「失礼いたします。」
衝撃の事実を受け止めきれないまま、私は校長室を後にした。事実としてはNo.1ヒーローオールマイトこと八木俊典さんは度重なる手術の為身体が限界に近づいてきているという事。1日の活動可能時間が限られており、常に100パーセントではいられない。そしてその活動限界時間は日に日に短くなってきているという事。
そんな満身創痍な状態で彼は、毎日笑顔で皆を照らし続けている。ヒーロー界の人間が彼1人に責任を押し付けてきたつけなのだろうか。私たちは知らず知らずのうちに彼のおかげでと言いつつ彼に縋ってきていたのだ。
(八木さんって言うのかぁ)
私は私たちが彼1人に頼り続けている状態を情けなく思い、それと同時にオールマイト、という神さまの人間らしい部分について興味が湧いていた。
誰もが眩しくも感じる程光り続けている太陽の神さまは、その光に隠れて素顔は覗くことは出来ないのである。皆は彼の素性について知りたがり、求めるが彼は秘密を守り続けているのだ。
その神さまに、誰よりも早く近づく事ができたように感じた。不謹慎にも少し心がおどった。
(神さま、毎日どんな生活をしてるんだろ)
実は校長から頼まれたのは、今後の入試試験についてオールマイトと共に取り組んで欲しいとの事。教師として不慣れな為ご教授よろしくお願いしますと大きな身体を小さく屈め私に項垂れる神さまの姿に私の方がしどろもどろしてしまった。
「レウくん!」
「?」
1人でブツブツと言いながら歩いていると後ろからマスタード色のスーツを着た大柄の男性が追いかけてきた。その男性は何かコロンを付けているのか、彼の起こした爽やかな風と共にふわっといい香りがした。そう、オールマイトだ。彼は私のところまでくると、すまない、校長先生との話が長くなってしまって、と頭をかきながらニコッと笑ってみせた。
「レウくん、私みたいなおじさんと組むなんて嫌かもしれないけど、今後はよろしくね。レウくん、てお呼びしていいのかな?」
「構いませんよ。私こそ何とお呼びしたらいいでしょう?」
「うーん、オールマイトとバレる呼び方だと不味いかな、HAHA」
左手でこそこそと私の耳元で彼は言った。世間一般ではオールマイトと八木俊典さんはイコールではないのだ。注意を払わないといけないポイントであろう。
「それじゃあ八木さん。八木先生でもいいですか?」
「あぁ。ありがとう。本格的に入試試験が始まる前には他の先生方にもオールマイトと名乗るつもりだから、今の所はそれで頼むよ」
「了解致しました。」
それと本題なんだが...と彼はスマートフォンを取り出した。ケースはオールマイトカラーの赤。彼が持つとスマートフォンも小さく見えて少し滑稽だ。
「ぶっちゃけね、初めての教職で凄く不安なんだ。勿論下心とかは全くないんだけど、でも、今後の資料制作や相談事用に連絡先聞いてもいい?」
「いいですけど、下心って。ふふ。No.1ヒーローにそんな事思わないですよ。」
「えっ?そうなの?こんなおじさんと連絡先交換するの嫌じゃない?」
「嫌じゃありません、それに八木さんはおじさんじゃないです。」
「いや立派なおじさんだよ?でも教師って緊張してさ、授業とか受け持ったら私カンペつくらないと心配。」
神さまは思ったよりも気さくな人だった。そして私は神さまの連絡先を知ってしまった。何だか、変な気分だ。
八木さんとそのまま談笑し、今週金曜日の放課後に資料制作の約束をした。仮眠室の前を通りかかったあたりで私は八木さんと別れ、先程までの会話を思い出し口元を緩ませながら歩いていた。
(オールマイトじゃない時は何だか可愛い人なのね)
「なにニヤニヤしながら歩いてんだよ」
「きゃあ!」
何って目の前に急に汚らしい男がでてきたんだもの。そら驚く。
「イヤに女らしい声がでんだな。コトエにしては」
目の前の男はジリジリと距離を詰めてきた。私は壁に追いやられる。小声でも声が届く範囲になった所で、私はある事に気づく。目の前の男、消さんは実はとても整った顔をしている。汚らしい風貌をしていなければ、彼の周りには常に女性が付きまとっているだろう。
「あ...あの...消、さん?」
「ん?」
彼の顔が整っている事なんて勿論知っていたけど、何だろう。この緊張感。初めて感じる。
「いだ!っ」
息が詰まるような雰囲気を破ったのは彼。盛大に額ににデコピンをかまされたのだ。私は痛みに仰け反る。
ゴン!
そして後頭部を後ろの壁にぶつける。両側の痛みにだんだんと腹が立ってきて、私は消さんの肩に拳でパンチを食らわせると、うぐ、といった声とともに彼は背を向け進み始めた。
「ほら、昼飯おいてくぞ」
背中を向けたまま私に左手をひらひらふる風からすると、いつもの消さんに戻ったようだった。
「昼メシって消さんのは栄養ゼリーでしょ!」
「あ?10秒チャージ」
「他のも食べてよ」
「合理的な食事のとり方なんだよ、これが」
私は小走りに消さんの後ろをついていき昼食に向かった。
「コトエ、さっきのは新しい職員か?」
「あぁ。一緒に入試やら何やら資料作ることになったんです。」
「....そうか。」
初めてみた消さんのその顔は、何だか酷く大人びてみえた。
いや大人なんだけど。私よりもいくつかね。でも男の人って何歳になっても中身は子供みたいなものじゃない?
そんな事を考えながら私は光るスマートフォンに目を向けた。八木さんからだった。
「八木俊典です。今後ともよろしくお願いします。」
メッセージアプリに、ウサギのスタンプと共に彼からメッセージが送られてきていた。とても律儀な人。私のような下っ端ヒーローにまで謙って言葉をかけてくれる。
「レウコトエです。改めてよろしくお願いします。」
私は勿論オールマイトファンなので、持っていたオールマイトのスタンプを添付した。
私は私の心の中にある小さな息吹にまだ気づいていなかった。八木さんの事をもっと知りたい。そう思った。
昼食をとりつつ寝袋に入る消さんを横目に、スマートフォンを眺め私は心なしか頬が緩んだ。
(誰の事考えてにやついてたんだよ)
消さんの小言は勿論聞こえないまま。
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