ちゃんと生きるって、どういうことだろう。
いつだったか、あのぼうやに呟いた言葉を反芻する。

好景気の波に乗って金儲けをすること?
言われるがまま他人を殺して報酬を得ること?
大切なひとたちの支えになって助けてあげること?

哀しいかな、ぜんぶがぜんぶわからない。
だけど俺は、俺が思うようにちゃんと生きようと思ったのだ。
烏滸がましいにも程があるけれど、西谷くんのようにドブに沈む人間を浚ってやれるくらいには頑張ってみようと。

酒の勢いに任せることはけして褒められないだろうが、もう俺にはこれくらいしか手段は残されていなかったから。



その辺の居酒屋や人で賑わう通りから、酔っ払いながら楽しそうに歩く名前を見かけることはなくなった。
真島く〜んと呑気に呼び止められることも、ババア共をけしかけられることもない。
グランドや他のキャバレーにも、めっきり姿を見せなくなったようだ。
そういえば、先程ごつい金髪の小学生から、いつものアホどこにおるんやと詰られた。知るか、誰にでもアホで通じると思うな。

折角ひとがわざわざ引っ越しの挨拶かましてやるつもりだったのに。びっくりしてあたふたしている姿が目に浮かぶ。

え〜真島くん、なんでなんで!?どこ行くの、神室町?こんど遊びにいくね〜!
みたいな。

以前は嫌になるくらい顔を付き合わせていたというのに、肝心な時にいないなんて。
どこまで俺をコケにすれば気が済むんだ、あのアホは。


真島くんへ

ちょっと鬼ころし買ってくる
水洟や 鼻の先だけ 暮れ残る
お酒はほどほどに

追伸
グランドのツケ払いに行けないかもマジごめん
でも真島くん優しいからいいよね


「…なんやこのフザけた書き置きは…」

蒼天堀のアパートを引き払う際に見つけた、無造作にポストの奥に突っ込まれていた紙きれは名前からのものだった。
裏側をひっくり返しても日光に透かしても、書いてあった言葉はあれだけ。
最後があんな別れ方だったから、一言謝ってやろうと思っていた。

あいつはそんなものことごとく無視していくんだな、だから、アホなんだ。

風の噂で、蒼天堀に潜伏していた渋澤組にひとりでカチコミをかけた男がいたと聞いた。
鬼ころし片手に銃を乱射し、げらげら笑いながら死んでいったらしい。
それが原因で、椿園からマコトを追跡する部隊に遅れが生じたとかなんとか。

「アホやなぁ、ほんま…」

俺は目の前のドブ川に紙きれを投げ捨てた。
何故だかそうしてくれと、名前が嗤った気がしたから。




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