訪れた街はどこか慌ただしい。セルがTV局で武道大会の開催を宣言したせいだろうか。あちこちで人が行き交い、パニックでも起こしたような異様な雰囲気だ。 「あの人、TV局で何か余計なことでも言ったのかしら…」 客足も皆無な通り沿いのブティックが目に付き寄ってみる。久しぶりに来た街での洒落た空間に、気分が弾んだ。 「これ素敵ね」 先程までの重たい気分は忘れ、あちこち気に入ったものを手にとっては着替えてみる。わたしはしばらく夢中になって店内を動き回っていた。 すると、店員らしき女性が急ぐように走り寄って来た。 「お客様、お越しいただいた上に申し訳ないのですが、今日はもう閉店なんです…!」 焦りつつも申し訳なさそうにお辞儀するその店員を見て、不思議に思ったわたしはそれとなく尋ねてみた。 「皆慌ただしいようだけど?」 「今朝のテレビはご覧になりましたか!?以前話題になったあの怪物が今度は世界中の人を殺すと言い出したんですよ!」 怪物という言葉に、一瞬何を指して言っているのか分からなかったが、案の定セルは混乱を招くような発言をしていたようだ。 「ここもいずれ危険です、急いで帰って身支度されたほうがいいかもしれませんよ!どこかに隠れないと!」 そう話す本人は、顔を強張らせて完全にうろたえている。面倒なことになると見て、わたしはその店で選んだ服に着替えたあと街の上空へ出た。 「ここから見てると、ますます呆れてしまうわね」 無謀にも逃げ惑う人々…くだらない…せっかく楽しんでた気分も台無しだわ。場所を移すことし、気の向くままにわたしは飛び立った。 わたしは街を外れて西へと飛んでいた。 何か気を紛らわすことでもしないと、あのセルとの不愉快なやりとりが頭から離れない。 …退屈だ。 そうやってもやもやした晴れない気分に落胆している中、遠くから何者かがこちらへ向かってくるのを感じる。 「今度は誰…?邪魔が多いわね」 スピードを上げて飛んで来たと思いきや、その相手は一瞬のうちに真横をすれ違った。 今のは…ベジータ? 一体どこへ… リングの方向ではなさそうだ。目が合った気もしたが、ベジータはそのまま飛び去っていった。が、彼がいるということはもしや… もう一つこちらへ向かってくる者がいる。誰なのかはすぐ様予想がついた。 「またあんたなのか」 わたしの目の前でその人物は立ち止まった。 「偶然にしては都合のいい巡り合わせね」 「どういう意味だ?」 相手は特に動じることもなく、落ち着いている。 「あなたには礼を言いたかったのよ、トランクス」 「礼?仙豆のことか…別に好きでやった訳じゃない」 目の前に現れたトランクスを見て、わたしは彼やベジータとの対峙を思い出した。あの時トランクスがわたしに投げかけた言葉… 「わたしのこと、説得しようとでも思ったの?」 「説得?」 トランクスが反応する。わたしはなぜか彼と話がしてみたい、そんな気持ちになっていた。 「あなたに聞いてみたいの。今暇で持て余してるのよ、話し相手になって。あなたも未来から来たのでしょう?ぜひその話もしてみたいわ」 そう言って彼の腕を引いた。 「ま… 待てよ!」 わたしの意外な行動に驚いたらしく、トランクスは慌てながらも腕を振り払った。 「お前に費やす時間なんてないんだ、断る…!」 「そう…残念ね」 断られるのは当然だろう。が、わたしは気にならなかった。 「わたしはしばらく独りなの。西の都にある…そうね、海沿いの公園にでもいるわ。良かったら来て」 「何を言って…オレは行かないからな…!」 彼の言葉をよそに、待ってるからとわたしは笑顔で手を振りその場を後にした。 その後、わたしが告げた公園に予想通りトランクスは姿を現したのだった。 ページ: ストーリー: 小説TOPページへ サイトトップページへ |