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体育館の中に入った瞬間に白鳥沢の応援の凄さに圧倒された。準備をしている時の烏野の荒れ具合は酷く、日向くん山口くん東峰先輩は腹痛に襲われて胃薬を飲んだり、夕と龍は白鳥沢の応援団の中にチアガールがいることにショックを受けたり。影山くんはセンターコートで試合ができることに目を輝かせていた。
ギャラリーの方でも烏野側は何やら荒れており、どうやら月島くんのお兄さんが密かに試合を見に来ていたらしい。いつも通りのようなじゃないようなそんな空気感に私はため息をついた。
それから少し経つと白鳥沢の応援団が歓声をあげ始めた。牛島さん達が入ってきたのだ。



白鳥沢が最初のコート練習でスパイク練を始める。全国三本の指に入るスパイカーの牛島さんのスパイクはまさに“桁違い”という感じで、ワンバンで離れた二階席にまでボールが届いた。だが白鳥沢というチームは牛島さんだけが強いわけではなく、他にも大平さんや五色くんのスパイクの時にも歓声が上がっていた。
白鳥沢の時間が終わり、今度は入れ替わりで私達烏野のコート練習に入る。ボール拾いに回ろうと移動しようとしたとき、いきなり後ろから「なぁ」と呼び止められた。


「あ、賢二郎! 久しぶり!」
「久しぶり納豆。本当に決勝まで来たんだ」
「もちろん。春高優勝するには賢二郎達に勝たないといけないからね?」
「へぇ? 言うようになったね。てか、何か雰囲気変わったね。前はもう少しナヨナヨしてたっていうか」
「ナヨナヨ!? ま、いっか……。でも覚悟しといて絶対に烏野が勝つから!」
「俺達は負けない」
「どうかな?」


小さな烏が暴れるかもね?








白鳥沢side


影山と日向の真下打ちスパイクを見せつけられた白鳥沢は烏野に対抗心を燃やしつつあった。両校ともコート練習を終え、各々で集合したりリラックスしたりなどして試合が始まるまでの時間を潰している。そんなリラックス中の白鳥沢の会話のネタになっていたのは烏野のマネージャーの朝霧だった。


「ねぇねぇ若利君、朝霧ちゃん居るよ!」
「朝霧は烏野のマネージャーだ。居るに決まっているだろう?」
「いやまあそうなんだけどサ! もっと「うわぁ〜久しぶり〜」とか無いの!?」
「俺は最近朝霧に会っている。だから久しぶりではない」
「エッ、そうなの!?」


牛島の何気に初知りな事実に天童は目を真ん丸にさせて驚く。ちなみにこの会話に聞き耳をたてている者が数名程いるのだが、当然の事ながら牛島は気付かず、天童は知っていながらそれを全く気にしないで放置していた。


「賢二郎、良いのかよ?」
「なんだよ太一、良いのかよ?って」
「だってお前納豆のこと好」
「やめろ縫うぞその口!!!」
「ごめんごめん」


聞き耳をたてている者とは、朝霧が夏休み中白鳥沢にお手伝いに来ていたときに何だかんだ同年代ということで一番仲良くなった白布、川西の二人である。
白布が朝霧に密かに好意を寄せていることに川西は一番始めに気づいた。二番目に気づいたのは天童、瀬見あたりか。他のメンバーは白布に意中の相手が居ることにも気づいてないかもしれない。
白布からしたら弄られるネタになるため知られたくないのだが、どうしてだかこの白鳥沢というチームには心を読むことに長けた“覚”がいるのだから最初から隠し通すことは諦めていた。


「てか別に……さっき納豆と話したし」
「え、いいなー。俺も納豆と話したかったー」
「お前は引っ込んでろ」
「うわーお。賢二郎くんってばもしかして怒ってらっしゃる?」
「……お前のその表情と合ってないセリフなんとかしろよ」


白布がため息をつくと、白鳥沢の監督である鷲匠がメンバーに招集を呼び掛けた。それを聞いてすぐに集まるスタメン。

「烏野のマネージャーは三年じゃなく二年が入る」

鷲匠の言葉に驚いた白布達が振り替えって烏野側を確認すると、確かに三年のマネージャー清水の代わりに朝霧がベンチに座っていた。


「まだ朝霧は発展途上・・・・だが、油断はするな。いつ化けるか分からねぇからな」
「「はい!」」


白布達の目付きが険しくなる。
『発展途上』その言葉の意味とは───