「イエス」

なんでこうなったんだろう。


私はぼーっと前を見つめながらとぼとぼと家路を辿っていた。まだ今の状況が整理できない。


「今日のわたし、星座占い悪かったかな。」


そんなの観る余裕なかったわよ、と呟きながら先程の出来事までの何時間かを振り返っていた。


昨夜から全く眠れなくて、心配で心配で、スマホを握りしめていたけれどやはり何の連絡もなくて。
まさか。まさか。でも、あの人は帰ってくるってーーー。


ーー約束でもしたのか?できるのか?彼は我国No.1ヒーローであってそんな最強のヒーローである彼が苦戦を強いた強敵との闘いだったのだ。命の保証がどこにある?彼は自己犠牲を払ってでも突き進む。そんな事私が一番分かっていたではないかーーー


頭の中で大勢の私をぐるぐると議論させた。右手にはスマホ、左手には彼からの置き手紙のような付箋を握りしめていた。そして願っていた着信音がスマホから流れ始め思わずその場で起立し通話マークをタップする。


「もしもし。私はオールマイトと共に働く塚内というものです。確か以前ヴィランに誘拐された件でお会いしましたね。オールマイトの事が気がかりだと思いましてご連絡差し上げました。」



塚内さんには申し訳ないが聞きたかった声の主とは違った。しかしながらそれでも俊典さんが命に別状ない事がわかり少しだけほっとする。私は身支度を整え教えてもらった警察病院に向かった。


(俊典さん、フルーツ喜んでくれるかな。ミックスジュースにするのもありね)



私ったら本当に単純。人生のどん底にいたかのような気分だったのに、今は運命の再会を頭に浮かべながら足早に彼の病室に進んでる。



「ああ、こんにちは。早かったですね、本人は病室で転がってますよ。」
「ご連絡ありがとうございます、塚内さん。助かりました。」
「いえいえ、日頃からなまえさんの事はオールマイトから耳にタコが出来るくらい相談されてたんでね、あ。これ秘密です。」

ロビーで塚内さんに会うと、気さくに話しかけてくれた。嬉しい一言に私は自分の頬が赤くなるのを感じた。塚内さんは人さし指を立て、怒られるんで本当に秘密ですよ、と言っていた。談笑後も振り返ると塚内さんはまだ忙しいらしく、猫顔の警官と難しそうな話をしていた。


大きなエレベーターに乗り込み、最上階を押す。流石スーパーヒーロー。でも、彼はもうただの俊典さんでしかない。彼は嫌がるかもしれないが、私の中で少しホットしていた部分があった。今回の傷を治せば彼から大敵に挑む事はないだろう。彼の性格が許さないかもしれないが、そう思いたい。


(どんな顔、するだろう......。)


"WOW!なんでここが分かったんだい!"
"なまえ!私から連絡しようと思っていたのに、君は全く....!"

そんなところだろう。
そしたら私はこう答えるのだ。

《思い立ったらすぐ行動しちゃうタイプなんで》


ひとりでにやつきながらこの後の展開を妄想していたらあっという間に最上階に着いた。広い廊下を進み、名前表示のない個室の扉をノックし重い扉を開けた。
そこには驚いた愛しい俊典さんの笑顔が待っているはずだった。

.........それなのに。





「俊典さ.....ん....,?」




そこには、いつの日か聞いてしまった事を後悔した俊典さんの過去に愛した女性が立っていた。
白くて長い指を俊典さんの手に絡めながら。


持参したフルーツのバスケットが自身の手から滑り落ちる。俊典さんの慌てた顔と、アジアンビューティーといった顔立ちの綺麗な人がこちらを見ていた。
私はこの空間に居てはいけない気がしてその場を立ち去った。



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自分で順序だてて考えてみると整理できたりする事ってある。とぼとぼ歩いて着いた家は、俊典さんと私の家。
2人の生活感が溢れている。


《思い立ったらすぐ行動しちゃうタイプなんで》


笑えてくる。彼の言葉を予想して返す言葉まで考えていたなんて。
俊典さんはあの人と会う時間を作るために私に連絡をしなかったのだろうか。
どんどん悪い方向に思考が向いていく。



「......」



俊典さんの話を聞きに行く?
ーー聞いたところでこの気持ちは晴れる?
ここを出ていく?
ーー私の荷物多すぎよ。



自問自答を繰り返し、ようやく私は動き出した。大きなキャリーバックにありったけの必要なものを詰め込み近くのホテルをとった。
ただただ今は、俊典さんを切り離して一人になりたくなったのだ。
まさかこんな気分になるなんて。自分はなんと面倒な女なのだろう。



私はため息と共にビジネスホテルのベッドに倒れ込んだ。

「....小さいベッド。」

私には充分すぎる大きさにも関わらずそんな言葉がこぼれた。しばらく天井を見つめ、どうせ横になっていても眠れないのだから、と近くのバーにやけ酒をしに行くことにした。
キャリーバックから高いヒールを取り出し黒い膝丈のレースワンピースに赤いリップを纏い、挑発的にもアイライナーは跳ねあげた。メイクをすれば不思議と心も強くなった気分になれるから好き。
こんな日はひとりで飲んだくれるのがいい。久しくしていなかったおひとり様で私はホテルを出た。




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「なまえ!」


点滴によってようやく歩けるまでは回復した私は自宅へ帰った。回復したとはいえまだ安静の身。激しい運動は厳禁。そう忠告されても、彼女の顔を一刻も早く見たい。自宅の扉を開くとそこに彼女はいなかった。
時計はすでに22時を回っている。


