金が動くところには色んなものが群がる。
企業然り、政治家然り、極道然り。

名前さんは今メディアで最も取り沙汰されている宇宙開発の研究主任だった。
水星だか火星だか、とにかく太陽系の惑星に探査機を飛ばす事業。
少し調べれば判明した事実だ。
あのひとは宇宙に携わる人種だったのかと、例の一種独特な雰囲気を思い返して腑に落ちた。

「その人が、冴島さんとどういう関係が…?」

「………知らんならええわ。忘れてくれや」

「で、でも」

冴島さんは煙草を灰皿に捨てるとベンチから立ち上がった。
もう彼のことを話すつもりは毛頭無いようだった。

「怖いんですよ」

「あ?」

「あのひと…怖いんです。上手く説明できないけど…普通じゃない」

無意識に声が震えてしまう。
あの、気色悪い寒さが纏わりついて離れてくれない。
俺は縋るように冴島さんを見上げた。

彼は仕方がなさそうに白く短い溜息を吐いて、新たな煙草に火を点けた。


国家をあげた大規模な宇宙開発ともなれば、巨額の金と利権が絡む。
名前さんは私欲まみれな泥沼の渦中においても誠実な研究者だったようで。
惑星探査機の開発に情熱を注いできた彼にとって、とあるタブロイドがすっぱ抜いた汚職は例え研究に差し障るとしても見逃せなかった。
けれども、単身汚職の真相を探ろうとした名前さんを上層部が許しておくはずもない。

「酷い事故に遭うたらしくてな。もう助かる見込みはないいうて医者も匙を投げたんやと」

「え……嘘だ…だって、」

「馬場ちゃんの話やとぴんぴんしとるようやが、本当のところは俺にもわからん。どうせ又聞きやしな」

所詮裏方の掃除が主だった仕事だろうが、汚職の背景に東城会の連中が一枚噛んでいたために、冴島さんでも彼の名前だけは知っていたそうだ。

知りすぎてしまったのか、警告に耳を貸さなかったのか。
役職の剥奪で済めばよかったものを、結局彼はその命を狙われることになった。

であれば何故、あのひとは月見野のバーに現れることができたのだろう。

「馬場ちゃん。もうあの男には関わるなや…とてもじゃないが、良いもんには思えんわ」

「…………。」

問題ない。せいぜい数回ほど酒を飲んだだけの赤の他人だ。
神室町に来てからも彼の存在を意識したことなどないんだから。
これからも月見野の、あのバーにさえ行かなければ大丈夫。

大丈夫な筈なのに、俺は心の底から怯えていた。




戻る

トップ