Moon Fragrance

12月25日 Melting dream.
Melting dream.



 ふわふわと夢見心地だった。こんなにはしゃいだクリスマスはいつ以来だろうか。子供の頃でもこんなふうにクリスマスを祝ったことなんてなかったかもしれない。大切な人に、楽しい人たち。
 仕事が終わってから作ろうと思っていたら、すでに出来上がっていたたくさんのご馳走。仕事に集中していて、いつどのように運び込まれたか分からない大きなクリスマスツリー。キラキラと輝くように飾りつけられたダイニングとリビングルーム。ツリーの下には色とりどりのラッピングで飾られたプレゼントボックスの山。

「メリークリスマース!!」

 揃った大きな声にぽかんと立ちつくす私は、パンッという破裂音とヒラヒラと舞う紙吹雪に包まれていた。
 ご馳走はイリーナさんが、大きなクリスマスツリーはルードさん。ツリーの飾りつけはレノさんが、部屋に綺麗な等間隔で付けられた飾りはツォンさんだった。
 ツリーの下で山を作っているプレゼントは、ルーがみんなに頼んで私のためにそれぞれ考えてくれたものだった。イリーナさんはスキンケア商品、ツォンさんはオフホワイトのマフラー。ルードさんは私の仕事用の靴に、レノさんは両腕に抱えるほどの大きなチョコボのぬいぐるみだった。それは今は私とルーの部屋の椅子にとりあえず座らされている。
 たくさん笑って、食べて、歌って、何度もお礼を言って。こんなに楽しいクリスマスは初めてだった。

「ルー、ありがとう」

 今はベッドの中で、気怠くも暖かい素肌が触れ合っている。ルーの腕枕に頭を乗せ、寄り添っていた。

「オレからはまだだろう?」
「計画してくれたのはルーでしょ?」
「やりたいと言い出したのはアイツらだ」

 みんなでプレゼント交換だってしたけれど、ツリーの下にあったのは全て私宛ての物だった。驚くくらい、たくさんの幸せをみんなに貰って、驚くくらい、嬉しくてたくさん泣いた。
 ありがとうって笑顔で言いたくて、それでも流れてくる涙は止まらなくて。こんなに、こんなに大切に思われている。

「それに、リクだってアイツらにプレゼントを用意していたじゃないか」
「それはいつものお礼だもん」

 イリーナさんは私の手伝いで水仕事をするようになったからハンドクリームを渡した。ツォンさんにはグローブを。レノさんには整髪剤と尻尾のように束ねられた髪を梳かすためのブラシ。ルードさんにはサングラスを手入れするための洗浄剤。ルーにはネクタイと手作りのタイピンを。

「さて、最後はオレからだ」

 そう言ってルーは体をずらすと、私の目を瞑らせた。カタンと音がした先は、恐らくベッド脇の引き出しだ。

「目を開けていいぞ」

 そう言って静かに囁く声に目を開けると、真珠層のような模様が白く美しく輝く小さなジュエリーボックスだった。

「きれい! いいの?」
「ああ。リクのために選んだ。メリークリスマス」

 私は掛け布団を身にまとって体を起こす。繊細に作られた小箱を膝に乗せてそっと蓋を開いた。それはポロンと可愛い音でチョコボのテーマを奏で始めた。

「凄い! このジュエリーボックス、オルゴールになってる!」
「いつも朝の支度をしたあとに、指輪をそのまま机の引き出しにしまっているだろう」

 そうだ。ルーに貰った指輪を仕事で傷つけたくないからと、鍵の閉まる引き出しへ布の上にしまって、仕事が終わってからまた着けなおす。それが私の1日の始まりと終わり。ルーはそれが気になっていたみたいだ。

「ありがとう。指輪をもっと大切にできるね。こんなに嬉しいクリスマスは初めてだよ」
「リクとクリスマスを過ごすのは初めてだからな。またひとつ、夢が叶った」
「夢?」
「リクと再会するまで、なにもかもすっぽかさざるを得なかったからな」

 それは少し、拗ねたような言い方だった。

「そんなに、想っててくれたの?」
「当たり前だ。オレは、リクを忘れた日なんてなかった」

 意地悪に笑うルーに少し頬を膨らませてみると、彼は心底可笑そうに声を上げて笑った。そして私の手からオルゴールのジュエリーボックスを取ると、ヘッドボードの上へと置いた。
 おいでと私を腕の中へと引き入れて、唇が重なる。落ち着いていた肌は、再び熱を持った。

「愛している」
「私も、いっぱい愛してる」
「もう少しだけ、この夜を堪能するとしよう」

 私はしんしんと白い花舞う静かな夜に、ルーのせいで雪のように溶けていく。メリークリスマス。
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