過保護なのが一番怖い

とある日の夕方、私と炭治郎は蝶屋敷の縁側に隣同士で座って話していた。善逸と伊之助は昨日の朝から二人で任務に行っており、カナヲはしのぶさんと外に出ていて皆明日まで帰ってこない。禰豆子ちゃんは部屋で寝ている。だから今、この蝶屋敷にいるのはアオイさんと私と炭治郎と禰豆子ちゃんとなほちゃん達ぐらい。たまに隠の人達が出入りしてくるけど基本的に静かだ。


「なぁ納豆、最近カナヲとよく二人きりになることが多いよな」
「え……あ、うん。カナヲちゃんとは女の子同士だから……二人になることが多いんだ」
「そうか。だったら俺、納豆にお願いがあるんだが」
「何?……お願いって」


ふいに炭治郎が私の右手をとり、ふにふにとその感触を確かめように触ってくる。私の心臓はバクバクと限界を訴えてくるように激しく鼓動する。炭治郎の熱の籠った瞳が私を射ぬく。
ただでさえ端整な顔立ちの炭治郎と隣同士で座っていることがもう既に心臓がやばいのに、そんな目で見られたらもう色々と限界突破してしまいそう。
これがいつもの心優しい炭治郎だったら、私はあっという間に恋に落ちていたかもしれない。だけどそう簡単に炭治郎を好きにならない理由があった。炭治郎自身に・・・・・・


「もうカナヲと話すのは止めてくれないか?」


ほら、また来てしまった……。










最初の頃の炭治郎はとても優しく、まるでお兄ちゃんのように頼りがいのある人だった。私は小さい頃に両親を亡くしており12歳になるまでお兄ちゃんと二人で必死に生活していた。そもそも鬼殺隊に入るきっかけとなったのが、鬼に唯一の家族であるお兄ちゃんを殺されたことだった。それもあって初めて会ったときからお兄ちゃん味のある炭治郎に私は甘えることが多く、炭治郎も私を妹のように可愛がってくれていたから常に炭治郎に引っ付いていた。それはもうべったりと。禰豆子ちゃんと同じくらい。禰豆子ちゃんも私を家族と認識しているらしく、私が泣いているときは誰よりも速く駆けつけて来て抱き締めてくれる。そんな竈門家の二人が暖かく、私は次第に二人から離れられなくなっていた。

しかし、そんなある時。那田蜘蛛山で炭治郎が大怪我をして禰豆子ちゃん諸とも柱合会議に連れていかれ、斬首されそうになったことがある。実はそのとき私はこっっっっそりと離れたところから見ていたのだ。多分柱の人達にはバレていたと思うけど、「邪魔してこなければ良い」みたいな認識だったんだと思う。炭治郎と禰豆子ちゃんの固く結ばれた家族の絆を改めて見て、私はこう思ってしまった。
『どんなに二人と仲良くなろうと二人とは本当の家族にはなれないし、あんなに強い絆で私達が結ばれることは一生無い』…と。
本物の家族の絆に敵うわけはないと最初から分かっていたのに、あまりにも二人が優しかったせいで私は勘違いをしていたのだ。……とても悲しかった。私達はあくまで『他人』なのだと現実を突き付けられてしまったから。

だから私はこれ以上悲しくならないようにと二人から距離を置くようになった。善逸と伊之助は最初の頃「なんで?」とよく問いかけてきたけど、その内何となく察してくれたのか代わりに二人が一緒に居てくれることが増えていった。私は家族の絆にばかり固執していたけれど、この善逸と伊之助の優しさに触れて友達の絆も暖かいのだと学んだ。優しい人や暖かい人達に囲まれて私は幸せ者だなと心からそう思うようになり、それから私は少しずつ他の人達とも交流していくようになる。そのとき仲良くなったのがカナヲちゃん。最初は全く話してくれなかったけど、多分炭治郎がカナヲちゃんに何か言ったのか、それ以降少しずつ私と話してくれるようになり今ではカナヲちゃんから声を掛けてくることもある。人と関わること。それはとても大切なことなのに。私はそれをずっと忘れていた。この経験がその大切さを私に思い出させてくれたのだ。だから私はとても現状に満足していたし、このまま少しずつ成長していこうと心に誓っていた。
しかしそれはあくまで私の中の話で、それを良しとしていなかった人がすぐ側にいた。

