海からの心地よい風に当たりながら、独りベンチに座り、ぼうっと目の前に広がる波を見つめる。トランクスは、ひと気の少ないその場所にいるわたしを見つけるなり、ぎこちなさそうに降り立った。 「あなたって面白いわね」 話すには少し距離があるようにも思えるその先に彼はいた。からかうわたしの言葉に黙りつつも、微かに反応を見せるトランクス。彼は何かとわかりやすい男だ。 「ありがとう、来てくれて。ほんとは何か大事な用事があったんでしょう?」 「す、少し時間があいただけだ、すぐに戻るつもりだ」 「来てくれたってことは、何かしら気になってる証拠じゃない?」 トランクスはまた黙ってしまうが、顔にはきっちりその答えが出ていた。 「改めて仙豆の礼を言うわ、わざわざありがとう」 「そんな礼なんて…いらない」 目を合わせず答えるトランクス。そんな彼の様子に微笑しながら、わたしは話を切り替える。 「聞いたわ、武道大会のこと。あと9日…長いようで短いものね。あなたは出るの? 」 「…もちろんだ」 低くも強い口調でトランクスは答える。風で声が流されて、よくは聞こえなかったが、彼の表情を見ればすぐに分かった。 この青年は相変わらず真剣な眼差しだ。そうやってずっとセルを倒すことを日々考えているのだろうか。 「あなたは…ずっとセルを追ってこの時代へ来たの?」 「セルを追ってだと…?オレはここへ来て初めてあいつの存在を知ったんだ」 どうやらわたしの次元と共通する部分もあるようだ。わたしの知るトランクスは、セルの存在など知るはずもない。 「もしかして本来の目的は、17号たちを倒すことと言ったところかしら。お互い次元は違えど、同じ状況もあるのね。でも…ここはまるで違っていたわ」 この次元へ降り立った当初の自分を思い出す。不安と希望と奇跡を信じてやって来たあの頃のわたし… 「オレの知ってる過去とは違った…オレが来たことで何かが狂い始めたんだとしたら、オレにはその責任がある。それだけだ…!」 それは…わたしの台詞でもあった。 その狂いこそが、ドクターをこの次元でも亡くすという最悪の事態を生み、その一方ではセルと出会う奇跡を生んだのだ。だからこそ、わたしにはここですべきことを成し遂げる責任がある…そう思ってはいたが… セルの覆(くつがえ)すような言葉がまた頭をよぎる。 今は考えたくないのに… それを振り払うように、トランクスへ話を向けた。 「あなた本当に正義感の強い人ね」 「お前に正義がどうこう言われたくもない。自分のしていることをよく考えてみろ…!」 「どうかしら、それはお互い様だわ」 淡々とわたしは答える。 「お前は言ってたな…ドクターゲロは家族だと。だとしても、そいつの企んでいたことがどんなに邪悪なことか、それぐらいわかるだろう!」 彼の考えに流されるつもりはない。 だが、彼らとの対峙でトランクスがわたしへ投げかけた言葉…あれは今もよく覚えている。 「…その話を持ち出すのね。確か言わなかったかしら、どんな者でもそれぞれ理由があるものだって」 「理由がどうであれ、許されることじゃない!」 まっすぐな強い視線でこちらを見るトランクスに、わたしは何も言わずしばらく沈黙を作る。ベンチを離れ、海沿いを前にわたしは柵にもたれかかった。 「…わたしにはこの世にいる人間がどうであろうと知ったことではないわ。わたしは世間にも、そして時代にも捨てられた人間よ。何の未練もないわ。ドクターはわたしの救いだった。でも今はその彼さえいない…」 再び海へと視線を移した時だった。 「だからセルなのか」 セルの名にわたしは思わず反応してしまう。 「お前自身がドクターゲロの代わりとしてセルを完全体にさせ、ゲロの残した計画を遂行しようとしているのか!?」 「その言いぐせは気に障るけど…よくわかってるわね」 確かに彼の言う通りだが…どこか心に引っかかる。やはりセルと言い争ったせいなのだろう。 が、トランクスは更にわたしの気持ちを疑わせるような話をし始めた。 ページ: ストーリー: 小説TOPページへ サイトトップページへ |