酔っ払い船乗り、船倉へ下りてラッパ飲み
ボトルさボトル、海の男は酒に目がない
タバコさタバコ、海の男はタバコに目がない
若い嬢ちゃんに清らか乙女、海の男は女に目がない
どんちゃん騒ぎにバカ騒ぎ、海の男は宴に目がない
歌おう、歌おう、海の男は宴に目がない
乾杯の歌に愛の歌、海や仲間の歌もある
潮の香りと波の音で目が覚めた。薄闇の中でぼんやり光る焚き火の周りを何人かで囲っているのが見える。
東の空はやや白んでおり夜は明けつつあった。
宴が大層盛り上がったためか、そこらに酔い潰れた連中が死体のように転がっている。
一方俺も酒を片手に眠りこけていたらしい。空き瓶を投棄て二日酔いに痛む頭を振る。
突然頬を何かでしたたかに打ち付けられた。
「起きろ、ナマエ。サッチが呼んでるぞ」
「…キッドか…もう少し寝させてくれ…」
「駄目だ。起きろ」
頬を打ったものは小枝だった。よくしなるそれを、キッドが再び振り抜いた。
「アンタの所為で酷い目にあった。海賊のくせに酒が弱いとはね」
ケンウェイもまだ潰れてるよ、としゃくった顎の先で、眉間に皺を寄せたケンウェイがハンモックで眠っていた。うなされているようだ。
「ああ、おでましだよ」
「よう兄弟、調子はどうだ?」
「ああまったく、最高さ…ウッ」
「そのようだ。随分二枚目になったじゃねえか」
酒瓶片手に黒いあご髭を蓄えた大柄な男が笑う。強烈に酒臭いが、それでもすっかり支度を整えたらしい、酔いなど微塵も残さぬ様子で仁王立ちしている。
「吐いて酔潰れるくらいが丁度いいぜ。何せスペインのガレオンを落としたんだからな」
「少し声を抑えてくれないか…頭が割れそうだ」
「迎え酒だ、飲め、ナマエ!それから最高の女を抱いてこい!」
「……もうほっといてくれ」
頭が痛い。桟橋で寝たためか身体もあちこち痛い。
ハンモックで揺れるケンウェイを尻目に砂浜に寝転がる。女と寝る気にはなれない。鼻の奥にこびりつく血の匂いと、海水でべたつく全身が気持ち悪かった。
「眠るなら女の胸で眠れ!」
「喧しい。気分じゃない」
「そんなら起きろ!船を出すぞ!」
「は?」
「ガレオンをナッソーに着ける。さっさとしろ!」
言うが早いか辺り一面に他の船員を叩き起こす怒鳴り声が響き渡った。
「ああクソ、頭が痛い…」
「ご愁傷様」
肩を叩くキッドの声はやけに楽しそうだった。
俺の話をしよう。
故郷は東方のどこか、たぶん。どうでもいい。かつては私掠船に乗っていた。
卑しい生まれの俺は人身売買の末に清へ渡り、なんやかんやいろいろあって西インド諸島に到達、今ではエドワード・サッチの元でラ・コンコルドに乗っている。
さて、酒も女も賭博も大して好きじゃない、いまいち海賊らしくない俺だが、動物は好きだ。特に鳥。あれはいい。
果てなく広い海はいつも自由だ。
そして、どこまでも続く空もまた自由だ。
鳥と海賊は似てるんじゃないかと思っている。ふと思いついたそれをサッチに言ってみると、お前は脳みそからっぽなところが鳥にそっくりだなと笑い飛ばされた。
俺は自由を愛している。だから、俺は海賊になった。
海賊というならず者に身をやつしたことは全く後悔していない。
肥溜めから生まれた俺にとってこの世界で真っ当に生きていくことは難しく、第一なんだか気に入らない。
ただ碌な死に方はしないだろうと覚悟はしていた。拷問か処刑か、良くて海の藻屑か…一番勘弁したいのは、牢屋でくたばることかな。とにかく床に就いたまま眠るように死ぬなんてのはまず無いだろう。
大時化に見舞われて渦を巻く大海に放り出された時も、頭のどっかで俺は幸運だな、神さまありがとうと人生最初で最後の祈りを捧げたりして、まあ死ぬことに抵抗も恐怖もなかった。
四方八方を壁に囲まれた、訳のわからない街並みの中で目覚めるまでは。
← →
戻る
トップ