────そう。それが炭治郎だ。




機能回復訓練で炭治郎と私が全集中 常中を習得しようと奮闘していた時期のこと。炭治郎と二人きりになったり、ちゃんと話すのは久しぶりだった。でも全て降りきれていた私からしたらその状況は苦しくも何ともない普通の訓練。強いて言うのならアオイさんが怒るから善逸と伊之助も来て欲しいなと言うくらい。けれど、炭治郎は違ったらしく訓練の時も忙しなく私の方をチラチラと見てはアオイさんに「余所見はしない!!」と怒鳴られていた。普段真面目な炭治郎がそういうことで怒られているところを見るのはとても新鮮だった。いつも怒られるのは善逸辺りの担当だから。
そして訓練が終わった途端、何故か私は炭治郎に腕を掴まれ人気のない所まで連れていかれていた。そのときの会話を今でも鮮明に覚えている。


「急にどうしたの炭治郎?」
「っ、すまない!急に連れてきてしまって……」
「それは大丈夫だけど……」
「ちょっと納豆に聞きたいことがあるんだ……」


炭治郎の視線が私の視線と交わることは無く、炭治郎は視線を下に落としながら歯切れ悪く話し出す。これも珍しい様子。いつもは相手の顔を真っ直ぐ見て話すのだ、炭治郎は。塩らしい、そんな弱った様子の炭治郎に少しずつ心配になってくる。だが、その問いかけは実に可愛らしいもので。


「最近……俺や禰豆子とはあまり一緒に居てくれないが……どうしたんだ?か、代わりに善逸や伊之助と居ることが増えたよな。それに俺達だけじゃなくて隠の人や他の先輩とか。前は、人と関わるのが苦手で俺達に付きっきりだったのに……。
俺達じゃ、納豆の寂しさは埋められなかったのか?納豆が甘えられるようなお兄ちゃんに……俺はなれなかったか……?」


悲しげに訴えてくる炭治郎の姿に胸が締め付けられる。思えば、この件は私の中で勝手に解決させてしまったけど炭治郎や禰豆子ちゃんからしたらいきなり私が離れていったようにしか見えない。きっと混乱させてしまったんだろう。
私は罪悪感に苛まれながらも、炭治郎が私が離れていっただけでこんな状態になったことに対する優越感が少なからず胸の内にあった。必要とされているような気がして素直に嬉しかった。



「ごめんね、いきなり離れていくような感じになっちゃって……。炭治郎はお兄ちゃんみたいで一緒に居ると安心したし、家族みたいで大好きだったから今までずーっとくっついてきたよ。けどね、この間そのままじゃダメなんだってようやく気がついたの。善逸と伊之助のお陰で。炭治郎や禰豆子ちゃんは大好き。でも私達はやっぱり本当の家族にはなれないんだよ。離れるときは離れることになる。だからもう普通の友達同士の距離感に戻ろう。炭治郎は本当の私のお兄ちゃんじゃないから・・・・・・・・・・・・・・・・。本当にいきなりでごめんなさい」



きっと心優しい炭治郎なら許してくれる。そう信じて疑わなかった。
それが今までの炭治郎で、これからもそういう炭治郎で居てくれるんだと思っていたから。
確信を胸に下げた頭を上げると、真っ先に飛び込んできた炭治郎の表情は思わず息を呑んでしまうほどの無表情だった。



「…………るな」

「え?」








「ふざけるな」












喜怒哀楽のどの感情も表していない炭治郎の表情にただただ『怖い』と感じてしまう。


「ご、めんっ!ごめんなさい……!っ……たんじろ、」
「うるさい」


必死の謝罪もたったの一言で一蹴されてしまった。炭治郎は「来い」と冷たく言い放つと私の腕を乱暴に掴み、嫌がる私を無理矢理引きずりながら炭治郎の部屋に連れ込んだ。どうしてこんなに怒っているんだろう、といくら頭をフル回転させても馬鹿な私がその答えに辿り着けるわけが無かった。
いつもなら炭治郎の部屋には箱に入った禰豆子ちゃんがいるのに、その時は禰豆子ちゃんどころか箱すらも無くなっておりこの空間にいるのは完全に私と炭治郎の二人だけ。


