骨の砕ける音って聞いたことありますか?弾き飛ばされた歯が転がり落ちる、いやに軽い音は?
俺はね、どちらも一回だけあります。二度と聞きたかないけど。

倒れ込んだ後に頭を蹴られ、いっとき朦朧とする意識の中でひとりのチンピラくんがひときわ甲高く喚いた。何見てんだよ、とか言った気がする。

弱いものいじめは感心しねえな。

やけに渋い、低音の声がそう応えた。

そこからはもう一瞬で、恐らく素手で人体を殴る音と、くぐもった呻き声と、それからちょっとして動けない俺の目の前に白い永久歯がころころと転がってきた。

それらの音が静かになった頃、やっとの思いで頭を上げて恐る恐る周囲を見回すと、酷く凹凸した顔面を更に歪めて、許してください、もうしません、と泣きじゃくっているチンピラくん。

アスファルトの道路には点々と血が跳ねているし、残りの2人は完全にのびているし、一体全体何が起こったんだ?

間抜けにもぽかんと放心する俺に、例の声が降ってきた。

「大丈夫か?頭を蹴られていたから、病院に行った方がいいぞ」

「は…?」

この神室町で、見ず知らずの俺を助けてくれるなんて、どんな正義のヒーローだろうか?

少しだけどきどきしながら見上げると、任侠映画からそのまま飛び出してきたかのような、文字通りのヤクザがそこにいた。

グレーのスーツに、赤の派手な開襟シャツ。勿論ネクタイなんかしていない。
大柄な身体つきに乗っかっている顔は絶対にカタギじゃない、上手く表現できないけれども、とんでもない修羅場をいくつも潜り抜けてる、って感じの険しいもの。

「…………っ、」

俺の顔が引きつったところを見て何か察したのか、じゃあなと軽く手を上げるとさっさと歩き出してしまう。

いくら相手がヤクザだろうが、流石に命の恩人にお礼もせず行かせるわけにはいかないだろう。

「あっ、ま、待って…!」

慌てて立ち上がろうとして、ぐにゃっと視界が歪んだ。お腹も痛くて、とても膝に力が入らない。
頭蹴られると、こんなんなるんだ…

「おい!」

ああ、咄嗟に支えられた腕がとても逞しい。でもやっぱり、ちょっと、いやかなり怖い。

「すみ、すみません…あの、ありがとうございました…」

そのヤクザは情けなくもズタボロの俺を見下ろして、少し眉を下げ困ったように、気にするな、と笑った。




戻る

トップ