どこに行ってしまったんだ。
勿論スマホにも連絡はない。
彼女を心配させたくないばっかりに連絡を怠った自分を今になって責めた。何に変えてでも守りたいと思った存在なのに。

「少し頭を冷やしてきます」


彼女を探してリビングに向かうと、オールマイトカラーの付箋に一言書かれたのを見つけた。
私が家を出る前に残した付箋と同じもの。ソファーの前に置かれたマグカップを見る限り私が入れたコーヒーを飲みながらTVであの闘いを見てしまったてところか....。


《思い立ったらすぐ行動しちゃうタイプなんで》

こちらに向かって微笑むなまえの顔が脳裏に浮かんだ。


「..あぁ大馬鹿ものだ!私ってやつは!どちくしょう!」


彼女の性格なんて私が一番分かっていたはずじゃないか!
脱いだばかりの靴を履き自宅を飛び出した。



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おひとり様、バー でヒットした検索履歴の中で一番近くのバーに足を運んだ。私は滅法お酒に弱いのですぐに帰れる距離を選ぶ。

「いらっしゃいませ、何名様でしょうか?」
「ひとりです」

店員に案内された席で今日は酔いたいので1杯目からアルコールを頼んだ。
私にしては珍しいウィスキーのソーダ割り。
ウィスキーなんて飲める口じゃないけど、ソーダで割ってもらえれば私でも飲める。そう、今日は酔いたいのだ。1くち口に含み、また含む。あっという間に酔は回る。スマホを開いた。俊典さんからは連絡が沢山入っていた。



(連絡が付かない苦しみがどんなものかこれでわかるでしょ)



酔っ払ってしまっていたからか、意地悪をしたくなってしまった。私は彼に返信した。


ー久しぶりにおひとり様で酔っ払ってます。
ーどこなんだい?迎えに行く。
ーどこでしょうね。


自分でもかのスーパーヒーロー様に向かってなんて口の聞き方だと思う。だが今はそうしたい気分を抑えられなかった。そしてあの人は私にとって我国のNo.1ヒーローではなく、普通の俊典さんであり私だけのヒーローなのだ。
だんだんと顔を真っ赤にしていく私に店員さんが見かねてお水をさり気なく出してくれた。冷たい水を飲み干す。少しだけ頭が冷えてきた。


ー探してるよ。絶対に見つける。


彼からそうメッセージがきた。2mの長身がキョロキョロとあたりを見回している姿が目に浮かび、今更申し訳ない気持ちでいっぱいになった。


ー私がいるバーは駅から歩いてすぐの..


そう返信しようとした時だった。
カランカランとバーのドアが開く。いらっしゃいませという店員の声と同時に周りがざわついた。あなたはもしかして...そんな声がヒソヒソと聞こえる。
しかし入店してきた彼はそんな外野の声を無視して真っ直ぐ私の元にきた。


「なまえ...。」
「どうしてここが」
「言っただろう、絶対に見つけるって。」
「でも、なんで」
「思い立ったらすぐ行動しちゃうタイプ.....だろ?」

彼は右口端を上げニヤリとこちらに親指を立てた。

「それ、私の、せり、ふ..」


私は本当に面倒な女だ。
自ら家を飛び出しくせに彼が見つけてくれるとこんなにも嬉しい。涙が止まらない。

「私はなまえを泣かせてばかりだね。」
「ほんとですよ、もう」
「ごめんな」

彼は傷ついた腕ではない片腕で抱きしめてくれた。
「あの人はたまたまあの病院が職場で御見舞に来てくれただけなんだ。」
「そんなふうには見えなかったです」
「うん、彼女の気持ちには答えられないときちんと伝えたよ。なまえがいるってね。」
「本当ですか?」
「私は秘密は多いが嘘はつかない主義なんだ。」

彼の腕の中で彼の声を聞くと今まで何に対して落ち込んでいたのだろうと思えてくるから不思議だ。
そして私たちは周りの視線にようやく気づいた。


「オールマイトですよね!」
「その女性は彼女ですか?!」
「写真一緒に撮ってください!」

そんな声がチラホラ聞こえ始めた。
そうだ。私の中では普通の俊典さんでも、この人はもう、俊典さんの姿でオールマイトという生きる伝説なのだ。
困っている私に俊典さんは手を挙げ静止をかけた。

「皆さん、あと少しだけ時間を頂きたい」

そう言い彼は急に肩膝を付いて私を見上げた。

「なまえ」

しまった。これは予想していなかった。
俊典さんの手には指輪が握られている。何カラットあるんだろうってくらい大きなダイヤ。


「ずっといつ言おうか迷ってたらタイミングを失ってしまってね。でも、もう我慢出来ないんだ。」


あれだけうるさかった外野は空気を読んで静けさを保っている。私は両手で口を多い目の前の光景が夢じゃないかこっそり頬をつねった。痛い。


「俊典さん....」



彼は碧い瞳で私を真っ直ぐ見つめてこう言った。



「ウィルユーマリーミー?」



かれの碧い瞳に囚われたら逃げる事は出来ない。それは碧色の誘惑。



「イエス」




私の返事とともに周りからは大きな歓声やヒューヒューといった口笛が上がった。涙が止まらない私に彼は人前にも関わらず口づけた。




-end-