「本当の家族にはなれない……?本当のお兄ちゃんじゃない……?何でそんなふざけたことを言うんだよ」
「ふ、ふざけてないよ……」
「ふざけてるだろ。だってそうじゃなきゃ納豆がそんなことを言うはずがない。俺達はちゃんと『家族』だったじゃないか。それをいきなり……。一体何が不満なんだ?」


ニッコリと笑う炭治郎だが、その瞳は依然として冷たいまま。実のお兄ちゃんにだってこんな風に迫られたことはない。
そもそも炭治郎は私のお兄ちゃんじゃないんだから。私が勝手に甘えてしまっただけで、炭治郎は禰豆子ちゃんのお兄ちゃんで、それで、それで……。


これほどまでに静かに怒る炭治郎なんて見たことが無かった。だからもしかすると、『本当に嫌われてしまうのではないか』と私は気が気ではなかった。炭治郎や禰豆子ちゃんは家族ではないと言ったけど、二人が大事で大好きなことには変わりない。ただ単に私は二人と元の『仲間』という関係に戻りたかっただけ。それがどうしてこうなってしまったんだろう。私はどこで何を間違えてしまったの?
恐怖から来る震えで歯がぶつかり合いガチガチと音をたてる。そんな私の様子を見て、何故か炭治郎は心底嬉しそうに目を細めて微笑んだ。
なんで?なんで笑ってるの?怖がってるんだよ?なにがそんなに嬉しいの?
炭治郎は優しく私の頭を撫でると包み込むように抱き締めてきた。その行為も今の私からしたら不気味で怖いものでしかないのに。



「あぁ……やっぱり納豆には俺がいないと駄目なんだ。外は怖いだろう?こんなにも震えてしまって……。無理をして人と関わろうとするからこうなるんだ」
「へ……変だよ、可笑しいよ炭治郎!」
「禰豆子も寂しがっているぞ。早く会って一緒に遊んであげてくれ……」
「あ……!禰豆子ちゃんはどこにいるの!?」
「禰豆子か?禰豆子なら今頃、善逸の所にいるんじゃないか?」
「善逸達のところ……?」



善逸と伊之助は機能回復訓練でカナヲちゃんに負け続けて心が折れてしまい、今は訓練に参加していない。その二人のところに行っているの?どうして?


「納豆と大事な話をするから、念のため善逸達がこっちに来ないよう見張るように頼んでおいたんだ。禰豆子も納豆と遊ばなくなってからだいぶ落ち込んでたから簡単に頷いてくれたよ。なぁ、俺だけじゃない。禰豆子も納豆を待ってる。前の生活に戻ることを望んでいるんだ。だから戻ろう。前の生活に」


禰豆子ちゃんが話に出てくるとどうしても心が揺らいだ。炭治郎がお兄ちゃんみたいだとしたら、禰豆子ちゃんは妹のようなもとだったから。禰豆子ちゃんに甘えられると私はすぐに許してしまう。あの寂しそうな目で見つめられると、母性本能が擽られてしまって甘やかさずにはいられない。
炭治郎がここまで言ってくれるのは嬉しかった。つまりは私が必要だから俺達から離れるなということが言いたいのだろう。


甘えていたのは、溺れていたのは、
私だけじゃなかったのだ。



「……でもまた人と関わらなくなったら善逸や伊之助とは話せなくなるの?そんなの嫌だよ私。せっかく前より仲良くなれたと思ったのに……」


善逸や伊之助と話せなくなるのは本当に嫌だ。同期だし、私が変われたのは二人のお陰でもあるからそんな二人と距離ができるのはどうしても許せないと思った。
炭治郎は私の言葉を聞くと顔をしかめて逡巡した様子をみせると、しぶしぶ…といった表情で「なら、」と口を開く。


