オールマイトの最期

まだ、太陽が登る前に彼は起きた。

行ってくる。

そう耳元で囁きキスを落とした後、
俊典さんは私の頬を撫で窓から立った。




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私はしばらくキングサイズのベッドに仰向けになり、天井を眺めていた。高い天井。模様のない白い天井へまるでスクリーンのように脳内で俊典さんとの思い出を映し出していた。



(No.1ヒーロー....平和の象徴...)



ゆっくりと身体を起こし頭を抱えた。体調は悪くない。だが異様に頭が重たく感じたのだ。時間は既に11時前。私は脚を床におろし、リビングへと向かった。


「...あれ?」


コーヒーが既に保温モードで用意されていた。ポットの近くに小さな付箋が貼り付けてあった。オールマイトカラー。これもおそらく商品サンプルで貰ったのだろう。


"必ず帰る。なまえ、私を待ってて"



優しい人。そんな約束できないと分かっていても、待つ時間が1番辛い。彼はそばに居られない時間の私の事まで心配してくれる。

メッセージではなく、置き手紙のような付箋を手に取り、眺めながら彼の入れてくれたコーヒーを口に含む。優しい味。いつもと変わらない味。心が落ち着く。何も特別なものは入っていない。なのにひとくち口に含むだけで彼の温もりを感じる。


(ただのコーヒーなのにね。)


ふふっと笑が零れた。オールマイトカラーのマグカップを片手にソファーへと腰掛ける。ふぅっと息をつき、瞼を強く閉じた。意を決して大きな画面のTVをオンにした。


−−−−ご覧下さい!!!−−−



ごくり、と息を飲んだ。
TVに映し出されたオールマイトは、私がいつも知っている俊典さんだった。----血だらけで。ボロボロで。


「うそ....」

皆がオールマイトを応援している。
それが私には違うものに聞こえた。
追い詰めないで。
何故あそこまでやせ細った彼に全てを背負わせるのだ。彼はヒーローとして充分に責務を果たしてきたではないか。


「次はきみだ。」



嗚咽を漏らしながらも私は画面から目を離さなかった。私が逃げたらだめだ。あの人は1人で闘っている。最後までなんとか見届けなくては。

生放送は彼のやせ細った身体を映し終えコマーシャルへと変わった。



「..うっう..」


言葉にできない、声にならない悲しみを飲み込もうとすればする程呼吸が辛くなる。毎日俊典さんはあの重圧を背負って笑顔を振りまいているのだ。あんな身体で。

しかしオールマイトはその姿を露呈した。オールマイトというヒーローは今日死んだに等しいのかもしれない。彼がヒーロー活動を持続させる事ができない状態なのは、周知の事実となった。


(俊典さん、、私も負けないわ)


持ち前の負けん気で涙を拭い、顔を洗う。私は彼からの連絡を待ち続けた。





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「平和の象徴は死にました。」


私はグラントリノと、塚内君と共に今後について話していた。私の力とは何たる微々たるものか。思い知らされる。本当のところ、誰ひとりとして救えてこなかったのではないか。



「あの子に連絡してやれよ、きっと心配してる。」
「...ん?あの子?どの子だ俊典?」



塚内君はおそらくなまえの事を気にしている。グラントリノにはまだ紹介していなかった為、横で?を浮かべていらっしゃった。



「グラントリノ。また後日紹介します。塚内君、ありがとう。でもこんな姿で現れたら更に心配するだろ?落ち着いたらにするよ。」




塚内君は帽子を軽く持ち上げ会釈してグラントリノと私の病室を後にした。ここは警察病院の隔離棟。私がここに居るのは関係者しか知らない。そしてなまえも同棲はしているが籍は入れていないので、部外者である。故に知るはずもなかった。


コンコン。と病室の扉にノックが響く。また事情聴取か何かだろうか?と思考を巡らせながら、スライドされる扉に目をやる。そこに居たのは久しく見なかった私を罵り去った彼女だった。




「何故君がここに....?」
「私、あなたの事務所を辞めてから医療事務に就いたの。オールマイト事務所で働いていたって言ったら警察病院で働ける事になった。」
「それで私を嘲笑いにきたのか」
「ちがうわ」



彼女は何年も前と変わらず綺麗だった。清潔感のあるアジアンビューティー。ツンツンしている割に他人の小さな変化によく気づく人。



「あなたを迎えにきたのよ。」
「迎えに?」
「えぇ。オールマイトは今日死んだわ。あなたは俊典でしかない。」
「相変わらず辛口だね」
「これで私の事だけをみてくれる?」
「..........。」



いつも強気でつり上がった眉毛をハの字にして彼女は私の瞳に語りかけてきた。まさかこの人は私を待っていたのか。何年も。いや、そんな筈はない。

コツコツ、とヒールの音を立て近づいてくる。ローズの香りが懐かしい。彼女は私の手をとった。白くて長い指だ。


「ねぇ、私はあの時と同じ気持ちよ」



1度に沢山の情報が流れ込んできたからか、はたまた大きな闘いの後で脳内に酸素が足りていなかったのか。
私にはなまえが...。
その言葉を口にするのが2秒遅かった。



「俊典さ....ん..?」
「なまえ!」


新しいノックの音にも気づかなかった。塚内君に聞いたのだろう。綺麗な瞳に涙をいっぱいに溜めたなまえが、私達を凝視し言葉を失っていた。


「なまえ!」


御見舞用に買ってきてくれたのであろうフルーツをボトっと落とし、なまえは足早に私の病室を去った。



「待ってくれ!」


私が如何に手を伸ばそうとも届かない。今の私は歩ける状態ではない。大声も出せない。



「あの子、あなたが大好きなのね」
「本当タイミング悪いよ、君は」
「あら?私のせい?」
「ナンセンス 」
「あなたの答えは分かったわ。生きててよかった。さようなら」


ローズの上品な香りを残して彼女は去っていった。


(なまえ......)



身動きも取れないまま、私は白いベッドをダン!と叩いた。