おねがい夢なら覚めないで

「ねえ、もう寝ちゃった?」



情事の後。ベッド横のサイドランプはついたままだ。私は自身の後頭部の髪の毛に埋もれる男へ問いかけた。
彼は私の首下に腕枕を、そして大きな胸で私を包み込むような形で後から抱きしめていた。まるで子供が大事なおもちゃでも取られないよう抱きしめているかのように。



「......起きてるよ。」




彼、本国のNo.1ヒーローことオールマイトは私の耳元で囁いた。
国民、そしてヴィランからも注目され続ける存在。オールマイトは私の髪の毛を指でさらさらとときながら私の首筋に軽くキスを落とした。




「眠れないのかい?」
「.....んん」



肯定も否定もしない。だが眠れない、と言われればその通りだ。この時私はふと疑問に思った。この人の気の休まる時間はひとときでもあるのだろうかと。つい先日雄英高校の施設がヴィランの襲撃にあったと聞いた。部外者の私には一体何があったのかわからない。




「オールマイトから俊典になる瞬間って、どんなとき?」
「うーん...そうだな」



私がした唐突な問いかけに彼は低く心地の良い声で答える。顔は見えないが、声色で俊典の口角が上がっているのが分かる。



「それは、なまえに帰る時さ」





きゃっと私が声を上げたのには理由がある。彼が急に私に覆いかぶさってきたからだ。心臓が口から出るんじゃないかってくらいドキドキする。目線の先には薄暗い中でも分かる、彼の青い瞳の中にいる私。私が目のやり場に困っていると、彼はどんどん距離を縮めてきた。



「ちょ、ちょっと」
「いやなの?」



つい先程情事を終えてばかりだというのに、まだ解放しきれてない彼から溢れ出すオーラを、私は両手でなんとか遮ろうとした。しかし彼はそれを許さない。



「眠れない、だろ?」




両手をベッドへ繋ぎとめられ、為す術もなく目線をしたにやった。満面の笑みで更に距離を詰めてくる彼。やがて彼の黄金の髪の毛が私の顔へかかる距離になる。




「私はね、なまえの前だとヒーローらしからぬ考えが浮かんでしまう。でもいいんだ。今はオールマイトではなく、俊典だから。」
「と、し....ん」




俊典の名前を呼び終える事無く私と彼の距離は0になる。彼がヒーローから俊典になる瞬間、私はそれを独り占めできるのだ。
私たちにしか共有し得ない、
彼と私の秘密の時間。





「ねぇ」
「?」
「愛してる」
「HAHA、私もさ」






私が彼の頬を撫でると、彼は嬉しそうに私の掌にキスを落とす。この幸せがずっと続けばいいのにと、心の奥底から神に願った。





「....寝つきが良くなるようにもう1回」
「しません」
「え」
「ジャスミンティを温めてくるわ」




両手をだしオールマイトは首を横に振った。この人は身体が衰えたと言いつつも体力はまだまだ健在だ。以前何度も抱き潰されて私の足腰が立たなくなってしまった記憶も新しい。



「綺麗だよ、なまえ」


ライトに照らされた私の横顔を眺めながら彼は呟いた。私は少し照れくさくて無言で暗闇の中、ぼんやりひかるサイドランプの光を頼りに私はキッチンへと向かった。



「俊典」
「ん?」
「ジャスミンティで温まったら..」
「温まったら..?」
「なんでもない」
「え?なになに?聞こえなかったんだけど」



大型犬のように尻尾を振るNo.1ヒーローに背を向け、幸せを噛み締めながら私はポットを取り出した。彼はまだベッドから続きは?ねえ続きは??と叫んでいる。





(もう彼を苦しめる大きな事件が起きませんように)






夜が明けるまで、まだ時間がある。
私達は、甘いひとときを過ごす。ほのかに香るのはジャスミンと、彼と私のフレグランスと。




(おねがい夢なら覚めないで)
(大丈夫、覚めたくないなら私が夢を守り続けよう)





前へ|次へ
戻る