Ora Orade Shitori egumo
わたくしの兄は静謐でした。静かな雪のようなひとでした。
兄はわたくしを純粋で真っ白な雪のようだとうたいましたが、わたくしにとっては兄こそが、白い羽の如く軽やかで美しいひとでした。
お小さいころは溌剌としておりましたが、十もゆかぬころには床に伏せることもまま御座いました。
それでもやがて、産屋敷さまのお館で勤めるようになると、きまって藤の花を差し入れてくださいました。稀血でもなんでもないわたくしを、いつも気遣ってくれました。
わたくしは、もういくばくも生きてはおれぬわたくしは、せめて兄の負担にだけはなりたくないのです。
矢張り永らえぬ兄の足跡を余すことなく綴りたいと思います。
わたくしども兄妹は、揃って大人になれぬと医者に告げられたのでした。
兄は産屋敷さまのもとへ奉公にまいりました。
あくまでも一介の庭師でしたが、お掃除、お洗濯、お買い物、器用な兄はそつなくこなされます。お料理は、あまり上手くないようでした。
柱の方を間近で見るたび羨ましいと歎息なさっておりました。健康なからだを持つ彼らが己よりも先に逝くことに涙しておられました。
鬼を殺すために身命を賭すさまを、若い命の散るさまを、目を逸らさずに見つめておられる方でした。
やがて兄は、本来ならばわたくしが嫁がねばならぬところを、わたくしの心労を気遣って良家の娘の元へ婿として行って仕舞われました。
以下は、その時分訪ねていらした、煉獄杏寿朗さまのお言葉でございます。あのときの煉獄さまのごようすは、とても印象強く記憶に残っております。
「ご足労誠にありがとうございます。けれども兄は、もう此処にはいないのです」
「…さうですか。どちらへ?」
「何も言うなと申しつかっております」
「そん、な。何故…俺は…」
珍しく取り乱したらしい煉獄さまは、しきりに手の指を組んだり解いたりしておりました。黄金の髪が夕陽に照らされて美しかった。
同じ黄金の瞳がわたくしをとらえて、そうして逸らされました。兄とは違うと、そう眼前に突きつけられたようでした。
あれ以来、煉獄さまはお姿を見せません。兄の元へ通っていることは、愚鈍なわたくしにもわかりました。
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