わたしからトランクスに話を持ち出したはずが、結局彼に説き伏せられてしまった。トランクスからセルと同じ言葉を聞くとは思わなかった… 複雑な気分だった。 セルは…わたしのことを思い、そう言ったのだろうか。でもそうでなければ、あんなことなど言うはずが… ふと穏やかな表情を見せたあの時のセルをまた思い出していた。 あの時の彼は何を思っていたのだろうか…優しく包み込むようなあの感触…こればかりは思い出す度に気恥ずかしいようなもどかしさを感じてしまう。 セル、もしかして… あの時もそう…何か考えてはならないような感情が生まれてきたことに、わたしは気付き始めていた。なぜか鼓動が急に早まり落ち着けない。 とっさに出た自分自身の言葉、わたしにはセルが必要だということ… これは決して自分に嘘をついてる訳でもなく、本心なのかもしれない…現に何度もセルに助けられたのだから。 …が、トランクスの言う、セルが抱いている不満というのも気になる。 セルはなぜあんなにも、わたしを困らせるような発言をしたのか。何がそれ程気に入らないのか…トランクスの言葉でそれが今はっきりした。やはり彼は、ドクターに対してわたしのような尊敬の念など何も無いようだ。 でも…ドクターはわたしにとっては本当に大切な人。彼を蔑(ないがし)ろ にするだなんて、わたしには到底受け入れられないことだわ… 次第にわたしは、どうすればセルにドクターを理解してもらえるか…そればかりを考え始めていた。あれ程言い争った後にこのような話なんて…それこそ事が大きくなるだけなのは承知だった。 でも…相手がセルだからこそ分かって欲しかった。 その日、セルの元へは戻らずわたしは独り考え続けていたのだった。何も答えなど出せぬまま、結局戻る事にした時は、既に日付も変わり陽が落ち始めていた。 リングの方向が気になる。 セルの様子を確かめたいが、また口喧嘩にでもなりそうで素直に彼の言うことなど聞けるとも思えない。 第一ドクターを批判するセルにわたしから折れるなど…それではまるで、わたしの考えは間違っていたと認めるようなもの…そんなことなど出来るはずもなかった。 何も声をかけられぬままわたしはそのまま家へと足を向けた。 が、うしろから声が。 「今までどこをうろついていた」 その低い声に、また口論が始まる予感がした。 「…わたしの勝手でしょう」 「余計な気遣いをさせるんじゃない。このまま戻らないのかと思っていたぞ…」 彼の意外な台詞にわたしは素直に聞けず、皮肉を込めて返答する。 「何があろうと動じないあなたでも、心配なんてするのね。安心して、そんな無責任なことはしない。あなたの言う約束ってモノがあるでしょう」 「ふん…また一人で考え込んでいたな」 セルはわたしを理解している…そう話したトランクスの言葉が頭をよぎる。 「口出しするなら聞きたくない…自分のことは自分で考えるわ」 「意地を張っても何ら解決などされないぞ」 「解決って何を?」 「それは○○○、お前が一番よく分かっているだろう? 」 確かにセルはわたしを理解しているのかもしれない…でも… 「その全てを閉ざす癖…単なる意地に過ぎん。それはドクターゲロから自立しているのではない」 「お前が取る、そういう態度はわかりやすいが…口を閉ざせばそれ以上の何がわかる。お前はこの数日間何を考えてた?私には何も話さないのか?」 何を考えているのかなんて…むしろこっちの台詞だわ… 普段の見透かされたような態度を思うと、彼の発言はどうしても皮肉にしか聞こえない。 「どうして…あなたじゃなきゃいけないの?昨日偶然にもトランクスに会ったの、彼に聞いてもらったからもう充分よ」 「トランクスだと…?」 彼の目の色が…変わった。 「またヤツに会ったのか」 突然口調が強くなる。 わたしは思わず息を潜めた。 「奴と…一体何を話した。なぜあの男には話す? なぜだ!?」 「な、なぜって…」 まるで殺気立ったような目付きで言い放つセルを前に、わたしは言葉が詰まってしまった。 「…もういい…」 そう低くつぶやいたセルは、そのままリングへと去って行ったのだった。 突然怒りを露わにしたセルに、わたしはしばらく戸惑いを隠せなかった。 何をしているのか…冷静にならなきゃ… 彼にはドクターを理解してもらうためにも、話さなければならないことがあるのに… そのまま夜を迎えるが、眠れそうにもない。 セルとまた話すきっかけが訪れるのをわたしは待ち続けていた。 ページ: ストーリー: 小説TOPページへ サイトトップページへ |