「また来たのかい」
「べつにいいじゃないか、減るもんでもなかろう」
小さくため息して、名前は背を向けた。彼の嫁ぎ先を調べ上げた俺の執念なぞ、最早どうでもよいようだった。
病的なまでに白い彼からは、あの病床に臥す妹と同じくらい生を感じられなかった。
生きることを諦めたような彼を、どうしても放って置けなかった。
「柱とは、暇なのだね。俺なんかのところへ来たってなんにもなるまい」
「柱にも息抜きは必要なのさ」
ふうん、と名前は、藤の香のする俺を目を細めて見た。生来花に囲まれてきた彼にとって、今の生活は到底耐えられるものではなかろうに、それでも気丈に振る舞っていた。
「柱といえども、上弦をやるには些か手こずるだろう。君も毒の使い方を覚えるといい、力任せなだけではいずれ足元をすくわれるよ」
かねてより名前は俺を見るなり口を酸っぱくしてこればかり言っていた。胡蝶の受け売りというよりはむしろ、俺が死ぬることを見据えて助言しているようだった。
時折彼は、未来の先を見てきたかのような台詞を吐くことがある。いつどこで、など具体的な詳しいことはわからないのだが、彼がそう言えば確かに信憑性のあるように聞こえるのだから不思議だ。
「勿論わかっているさ。けれども俺は、炎柱だからなあ。毒はあいつの専売みたいなものだから」
「そんな言い訳ばかりして。女しか毒を扱えぬと、定められたわけでもあるまい」
そう吐き捨てて、名前は小さく震える左手を抑えた。
ただひとりの妹を守るために苛烈な境遇に身を置く彼は、酷く弱って見えた。
堪らずその手に手を重ねる。名前の黒々とした瞳が俺を捉えた。
「子を為せと言われるんだ。当たり前だ、俺は婿なんだから…ああ、でも…」
駄々をこねるように嫌々と首を振る。体が思い出したのか、ぞわりと身慄いした。
妹には内緒にしてくれと、蚊の鳴くような声で呟いた。
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