02


数日後、また鶴見に頼まれ、人を殺した。今度は沢山だった、数え切れない程だ。こういうのって普通もっと多めの人手でやるンじゃねえのか?
ズルズル鞘を引き摺っていたら、細い血の道が奥からここまで出来ていた。仕方無い、腰紐が切れてしまったんだから。銃の弾もとうに無い。最後の方は、只管ひたすら刀で斬り続けていた。鏡がある。薄暗いが、血で酷く汚れたものが映っていた。
足音が聞こえ、己の歩を止める。どこからかかって来られても、負ける気がしなかった。

「みょうじ」
「なあンだ、尾形か。」
「そんななりで街を歩かれたら捕まるのも時間の問題だな」

そう言うと、外套を渡してきた。今度は尾形の物でなく、予め用意していたらしいものだった。

「乾いたら着る」
「お前、よく飽きないな」
「殺しの事か?飽きるも何も無いだろう。仕事なんだから」
「罪悪感は無いのか?」
「はあア?」

アハハ!と腹を抱え笑っていると、尾形に頭を叩かれた。

「罪悪感なんて有ったら、こんなものを生業になんて出来る訳もあるめえよ。」
「ある男が、罪悪感を持たぬ人間はいないと語っていたが。」
「なんだそりゃ。じゃあ罪悪感の無いおれは、やっぱり人間じゃないね。」

そう言い放てば、何故か尾形は嬉しそうな顔をした。如何どうした?

「お前、一人でやり切れない量の殺しをさせられてるぞ。この意味はわかるだろう」

鶴見の仕事に関してだ。

何処どこぞで死んでしまっても構わんという事だ。27聯隊について深く知りすぎたお前はいずれ殺される。」
「……それで?」
「俺と来い。俺は27聯隊を抜ける」
「脱走するという事か?」
「そうだ。」
「何故?」
「理由を明かす必要があるのか?まあ、それが嫌なら来ない事だ」
「いや……まあ、そうだな……」

矢継ぎ早に話が進んでいく。まあ、尾形の云っている事は尤もだった。このまま居れば飼い殺されるやも知れぬ。
他の人間は、少なからずしも殺しに躊躇するようで。躊躇の無い己は、何時いつでも何処でも需要があった。求められるのは嬉しかった。
生きた人も死人も、変わりないじゃないか。皆いずれ死ぬのを、只早めているだけというのに。
生者も死者も等しく、愛おしい。

「鶴見は金の支払いが良いんだよなアー。」
「お前、その金で何をしてるんだ?」
「ン?飯、女、酒……」
「普通の仕事でも良いじゃねえか」
「だって、俺が殺すのが皆良いんだろう?」

汚れ役なんて巷で言われてるが、殺しは汚れた事なんかじゃない。だが、みながそう呼ぶので在れば仕方が無い。ああ、そうだ、尾形について行くか否か。

「変化も大切だからな。アア……殺しで報酬を呉れるなら、お前について行こう。」

その後、顎を割ってきた尾形を嗤って、また叩かれるのだった。


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