可哀想に。可哀想に。
あんまり辛いなら、涙なぞ堪えなくともよかろう。
どこまでも高潔で、美しい名前。
お前の妹は、どうして鬼に喰われたのだろう?



「名前、具合は如何だ」

返事は無い。
ずっと窓の外に降り積もる雪を眺めてゐる。
かさついた唇が割れて、血がひとしずく、生白い首筋にぽとりと落ちた。

名前の妹が死んでから暫く経ったが、彼は相も変わらず抜け殻のようであった。
生き甲斐を失ってなお強かに泥をかぶって生きていくことは、到底出来ないようであった。
可哀想に。

「可哀想に…あんなことになるなんて」

新たな花瓶に花を活け、水差しの水を変えてやる。名前には焔のような紅が似合うと、俺はいつも思っていた。だから今日は、冬牡丹だ。

「俺が、護ってやれればよかったんだが…言葉もない」

不意に名前が俺を見た。黒々とした切れ長の瞳。
ぽとりぽとりと、やはり血は垂れている。

「…御守りが、ないんだ」
「御守り?」
「雪子に持たせていた藤の御守りが…探しても探しても、何処にも無いんだ…」

藤の御守り。雪子が。譫言のように繰り返す。
どこまでも愚蒙で美しい名前。
首のところの、真っ赤な血の滲みをべろりと舐めた。

可哀想に。




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