「善逸と伊之助とは変わらず仲良くしても良いよ。……二人は蝶屋敷に来る前から一緒だったもんな。あの二人なら信用できる」
「え、本当!?……ぁ、でもカナヲちゃんは……?」
「……カナヲかぁ」


再び炭治郎が顔をしかめてしまう。善逸と伊之助のことを考えていた時よりも長い時間迷っている。カナヲちゃんは炭治郎と禰豆子ちゃんと離れているときに仲良くなった。だから炭治郎が気分を害して「駄目だ」という可能性も十分あった。
いつの間にか私は炭治郎に対する『怖い』という気持ちが無くなっていた。どうしてか分からなかったけど、炭治郎と会話をする度に心が落ち着いてきていたようだ。


「……できれば、あまり話さないでくれると嬉しい」
「そんな……」
「いや、カナヲは女の子だから絶対話すなって訳じゃないんだ。ただ……話すのなら、俺や禰豆子にもその分構って欲しい……」
「っ、うん!分かった!!!」


私は必死に頷き、カナヲちゃんと話すことを許された嬉しさから炭治郎に飛び付いてしまう。いきなりのことだったが炭治郎は驚きつつもしっかりと私を抱き止め、嬉しそうにはにかみ、私を抱き締め返した。
久しぶりの炭治郎の温もりだった。どんなに怖いと感じても、あの今までの優しい炭治郎は嘘なんかじゃ無かった。だから私はこのとき、『偶然炭治郎の逆鱗に私が触れてしまったのだ』と楽観視して受け入れてしまったのだ。この先、炭治郎の束縛が徐々に激しくなっていくとは全く考えていなかった。


「はぁ……やっと戻ってきた……」


炭治郎の大きな手が私の頭を撫でた。









「ムームー!」
「ごめんね禰豆子ちゃん。またいっぱい遊ぼうね」
「ムー!」


私に抱きつきながら嬉しそうにグリグリと頭を押し付けてくる禰豆子ちゃん。べったりと甘えてくる禰豆子ちゃんが可愛すぎて私はデレデレとしながら禰豆子ちゃんと遊んでいた。
このとき、そんな私と禰豆子ちゃんから離れた場所で炭治郎と善逸が言い争っていることなんて知らずに。




「──可笑しいって、炭治郎!」
「何が可笑しいんだ善逸?」
「炭治郎が納豆ちゃんのあれこれを制限するなんて間違ってるだろ!!この頃納豆ちゃんが自分から離れつつあって不安になる気持ちは分かる。でも」
「分かるわけないだろ。善逸達には」
「は?」
「本当に悩んでいた納豆がいざ頼ったのは俺じゃなくて善逸と伊之助だった。納豆に頼られた善逸達には頼られなかった俺の気持ちが分かるわけない」
「炭治郎だって頼られてるだろ!?あの時は悩みの種が炭治郎や禰豆子ちゃんだったかは二人に頼れなかっただけで、何も俺達を優先した訳じゃない!そもそも納豆ちゃんは俺達なんかよりも炭治郎の方を信頼してるだろ!分からないのか!?」
「そんなの分かってるに決まってるじゃないか」
「はぁ!?ならどうしてそんなに束縛する必要があるんだよ……ッ」
「納豆が俺を一番に信頼してるのは当たり前なんだ。俺は納豆のだから。そんな俺を納豆が突き放そうとしたんだ」
「違う、あれは突き放そうとしたんじゃなくて納豆ちゃんは変わろうとしたんだよ!今まで炭治郎や禰豆子ちゃんに甘えすぎてたから、これからは自分自身の力で進もうとしたんだ!」
「そんなの納豆には必要ない。そもそも変わろうとするのならまず俺に言うのが普通じゃないのか?それに今まで散々お兄ちゃん扱いしてきたのに、今になって『本当のお兄ちゃんじゃない』なんて言い出すなんていけない子だよなぁ……」
「あ"ぁ"もう……っ!!!」
「善逸、これからも納豆とは仲良くしてあげてくれ。納豆は善逸と伊之助のことが大好きだからな。あ、でも嫁にあげるのにはまだ早いから止めてくれよ?」




