03


※尾形視点



背中を叩いて暫くしたら、みょうじはすぐ寝息を立て始めた。眠ったのである。いや、気を失ったか。起き上がるのがおかしいのだ。血を大量に喪って、あんなに青い顔をして、それなのに受け答えはしっかりとしていたのだから面白い、と口の端を釣り上げる。
「軍に所属しない荒くれ者は幾つか居た方がいい」とは、鶴見の談。それで、みょうじは金塊集めに協力する事になったらしい。何故彼が人殺しを承るのか、それはわからない。だが、欠けた人間であるだろうということは理解できる。求められるままに、ふらふらとなんでもしてしまうのだ。それの最上位が殺しである。普通人は、きっと手を進んで汚そうとはしない。だがこいつは、手を汚すという感覚が無いのだ。呼吸をするのと同じように人殺しができる。己が母を殺し、異母弟、父を殺してきたそれぞれに抵抗は無かった。きっと欠けているからである。
寝顔を見た。しゃんとした鼻筋に、窪んだ眼。みょうじは美丈夫だった。その容姿も、任務に必要とあらば“使用する”、と、これは本人の談。
唇と唇をあて、軽く吸ってやった。ハハ。お前は相当歪んでいるよ。俺でなければ見破れぬ。みょうじの頬に手を添えた。血がまだ活発に巡っていないので、表面はヒンヤリ冷たい。毛布を首まで引っ張ってやり、その部屋を後にする。鶴見の元から造反する時こいつも連れてってやろうか?などと突飛なことを考える。まあ、それも悪くないかもしれないな。こいつが断らなければ、だが。


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