちゃん」
「はい?」
「いつになったら潔子って呼んでくれるの?」
「あっ!!納豆先輩、わ、私も仁花って呼んでほしい、です!あぁっ、私なんかがこんなお願いしちゃってすみませんっ!!!」
「えっ、いいよいいよ大丈夫だよ!?」


ガバッと頭を下げ出す谷地さんに必死で頭を上げるように促す。どうやら二人曰く、名字呼びだと心の距離を感じてしまうらしい。確かに言われてみればそうかも。谷地さんも清水先輩も私のことを下の名前で呼んでいる。なら、私も名前で呼んだ方がいいのかも。そうと決まればすぐに行動に移すべし。私は躊躇いそうになる気持ちを必死に抑え、口を開く。


「潔子先輩に仁花ちゃん、改めてよろしくお願いします」


その後私は潔子先輩と仁花ちゃんに抱き締められ、虫の息になっているところを菅原先輩に救出されたという。


そして、いよいよ東京遠征当日になった。






ただいま東京へと向かっているバスの中です。隣の席には西谷くんが座っている。本当はマネージャーで三人並んで座ろうとしていたのだが、西谷くんが「話したいことがある」と言って、無理矢理私を横に座らせたのだ。
別に隣に座るのは良いんだけど……さっきから神妙な面持ちで黙りこくっている。私が彼の隣に座った意味とは一体。
私まで黙りこくっていると、ようやく西谷くんが私の方を向いて喋りだした。


「朝霧さん!」
「は、はい」
「納豆って呼んでも良いでしょうか!?」
「…………え」


もしかして話したいことってそれ??なんなんですかこの人。今更改まって。つい先日までは人の腕を掴んで連れ回すくらいできる根性持ってたじゃん。それを今更名前呼び程度で……?い、意味がわからない……。もしや本当はこの人も田中くんと同じ属性だったとでも言うのか。女の人を目の前にするとどもったり、顔を真っ赤にして逃げ出したり、今まで西谷くんがそんな様子を見せていたことはあったか?
……心当たりが全くない。じゃあなんで、


「朝霧さん?」
「あっ、ごめんね!全然良いよ名前呼びくらい」
「本当か!?」
「嘘は言わないよ」


「うぉっしゃあああああ!!」と、西谷くんは雄叫びをあげ、それを菅原先輩に叱られてしまった。自業自得だね。


「あ、じゃあ私も『夕』って呼んでもいい?」
「お、おぉおおお!良いぜ良いぜ!むしろ頼む!!」
「うん。じゃあこれから夕って呼ぶね。あ、田中くんのことも龍って呼んでも良いと思う?」
「泣いて喜ぶぜ、アイツなら」
「さすがにそれは……」







「うわぁああああああ!!!ノヤっざぁーん!おれっ、生きててよがったっす……!」

「ほらな!」
「……」


泣いて喜ばれました。







泣いている龍を慰めていると、ようやく目的地の東京に着いた。武田先生と澤村先輩の声で寝ていた人達も起き出し、それぞれの持ち物を持ってバスを降りる。
……日向くん達が居たら鉄塔を東京タワーとかに間違えそうだなぁ。
鉄塔を指差しながら目を輝かせる日向くんが容易く想像できてしまい、ふふっと小さく笑う。そんな私を見て首を傾げていた先輩達がいたことを私は知らない。


「ドーモ、澤村くん」
「おぉ、久しぶりだな黒尾」
「……なんか人数少なくね?あれ、でもマネの数増えた?」
「あぁ…………」


視界の隅で密かにされている澤村先輩と赤いジャージを着た男の人のやりとりにこっそり聞き耳を立てていると、どうやら今この場にはいない1年生の単細胞組の話をしていたようだ。澤村先輩が気が遠くなっているのを声からでも分かってしまう。きっと単細胞な後輩を四人も持って澤村先輩も大変なんだろうな。


「うぉおおおおお!」
「ひぃっ!?」


その時、見ていなかった前方から知らない人の叫び声が聞こえてきたと思ったら続けて仁花ちゃんの小さな悲鳴も聞こえた。反射的に前を向くと頭がモヒカンの人が涙を流しながら地面に崩れるように座り込んでいる。ジャージが赤いことから、澤村先輩と話しているあの人の学校の人だってことが分かった。
────なんだかこの人、龍達と同じ匂いが……


「マネが……増えてる……っ!可愛い系2人に美人系……っ」
「いいか虎よ」
「ハッ……」
「これが烏野の本気なのです」
「眩しィ!!」


潔子先輩が私たちを守るように手を前に出してきた。男より男前だ……なんて考えていると、龍が笑いながら私の肩に手を置いた。……え?


「いいか、虎。この方は見た目は神々しいが、中身はとても接しやすい。まずはこのレベルから接していくと良いだろう」
「おおお……!」
「名前は朝霧納豆……。ぜひ納豆と呼ぶといい!なっ、納豆!」
「う、うん」
「ハゥッ」
「えぇ……」


は、反応に困るんですが……。でも相手の人が号泣しながら喜んでいるのでまぁ、良しとしておこう。


「納豆、こいつは虎だ!仲良くしてやってくれ」
「分かった。よろしくね、虎くん」
「グハァッ……我が生涯に一生の悔いなし……」
「はぁ……ナニコレ……」


東京の人って皆こうなの?……いや、龍属性の人達のみか。
その後、夕と龍と虎くんが一緒になって私達の回りにいた人達を威嚇しており、私は深くため息をついた。