01


※御曹司主


愛想のいい笑いを浮かべる彼は大手有名企業の息子だという。その父親の権力は素晴らしく、それを継いだ彼もやろうと思えば一言で数千人動かせるような人物だ。そのような者が赤井の幼なじみだったなど、誰が解ろうか。スーツを着て潜入した赤井はため息をついた。イギリスに本部があり、日本支部に彼はいる。偶然ここに幼なじみがいて、偶然それは組織のターゲットだなんて。交渉をして資金の援助を遠回りに申し込み、断られたら引き下がるフリをして殺す。フェアも何も無い一方的な取引だ。ワイヤレスのイヤホンから出る音によれば、彼は人のほぼいない屋外通路へ出たらしい。

「みょうじさん。」

声をかけられ振り返った彼は、赤井を見て目を大きく開いた。あか、と口を開く前にそれを塞ぐ。一般人の死角になるよう銃を持ち、トリガーガードに指を付けながらもなまえの腹部あたりに押し付けた。彼は小さな笑いを浮かべてこちらを見る。組織の任務な為、本名で呼ばれては困るので偽名で呼ぶよう指示。赤井が特別な理由があってこうしているのはなまえも理解出来ているのだろう。

「こんな形で再会してしまうとは。俺のことは諸星と呼んでくれませんかね」
「……こんにちは、諸星さん。あちらでは上手くいっていますか?」
「ええ。みょうじさんもよろしいようで」
「諸星さん、お友達連れですね。寂しくないようで安心しました」

組織の仲間が赤井の後ろから覗いている。観察眼も鈍っていない、流石なまえだという言葉を飲み込んで赤井は話を切り出す。

「……というご条件ですが、如何でしょう」
「フフ、それは良いですね。手回しして置きます」

そう言わないと殺される、となまえは理解しているのだろう。彼は普段懐に拳銃を持っているはずだが、それを取り出すことはなかった。無駄な抵抗と知っていても、目の前の人物を殺すことは造作もない。そう、無駄な血を流さないことが好きなのだ。

「諸星さん、空が綺麗ですね」
「明日も晴れるでしょう」

幼い頃の記憶。秘密のコードに憧れて作った2人だけのサイン。“明日、晴れる”これは任務中という意味だ。任務が明日にでも終わって、笑い合えたらいいというサイン。こんなところで役立つなんて。なまえは笑い、赤井も微笑をほろりと零した。くだらない小さな頃の事をまだ覚えているなんて。赤井は別れの挨拶を述べ、その建物から出て行った。


next

back