次は、新宿、新宿です。お降りのお客様は、お忘れ物のないよう……

はああぁぁぁ

とてつもなくでっかいため息が出る。出したくもなる。
この世の終わりのように手で顔を覆った俺を見て、隣に座る若い女がいかがわしそうに俺を睨んだ。

大量の人に押し流されるように電車を降り、流れ作業の品物になった気分で改札をくぐり抜ける。下水の臭いが鼻をかすめ、生暖かく不快な空気が肌に纏わりつく。

この町は、とても好きになれそうにない。



何かお礼をさせてください。

あの日、いかめしいヤクザの上腕二頭筋にびくつきながら絞り出したのは、実にありきたりな台詞だった。

ヤクザさんにはそんなものは必要ない、としぶーい声で断られたのだが、なんてったって命の恩人だもの。恐らく生きている内、二度と関わることなんか無い人種だもの。

やらなきゃ殺られる。

リンチ後のためかアドレナリンドッバドバで軽くラリっていた俺は、何をどう間違えたのか「一杯お茶でもどうですか?」なんて切り出してしまったのだ。ナンパする男か。
そしてヤクザさんもお茶程度ならと快く引き受けてしまったのだ。ナンパされた女か。

あのとき、初めて俺は俺を殺したいと思ったね。

彼にはこの後まだ予定があるとのことなので、お茶会は後日改めて、と互いの電話番号まで交換した。
大きな手に不釣り合いなほど小さく見える携帯電話を一生懸命操作するところは、ちょっとだけ面白かったけど。

ヤクザの名前は桐生さん。

ディスプレイに映し出されている桐生の漢字二文字が、確かに自分で登録した筈のものなのになんだかしっくりこない。

首を傾げながら待ち合わせ場所に行くと、彼はまだ着いていないようだった。
あの人はかなり目立つから、実際に会うのは二度目だけれどすぐに見つけられる気がする。

ごった返す人の群れに隠れるようにして、約束のことなんかすっかり忘れてくれていればいいのになあと内心合掌した。


「お前かいな、桐生ちゃんとデートする輩ってのは」




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