善逸、伊之助、カナヲ以外とは話すな。ただし柱の人から話しかけられた場合や報告しなければならないことがある場合は許す。アオイさんやなほちゃん達は話しても良い人の対象には入らなかった。カナヲちゃんとは許しが出ていたからその分よく話したし、たくさん話した分、炭治郎と禰豆子ちゃんにもよく構った。善逸には「本当にこれでいいの?」と聞かれたけど、私は「前の生活に戻っただけだから」と笑いながら答えた。それ以来、なぜか善逸はとても泣きそうな顔で私をよく抱き締める。そして伊之助はつやつやのどんぐりを持ってきてくれるようになった。時々炭治郎の話になるといつも伊之助は空を仰ぎながら「アイツはなにか変わった」とぼやいた。炭治郎はそれほどまでに変わってしまったのだろうか。

一人で外に出ることも禁止になってしまった。外に出るのなら炭治郎か善逸か伊之助が居るときではないと駄目。カナヲちゃんとは部屋で話すようにと言われた。さすがにちょっと息苦しかったけど、一月も経てばそれにも慣れてしまった。単独の任務に行かなきゃならない時は炭治郎も一人で外に出ることを許してくれた。確かに炭治郎からの束縛はあったけれど、何だかんだ節度を守ってくれるし、どうしようもないときは許してくれる炭治郎。それは炭治郎の優しさだ。

私は辛くなんてなかった。



「今日は煉獄さんがな──」



辛くなんてない。



「可愛らしい兎が居て──」



辛く、ない。



「善逸がアオイさんに怒られて──」



…………。



「それは面白くて──」



────本当に?



本当に、私は辛くない?




どうして善逸が泣きそうな顔で私を抱き締めるのか。
どうして伊之助は炭治郎を「変わった」と言うのか。


──本当は分かっていたんでしょう?


炭治郎の言うことを聞くのも、炭治郎と禰豆子ちゃんに甘える・・・のも、全ては私の『逃げ』だった。
これ以上、怖い炭治郎を見たくなかった。怖い炭治郎に怒られたくなかった。


だから私は、わたしは、
もう逃げない逃げられない






そして冒頭に戻る。


「……でも、炭治郎がカナヲちゃんと話すのは許してくれたんだよ?」
「そうだよな。だから俺も長男だから我慢しようとしたんだぞ?でも最近カナヲが納豆を見る目が友人の枠じゃ収まらなくなってきたから心配なんだ……」
「え、なにそれどういうこと?『友人の枠じゃ収まらなくなってきた』って?」
「匂いで分かるんだ。カナヲが納豆にどういう気持ちを向けているのか。昔はまだ許してたけど、カナヲが納豆に『好意』を向けるのなら俺はもう許せない」
「こ、好意って友達としての好意でしょ?」
「違う。あれは友達としてなんかじゃない。あの匂いは、あの感情は……『恋』だ」
「……!」


確かに、ここ最近カナヲちゃんには変化があった。私と一緒に居るときは必ず手を握ってきたり、唐突に抱き締めてきたり、なぜか顔をギリギリまで近づけてはハッとして離れたり。私も「もしかして?」と思ったときはあった。それでもカナヲちゃんは私の大切な友達。唯一交流が許された女の子。離れたく無かった。



「納豆はお兄ちゃんの言うこと聞いてくれるよな?」



あぁ、また一つ自由が奪われていく。



炭治郎が容易く私を抱き上げ、自分の膝の上に私を乗せる。そしてチュッと私の額の部分に一つ口付けを落として強く抱き締めてくる。
これは炭治郎が私に甘えてくるときの合図。
この様子だと、本当にカナヲちゃんに嫉妬しているらしい。もしも断ったらどうなるんだろうか。
またあの怖い炭治郎が出てくるのかな。

そんな命知らずなことできるわけないんだけどね。



「……うん、分かったよ。炭治郎」

「そうか!良かったぁ……!」



私はあとどのくらいこの日々に耐えたら、自由が訪れるのだろう。
本当にどこで選択を誤っていたのかな。



愛に溺れすぎた

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