スワンプマンの思考実験に答えは用意されていない。
本物か、偽物か。
男が死んでいるならばスワンプマンこそ本物となる。
男が死んでいようがスワンプマンは偽物である。
物理的、精神的、あらゆる側面に各々の価値観も交え、多種多様な見解を論じることで自己の同一性を考察する、というのが主旨だ。
思考実験においては現実的な不都合を排除して構わないから、例えば男が生きていてスワンプマンが複製された場合はどうなるか、なんて状況を考えてみることも不可能ではない。
つまるところ思考のお遊びである。
だからこの実験に興じる者達は、時折もしも自分が知らぬ間にスワンプマンにすり替わっていたら、という想像をする。
事故や病気により意識を失っていたとき。
突然記憶喪失になってしまったとき。
一日の終わりに眠りに就くとき。
それはどんなに恐ろしいことだろう!
このひろいひろい宇宙上であろうと、私のことを正しく証明してくれるものは存在しないのだ。
ただのひとつも!
-おひさしぶりですね、馬場くん。
「…こんばんは。名前さん」
久方ぶりに現れた、ある種懐かしさすら覚えるこの若人にくだらぬ談議を持ちかけたのは、年齢の割に落ち着いた言動から建設的な意見が聞けるであろうと踏んだ上での、気紛れだった。
つまらないと一蹴され、相手にされなくとも構わなかったのだ。
「約束しましたよね。貴方を言い負かすことができたら、貴方のことをひとつ教えてくれると」
-勿論ですとも。ですが君は、とっくに答えを持ち合わせているようですがね。
「質問すらしていないのに、わかるものなんですか」
私の眼と唇は自然と弧を描いた。
男ならば、そうやって微笑うのだ。いつもそういうものだったから。
-私が偽物であると、どうぞ証明してください。
-私が本物であると、どうか証明してください。
ごぽり、ひとつの喉からふたつの音が出た。
あやふやなままでは、泥に還ってしまいそうで。
私とは、何なのだろうか。
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