目の前でなまえが死んでいる。
横たわった身体から流れる血はとめどなく、じわじわと血溜まりを広げてゆく。
生気を失った顔には涙のあとがひとすじだけ残っていた。
ついさっきまで確かに生きていたはずのその男は、いまや冷たい骸となり果てて。
俺は、子供のように声を上げて泣いた。
飛び起きる。
眼前には暗闇ばかりが広がっている。
なまえの死体も血溜まりも、無い。
どうやら今の今までベッドで眠っていたらしい。暗い室内には時計の音だけがかちかちと響いている。
いまは何時だ、いや、どうでもいい。
なんとか呼吸を整え、ぼやけた脳みそで夢を見たのだと理解するまでに数秒を要した。
…心臓が、うるさい。
隣のベッドには今晩たまたま同室となったなまえが寝ているはずだ。
胸糞悪い夢の内容に拭いきれない不安を覚え、再び横になる気にもなれず。
意味なく暗闇に慣れない目を瞬かせていると隣から起き抜けの掠れた声が聞こえてきた。
「…なんか、うなされてた?」
「…なまえ……?」
起こしてしまったのだろうか。
そんな心配よりも無性に顔を確認したくて、体温を感じたくて、思わず手を伸ばしていた。
ふたり分の体重でベッドが軋んだ音をあげた。
「んー…?」
ちょうど触れたところは彼の鼻先だったようで。そのまま指先を頬に這わせ柔らかなそれを軽くつまむ。
「眠れねえの…?」
ガキ、と呟いて微かに笑ったらしい奴はゆっくりと優しく、幼子を安心させるかのように俺の手を握った。
「…………。」
勝手に他人の夢に出てきて勝手にくたばった挙句、呑気に寝くさりやがって。
どうせこいつは寝ぼけてるんだから、これぐらいしたっていいだろう。
安宿のシングルベッドに男二人で寝付くことは多少無理があった。
翌朝頭を叩かれて目覚めると、なまえの身体はベッドから半ばはみ出た状態にあった。
無意識のうちに腰に回していた腕が苦しいのか、とっくに起床していたなまえは顔を歪めて俺を睨みつけている。
そして男性二人分の肉体を無理矢理収めた安普請なベッドは、少し身じろぎしただけで悲鳴をあげた。
「…ン…おはよう…」
なまえは答えず、さっさと腕を外せと言わんばかりにもう一度俺を小突いた。
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