目があけられない
※尾形が眠る少尉主に悪戯する話。(デキてない)
ほとんど会話しない
蝉の声が煩い蒸した季節、尾形は完成した報告書類をみょうじ少尉に提出するところであった。扉を叩く、しかし返事が無い。おかしい、どこかに行ってしまわれたのか。だが、「暫く部屋にいるから、何時でも来てくれ」と言っていた筈だ。ふと扉の握り取っ手を廻してみる。扉が開いたので、尾形は驚いた。失礼します、と言いかけて、口を閉じる。みょうじが寝台に横たわっている。顔も身体も向こうを向いて、表情は見えない。しかし部下が訪ねても起き上がらぬところを見るに、眠っているのだろう。初めて見る気の抜けた姿に、物珍しげな視線を注がずにいられない。尾形は手に持つ書類をそこらの机へ置き、そろりと寝台に近づいた。上から見下ろすと端正な横顔が見える。普段の厳格に刻まれた眉間の皺は、今は影も形もない。あどけない顔で寝息を立てる姿に、尾形は感じたことの無い情を覚えた。いや、訂正する。感じたことはあったものの、今までそれを見て見ぬふりをしていたのだ。
棒立ちで、どうしたものかと思案する。起こすのは簡単だが、こういう時誰しも感じるであろう<寝ている人を弄りたい欲>は尾形も少なからず持っていた。手を開いて、みょうじの目の前で振る。反応は無い。鼻をつまんでみる。「んっ」その声と動きに、サアッと尾形の肝が冷える。しかし起きることは無く、一瞬顔を
「ははッ」
意外と言うべきか、安堵すべきか、その目は開かなかった。たいそれたことを終えた途端、尾形の気持ちは風船がしぼむように冷めてしまった。書類に書き留めを添えて、部屋を出る。変わらず、みょうじは動かない。
しかし、みょうじは起きていた。離れ行く足音を聞いて、瞼を開け、目だけを動かして扉を見る。微かな唇の感触、尾形の息づかいを感じた
尾形には、嫌われていると思っていた。無愛想な態度、あまり目を見て話さない姿勢。しかしみょうじは少尉であるために、最低限の敬意だけはあったようだが。そのように2人の関係は成り立っていた、筈である。顔が熱い。明日から、正気で対峙できるだろうかとみょうじは苦悩するのだった。
明治陸軍、夏に午睡の時間あるの可愛いですね。