目の前の憎たらしい男は、俺の怒りなんざどこ吹く風というふうにへらりへらりと笑っている。

「何がそんなに面白い…?」
「え、笑えない?人間が創り出した人形に殺されるなんてさ、下克上っての?家畜に手を噛まれた気分?」

殴る価値もないと思い止まる前に自然と手が出ていた。
俺の拳の痛みに比べてよろけることなく、口の端からひとすじの血が滴っても薄ら笑いを浮かべているところが本当に憎たらしい。

「カッとなって殴るなんて、お前も欠陥ありまくりじゃん」
「黙れ!このクソ野郎、今日という今日はぶちのめしてやる!」
「二人ともいい加減にして下さい!捜査中ですよ!」

そんなもん関係あるかと目の前に立ち塞がったコナーを突き飛ばす。
屁理屈こねるだけのクソ生意気なバカを一回殴っただけじゃあ俺の気が収まらねえ。

「おっとと、うわ、アンドロイド重っ」
「す、すみません」
「ナマエ、てめえの腐った根性叩き直してやるからな!歯ぁ食いしばれ!」
「酒に逃げてばっかりのくせによく言うよ、全く」

怒号をあげようとした俺の口内に、やたらに甘ったるい奇妙な味のなにかが放り込まれた。

「…………?」
「えーと、マロンラテ味だって。どう、おいしい?」
「ブッッ!」

つんと鼻にくるような薬品臭さと、栗の味もへったくれもない強烈な甘さにたまらず吐き出す。
ただでさえよろしくない体調に凶暴な甘味が追い討ちをかけるようだ。
なんてものを、この野郎、マズッ!

「やっぱりな。いや食べなくて正解…じゃなくて、現場を荒らしちゃダメじゃないか」
「……ブッ殺してやる…」
「何故更に怒らせるようなことを…?」

俺が未だ舌の上で暴れる味覚の暴力に耐える最中、視界の端でコナーは絶句していた。


結論から言うと変異体は見つかった。
見つかりはしたが逃げられた、否、逃した。
そこにはコナー自身の、プログラム以上の何らかの意図があったように思えてしまう。

銃口を向けながらそれでも引き金を引かなかったコナーは目に見えて動揺していた。
…かく言う俺も、手を繋いで連れ添うふたりを追うのはなんだか野暮な気がして結局見送ったのだが。
ただのセクサロイド2体が心の底から愛し合うなんざ馬鹿げていると、少し前の自分であれば歯牙にも掛けなかったろう。

ナマエはナマエで何が可笑しいのか終始けらけら笑っていた。「愛の逃避行ですねえ!お幸せに!」やっぱりこいつはイカれてやがる。

「お前のせいで余計に疲れたじゃねえか…おい、一杯奢れ」
「やだよこのアル中が。アンドロイドくんお疲れ〜」

軽い調子で吐いた捨て台詞と共に走り去る車をコナーはいつまでも見送っていた。

「おい、俺たちももう行くぞ」
「…彼は」
「ん?」
「彼は、いつになったら僕の名前を覚えてくれるのでしょうか」

知らねえよ。



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