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つい先日、全国各地の中学校にサッカーで勝負を申し込んではその圧倒的な力で相手をボロボロに負かし、相手が負けた代償としてその中学校を破壊して回っていた宇宙人を中学生の子達がついにサッカーで彼らを倒したとニュースでやっていた。《宇宙人》と言ってもその正体は宇宙人を名乗った普通の中学生達だったらしい。そして宇宙人を名乗っていた中学生達を操っていた、吉良財閥の人が警察に逮捕されたようだ。その一件で起きていた全国民の混乱は半ば強制的に総理大臣を筆頭にした政府のお偉いさん達が鎮火させ、それからは普段の私達の生活が戻った。
事件真っ只中の時は私も自分の中学校に彼らが侵略してこないかハラハラしていたが、運良く私達の学校には来る事がなく、私達の学校は今も変わらず圧倒的な存在感を放ちながら町の中心に建っている。普段は学校が無ければ宿題や勉強も無くなるのかな……と言ってはいるけれど、何だかんだ慣れ親しんだ学校が無くなるのは嫌なのだと改めて実感した。
そして、私の身の回りの人達もあの一件について何も言わないようになった頃、いつものように家で寛いでいたときに一本の電話が掛かってきた。

「――はい、小野寺です。」
『初めまして。君が小野寺納豆さんで間違いないな?』

電話口に聞こえてくる男性の低めの声。相手は私の名前を知っているようだが、私は相手の声を知らない。この人は一体誰だろう。
内心、警戒しつつも「そうですが…」と男性の問いかけを肯定すると、相手は「君に話がある」と言ってこちらの返事も聞かぬうちに一方的に話を進め始めた。

『私はFFIに出場するイナズマジャパンの監督、久遠道也だ。そして君に私が指導するチーム――イナズマジャパンのマネージャーをして貰いたい。』
「ふ、ふっとぼーるふろんてぃあいんたーなしょなる……? サッカーの世界大会の事でしょうか?」
『そうだ。15歳以下の少年サッカーの世界大会。それがFFIだ。』

《サッカー》という単語を聞いた瞬間、ドキッと心臓が一際強く波打った。電話を握る手が緊張からか微妙に震える。妙な渇きを覚える喉。ゴクリと唾を飲み込み、平常心を装いながら口を開く。

「……すみません。そういうのはよく分からないのでお断りさせて――」
『また、サッカーに関わりたくはないか?』

私の言葉を遮って、男性──久遠さんはそんな事を言った。その言葉に私はまるで心臓を鷲掴みにされたかのような感覚に陥り、思わずヒュッと息を呑む。
サッカー……私の、大好きな・・・・……、でももう、サッカーは……。
戸惑いで心揺さぶられる中、数年前、お母さんに最後に言われた言葉が脳裏でフラッシュバックする。



「納豆、貴女は、貴女はね……」



『小野寺納豆、お前は……』



「サッカーを忘れた方が、きっと幸せになれる。」



『サッカーを思い出した方が、幸せになれる。』



面白いくらいに正反対のお母さんと久遠さんの言葉に、ジワリ…と目に涙が浮かんだ。

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