優しい夢を見た。

あまりに酷く、曖昧で、儚く優しい夢。

花の香りも、触れた手の温かく柔らかな感触も、最早空ろになった。

無かったことにしよう、互いの安寧の為に。




壁の外から来た者は処刑されるらしい。

蛆のように湧く群衆を処刑台から見下ろす。
そんな俺を嘲笑うかの如く、壁は今日も天を貫いている。
後ろに控える憲兵の連中も、笑う者も謗る者も、口々に声高に叫ぶ。

殺せ。殺せ、殺せ、殺せ、殺せ………

浴びせかけられる罵声はいよいよ大きさを増していく。

これが海賊が受ける報いだ。
ひたすら自由だけを追い求めて、あらゆる人々を虐げ続けた報いだ。

船や町を襲い、敵を殺し、道を違えたかつての同胞さえ手にかけた。

こんなわけのわからない地獄でみじめに処刑されると知っていれば、海賊なんぞとっくに辞めていただろうか?はなから海へ出ようともしなかっただろうか?

わかっていたはずなのに。

眼窩の落ち窪んだ、背の高い禿げた男が目の前に立つ。

「罪状。壁の外から来たなどと嘯き、何の根拠も無い方便をいたずらに広め、混乱を招いたため。王に対する反逆の意思を持ち、憲兵団の再三の警告を無視し、……」

俺のありもしない罪が朗々と並べ立てられてゆく。
俺は壁の中では誰一人として傷つけてなどいない。むしろ、巨人から助けてやったりしたものだが、そんなことは関係ないのだろう。

せめて、せめて。

死ぬ前にひとめ海を見たかった。

首に掛けられた縄がまるで生を持つかのようにまとわりつく。絞首刑。いつかは逃れられぬだろうと、かつて腹をくくったこともあった。

財宝なんていらない。酒も女も、なんにもいらないから。

透き通った青空と、それを映した海の色。
かもめの鳴く声、聞き馴染んだ船乗りの歌、波飛沫と共に船が進む、頬を撫ぜた風。

全てが遠く、記憶の景色は色褪せる。


足元の床が消えた。
荒縄が容赦なく首に食い込む。
脳は思考を遮断し、体は酸素を求めてもがく。
開いた口から絞められた雄鶏のような情けない声が漏れた。

ああ、死ぬ、死ぬ。死んでしまう。



海で死にたかった。







手にした金なら使い果たした
気心の知れた仲間たちと重ね続けた過ちは
巡り巡って報いを受けた
若きはずみの行いなど、思い出せない
今はもう
さあ、別れの杯を
さらば幸あれ、仲間たち




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