「…ってことがあったんだよねぇ。もうひどい目にあったよ…」

「あははは、か、かわいそうその人…!」

「笑いごとじゃないよマコトちゃん、彼は尊い犠牲になったんだ…」

「けっけしかけたの、名前さんじゃないですか、あはは!」

現在俺はオバタリアンとの戦いにおいて負った心の傷を癒すべく、整体を行ってもらっている。
整体師はマコトちゃんというのだが、彼女は腕も良く可愛らしい上に真面目で誠実で、もう天使のような子なのだ。
おしゃべりしているだけでなんだか癒されるので、何かと理由をつけて来てしまう。こんな妹にお兄ちゃんって呼ばれたい人生だった。

「プーッ、あははは…」

「いや、笑いすぎじゃない?」

「だ、だって…フフッ、くくく…」

ケラケラと楽しそうに思い出し笑いをして、それでも施術が疎かにならないところはやっぱり流石だなあと思う。
しかし大阪に住んでいながらオバタリアンが彼女のツボに入るとは思わなかった。意外と笑いの沸点低いのかもしれない。


マコトちゃんのおかげでだいぶ気も晴れたし、さて飲みに行こうと招福町周辺をぶらぶら歩く。
あっちの居酒屋もいいな、いやオデッセイもいいかな、まだ営業してないか。
そんなことを考えながらボーッとしていると、不意に肩をぽんと叩かれた。

「よぉ…名前、さっきはよくもやってくれたな…」

「ブッ!」

ドスの効きまくった声に凄んだ表情とは裏腹に、さぞあのオバチャン達に可愛がってもらったのだろう、真島くんは顔じゅうやらワイシャツやらにキスマークをたくさんつけていた。

「これは…惨い…」

「ようやく見つけたで…おどれのせいでエライ目におうたんやぞ…」

「ごっごめ、むり…腹いた…」

だって普段ニヒルでクールを気取っている二枚目がこんな無様な姿になるなんて、一体誰が想像できただろうか?大阪のババア恐るべし。

「このドアホ、謝って済むなら警察いらんねん!どない落とし前つけたろか、名前…!」

「ごめんごめん、奢るからさ、飲み行こうよブハハハハハ!」

「笑うな!」

腹がよじれるくらいひとしきり笑ったあと、ぷりぷり怒っている真島くんをなだめすかして一晩中飲み明かしたのだが、俺以上に管を巻く彼を見るのは初めてだった。
よっぽど嫌だったんだね、でも面白すぎるから写真撮っていい?
俺は真島くん渾身の回し蹴りを食らい、天を仰いだ。




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