存在価値、虚しいその幻


◇FBIに在籍するも組織へ入った闇落ち主
※死ネタ



使えないものは淘汰されて行く。それが世界の秩序だというのなら、こんなに悲しいことは無いだろう。
赤井秀一。それは自分の尊敬する男の名である。
損得で物事を考えるようになってから幾らか経った。成果は出せない。どれだけ努力してもあの人に、追いつけない。憧憬して好きになって、それに成ろうとしたこともあった。どうしても隣に立ちたくて、要らない人、物、感情を棄てて。やっと追いつけたと思ったら、周りには何一つ無い。それでもいい、自分が貴方の隣に立てたら、と言うと、彼は。

「滑稽だな」

と、言う。何故こんなに思い通りにならないのか、不思議で堪らない。投げ出された心は元に戻る術を知らなくて。必要とされたかった。彼の隣で。

「不必要、不必要、不必要、不必要」

憎たらしい雑踏の中で、要らない人間を一人一人数えていく。何も無い。
ビュロウを辞めて、薬に堕ちて、身も心もボロボロになって、要らない人間を殺めて。自分を『要る人間』としてくれた組織に入って。最後まで、彼に見て欲しかった。見つけて欲しかった。

「赤井……」
「なまえ。」

そんな目で見ないでくれ。

「そんな風にせずとも、俺はお前の事が好きだった」

と、赤井は言う。それを聞いて激しく嘆いた。屋上の風に凍えそうだった。

「それを、もっと、早く言ってくれよ」
「すまない」
「俺はお前に近づく為、どれだけの物を棄てたか知っているのか」
「ああ」

赤井の持つ拳銃の先がこちらを向いている。しかし指はトリガーに掛かっておらず、打つ気の無いことがわかる。否、迷っているのだろう、きっと。

「駄目だろ、赤井。俺を殺すつもりならしっかり狙って、もうトリガーを引く寸前まで行くべきだ」
「……組織に入ったのは、俺の気を引くためだったのか」
「ああ」
「……」

少し、悔しそうな顔をしている。あぁ、その顔が見れただけでも、なんだか嬉しいような気持ちになる。
もう全てにおいて取り返しはつかない。ここが終着点だ。

「もう、いい。最期に赤井の顔が見れて良かったよ」
「なまえ、」
「要らない人間は終わりだ」

目に赤井の姿を焼き付けて、銃を咥え、撃った。





(愚かで、なにを棄てるのも厭わず、俺についてきた1人の男。きっと、その姿に惹かれていたのかもしれない。でもやり方が違うと教えたかった。ただそれだけで。俺はお前が好きだったのに)


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